第619話 炎の壁
「終わりだぁあああっ!!」
「うわぁっ!?」
「そ、そんなっ!?」
「勇者殿の剣がっ!?」
デュランダルの砕け散る音が鳴り響き、レイナの身体が後方へと吹き飛ぶ。この際にナナシの振り下ろした刃が地面へと叩き込まれ、炎と冷気によって地面に燃え上がった跡と、氷結化した跡が交差する形で叩き込まれる。
「ば、馬鹿なっ……聖剣が、壊されるなんて……」
「呆けている場合ですか!!レイナさんを助けないと!!」
「きゅろっ!!」
「ぷるるんっ!!」
リリスは即座にレイナの元へと駆けつけるように全員に指示を出すが、それに対してナナシは他の者が動く前に剣を突き刺し、魔剣の力を解放した。
「させんわぁっ!!」
「うわっ!?」
「きゅろろっ!?」
「ぷるんっ!?」
ナナシが炎魔刀を地面に突き刺した瞬間、レナとナナシの周辺に炎が発生すると、まるで二人を取り囲む壁のように遮ってしまう。近づいただけで肌が焼けるほどの熱量を放ち、熱耐性を持つレイナでも通り抜ける事は不可能な炎の壁を作り出す。
逃げ場を失ったレイナは折れたデュランダルを握りしめるが、既に聖剣としての機能は果たさず、反応を示さない。炎魔刀を地面に突き刺したナナシは氷魔刀を構えると、レイナと向き合う。
「これで我の役目も終わる……勇者よ、観念するがいい!!」
「くぅっ……!!」
氷魔刀を構えるナナシに対してレイナは大剣を構えるが、もう刀身の半分以上が折れてしまい、効果も失う。そんなレイナに対してナナシは氷魔刀を放つ。
「ふんっ!!」
「うわっ……て、手がっ!?」
「これで、お前の厄介な能力は封じたぞ!!」
折れた大剣で氷魔刀を受け止めた瞬間、レイナの手が凍り付いてしまい、指が固まって文字変換の力が封じられてしまう。そんな彼女にナナシは氷魔刀を振りかざし、叩きつける。
「ぬんっ!!」
「くぅっ……!!」
「まだ受ける力はあるか、だがこのまま氷漬けにしてやろう!!」
どうにかナナシの大剣を受ける事には成功したレイナだったが、氷魔刀の放つ冷気によって徐々に身体が凍り付き、彼の持っている「防寒」の技能だけでは耐え切れなかった。
このままでは氷漬けにされるのは時間の問題であり、どうにかレイナは反撃の手段を考えるが、良案が思いつかない。炎の壁に阻まれては味方の援護も期待できず、レイナは追い詰められていく。
「くそっ、こんな炎如き……!!」
「駄目じゃ、迂闊に近づくでない!!触れなくとも近付くだけで溶かされるぞ!?」
「クロミン、みずてっぽー!!」
「ぷるっしゃああっ!!」
炎の壁の外からレイナを救い出すために他の者が色々と試すが、スラミンが放つ水を受けても炎は消化される様子はない。只の炎ではなく、魔法で作り出された炎は普通の水では消える事はない。
「くっ……中はどうなってるんだ!!」
「空から飛び移って中に入る事は出来ないのですか!?」
「駄目です、見てください!!この炎の壁は簡単には飛び越えられません!!」
炎の壁は近くに存在する建物よりも大きく、これでは上から飛び移って中に侵入する事も出来ない。火属性に対抗するには水属性の魔法しかないが、生憎とこの場に水属性の使い手は存在しない。
話している間にも中のレイナが危険に晒されており、このままでは彼女の身が危ない。せめて武器を渡す手段があればいいのだが、レイナが代わりに扱える聖剣はこの場には存在しない。
「くそっ……私達が受け取ったこの武器をレイナ君に渡す事が出来れば!!」
「駄目ですよ、渡す手段があったとしても既に所有者は私達の名前に代わってるんです。仮に武器を送る事が出来ても拒否反応を引き起こします」
「なら、どうすればいいんだ!?」
「……拙者に手があるでござるよ」
「その声は……ハンゾウ!?」
炎の壁の前に集まった者達はハンゾウの声を耳にして振り返ると、そこにはネコミンに肩を貸して貰ったハンゾウが存在した。姿が見えないと思っていたらハンゾウはネコミンに助けてもらったらしく、彼女は半死半生の状態で自分がレイナから授かったフラガラッハを取り出す。
「この聖剣をレイナ殿に返す時が来たでござる……」
「ハンゾウ、駄目なんだ……僕達が貰った聖剣はレイナ君でも使う事は出来ない」
「それは違うでござる……前にリル殿が言っていたではないでござるか、レイナ殿と最初に会った時、リル殿はレイナ殿のフラガラッハを持ち出したと……」
「えっ……?」
ハンゾウの言葉にリルは呆気に取られた表情を浮かべるが、そんな彼女にハンゾウは自分の身体に視線を向け、最後の賭けを行うように告げる。
「拙者が死ねば聖剣の所有者はいなくなる……そうなれば聖剣は新たな使い手を探し出す、恐らくその時はこの聖剣は自分を扱うのに最も相応しい人物を選ぶはず……そう、勇者殿を……」
「ハンゾウ、お前……!?」
「迷っている暇はないでござる、リリス殿……お願いするでござる」
「……分かりました」
「リリス!?」
リリスはハンゾウの考えを読むと、彼女は一本の薬瓶を取り出す。それは禍々しい色合いを放ち、誰の目から見ても明らかに危険な薬だった。
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