第617話 勇者到来
「喰らいなさい、化物!!この魔導砲でぶっ飛ばしてやります!!」
「何……!?」
「ば、馬鹿!!そんな事を口にするな!!」
魔導砲の発射の準備を行うリリスの言葉にナナシは目を見開き、他の者は慌てふためく。そんな事を口にすればナナシが黙って見ているはずがなく、案の定というべきか彼は二つの大剣を掲げてリリス達の元へ向かう。
「何をするつもりかしらんが、どんな武器だろうと我が剣で破壊してやる!!」
「引っかかりましたね、このダボがぁっ!!」
「きゅろっ、退避っ!!」
「ぷるんっ!!」
接近してきたナナシに対してリリスは勝ち誇った笑みを浮かべ、サンとスラミンと同時に荷車から離れる。その様子を見てナナシは予想外の行動に驚いたが、既に振りかざした炎魔刀は魔導砲に迫っていた。
「ふんっ……!?」
「皆さん、伏せてぇっ!!」
炎魔刀が魔導砲に衝突した瞬間、魔導砲が砕けて内部に相談されていた火属性の魔石が炎魔刀の高熱に反応し、爆発を引き起こす。その威力はすさまじく、地面にクレーターが生じるほどの火力だった。
至近距離から爆発を受けたナナシは派手に吹き飛び、近くの建物に突っ込むと壁どころか建物を全壊させるほどの衝撃だった。その様子を見ていた者達は唖然とするが、リリスの方は額の汗を拭う。
「ふうっ、上手く行きましたね……試作品を失ったのは惜しいですが、これで私達の勝利です」
「な、何だ今のは……」
「た、倒したのか?」
魔導砲を敢えて犠牲にする事でナナシに至近距離からの爆発を浴びさせる事には成功したが、本当に倒したのかと近くの騎士が全壊した建物へと近づき、吹き飛ばされたはずのナナシの様子を伺う。先ほどの爆発の威力なら普通の人間ならば木っ端みじんになってもおかしくはない威力だが、瓦礫の山と化した建物を覗き込んだ瞬間、その兵士の胴体に刃が突き刺さる。
「ぐおおおおっ!!」
「がはぁっ!?」
「ば、馬鹿なっ!?」
「嘘でしょう!?」
瓦礫を払いのけて兵士を剣で串刺しにしたナナシは起き上がると、獣のような咆哮を放ちながら兵士を吹き飛ばす。腹部を突き刺された兵士は全身が燃えながら地面へと叩きつけられ、絶命してしまう。
先ほどの爆発を受けながらも生きていたナナシに全員が驚き、一方でナナシの方は全身から煙を纏いながらも街道へ戻ると、口から大量の煙を噴き出す。
「がはっ!!げほっ、げほっ……い、今のは……死ぬかと思ったぞ、一瞬とはいえ、この俺に死の恐怖を覚えさせるとは……許さんぞ、人間ども!!」
「うわっ……完全に切れちゃってますね」
「だが、損傷は与えられてた!!諦めずに戦うんだ!!」
「こいつだって不死身じゃない、倒せる敵だ!!」
至近距離の爆発によってナナシも無傷ではなく、そんな彼に対して皆は立ち上がって戦おうとするが、そんな彼等にナナシは咆哮を放つ。
「おぉおおおおおっ!!」
「くっ!?」
「ま、またかっ!?」
「うるさっ……何の真似ですかっ!?」
鼓膜が破れかねないほどの大音量で叫ぶことで聴覚が鋭い者達を耳を塞がせ、その間にナナシは動き出す。彼は両手の大剣を振りかざし、まずは自分をこんな目に遭わせたリリスを狙う。
「死ね、人間がぁっ!!」
「っ……!?」
「リリス、危ない!?」
リリスは接近してくるナナシを見て咄嗟に懐に手を伸ばし、数本の小瓶を取り出す。中身は魔石の粉末を組み合わせた戦闘用の薬剤だが、彼女がそれを放つ前にナナシは大剣を振りかざす。
このままではリリスが斬られるかと思われた時、突如としてナナシの肉体の衝撃波のような物が襲い掛かり、吹き飛ぶ。いったい何が起きたのかとナナシは戸惑うが、その衝撃波を見て驚いたのは他の者達も同様だった。
「い、今のは……まさか!?」
「やっと来たか……!!」
「ゆ、勇者殿……!?」
衝撃波が放たれた方向に全員が視線を向けると、そこには漆黒の大剣を手にしたレイナの姿が存在し、彼女は街道から駆けつける姿が存在した。
「皆、大丈夫!?ごめん、遅れて……」
「れ、レイナ君……」
「もう、遅いですよ……死ぬかと思いました」
「た、隊長だ!!隊長が来てくれたぞ……!!」
レイナの姿を見ると倒れていたリル達は安堵の表情を浮かべ、その一方でデュランダルの衝撃波によって吹き飛ばされたナナシは血を流しながらも起き上がる。そしてレイナに視線を向け、怒りの表情を抱く。
「遂に出てきたか……勇者ぁっ!!」
「えっ!?勇者って……」
「何を言ってるんだこいつ……」
ナナシの言葉にレイナの事情を知らない兵士と騎士達は戸惑い、そんな彼等を見てレイナはナナシと向き合うと、背負っていたデュランダルを構えて言い放つ。
「……何を勘違いしているのかな」
「何だと?」
「俺は勇者じゃない……この国を守る騎士、レイナだ!!」
自分がレイナである事をはっきりと告げると彼女はデュランダルを振りかざし、自分の仲間を傷つけたナナシに対して全力の一撃を放つ。
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