第620話 託された想いと聖剣

「これを飲めば楽になります……後の事は任せてください」

「助かるでござる……」

「止めろ、止めるんだ二人とも!!」

「そんな事をしてもレイナが喜ぶと思っているのか!?」

「命を無駄にするな!!」

「……この命、レイナ殿に救われた時から拙者の命はレイナ殿に捧げると決めていたでござる」



リリスから薬を受け取ると、ハンゾウは手にしていた聖剣フラガラッハを地面に突き刺すと、一気に薬を飲み込む。その光景を見ていた者達は息を飲み、やがて彼女は地面へと倒れ込む。




「ハンゾウ!!吐け、吐き出すんだ!!」

「おい、しっかりしろ!!目を覚ませ!?」

「……」



倒れた彼女をすぐにリリスが抱き上げると、他の者もハンゾウの元に向かう。リリスはハンゾウの腕を掴み、脈を計ると黙って首を振った。



「……脈が止まりました」

「そ、そんな……嘘だ、こんなの嘘だ!!」

「ハンゾウ……この馬鹿、大馬鹿がっ!!」

「…………」



リルとチイはハンゾウの身体に縋りつき、その様子を他の者達は痛々しい表情を浮かべる。しかし、彼女の死を悲しんでいる暇はなく、すぐにリリスはネコミンに視線を向けて彼女にフラガラッハに触れてもらう。


ネコミンは恐る恐る聖剣に触れるが、特に何も反応は起きずに普通に持ち上げる事が出来た。その様子を見てリルとチイはハンゾウの言った通りに所有者が死亡した事により、聖剣の所有権がハンゾウから剥奪され、他の人間が触れるようになった事を知る。



「リリス、どうしてこんな真似を……」

「今は泣き言も恨み言も言っている場合ではありません!!事情は後で話しますから、その聖剣を早くレイナさんに送り届けないと!!」

「ですが、どうやって……あの炎をどうにかしない限り、聖剣を送り込む事は出来ません」



ハンゾウの死に涙目を浮かべながらもティナは炎の壁に視線を向け、聖剣を送り込むにも炎が邪魔をしてレイナに送り込む手段がない。仮に投げつけたとしても下から火山のように噴き出す炎によって弾かれるのは目に見えていた。


この炎の壁を突破しなければレイナには武器を渡せず、方法を探す必要があった。リリスは色々と考え、ティナが所持していたはずのデュランダルを思い出す。



「そうだ!!ティナさんが持っていたデュランダルであの炎の壁を衝撃波で吹き飛ばせませんか!?」

「デュランダルで……分かりました、やってみます」

「待て!!お前は自分の身体の状態が分かっていないのか!?そんな状態で無理に動けば死んでしまうぞ!!」



リュコがデュランダルの回収に向かおうとしたティナを引き留め、彼女もここまでの戦闘で重傷を負っており、こんな状態でデュランダルを扱えば命が危ない。それでもティナはレイナを救うために彼女は告げる。



「私の身体など、どうでもいいのです!!レイナ様のため、そしてハンゾウさんの思いを報いるためにも私が何とかします!!」

「ティナ……」

「駄目だ、ハンゾウも失って君まで死んでしまえばレイナ君は一生後悔するんだぞ……止めるんだ」

「その時は皆さんであの方を慰めてください……私もレイナ様に救われた身、この命を捧げる事に後悔はありません」

「駄目っ!!そんなの、サン許さない!!クロミン、頑張って炎を消して!!」

「ぷるるっ(も、もう身体が干からびてきつい……)」



サンは諦めずにクロミンの身体から水分を絞り出して炎の壁を消火しようとするが、普通の水では炎が消えることはない。その様子を見てティナは自分がやはりデュランダルを使うしかないと思われた時、彼女の身体を飛び越えて銀色の物体がネコミンの元へ向かう。



「ぷるる~んっ!!」

「にゃっ!?」

「し、シル!?」



半ば氷かけていたシルがネコミンの胸元に体当たりすると、彼女はその衝撃でフラガラッハを手放してしまい、そのフラガラッハの柄をシルが噛みつくと、炎の壁へと向かう。身体がまだ完全に溶け切っていない状態でシルは聖剣を咥えたまま飛び込む。



「ぷるんっ!!ぷるるんっ!!」

「シル、駄目です!!戻ってきなさい、シル!?」

「まさか、炎の壁を突破するつもりか!?」



シルはフラガラッハを咥えた状態で炎に飲み込まれ、その様子を見ていたティナは手を伸ばす。すぐに他の者が彼女を取り押さえた――






――同時刻、炎の壁に取り囲まれた状態でレイナはナナシと激戦を繰り広げ、身体のあちこちが凍傷を負いながらもナナシと向かい合う。その手にはもう原型すら留めていないデュランダルが握りしめられていた。



「はあっ、はっ……こ、ここまでだ勇者……!!」

「くそぉっ……!!」

「これで終わりだぁっ!!」



ナナシは氷魔刀を振りかざすと、その動作を見てレイナは避けられないと思った時、突如としてレイナの背後から炎に包み込まれたシルが出現すると、ナナシの顔面に向けて飛び込む。



「ぷるりんちょっ!!」

「ぬおっ!?」

「えっ!?」



炎を纏ったシルの体当たりによってナナシは怯み、氷魔刀の狙いがずれてレイナの所持していたデュランダルだけを弾く結果となった。両手からデュランダルが離れたレイナは空中に浮かぶフラガラッハに視線を向け、手を伸ばす。


シルの元から離れたフラガラッハを手にすると、炎の壁を突破する際に加熱した柄を握りしめた事により、凍り付いていた両手が解かされる。そして聖剣を手にした瞬間、レイナに電流のような物が走り、聖剣が光り輝く。

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