第615話 諦めない
(ここまで来たら引けぬでござる!!)
迫りくる大剣の刃に対してハンゾウは身を逸らして回避に成功すると、彼女は掲げていた小壺を握りしめ、粉末を振り払う。浴びれば大型の魔獣でも麻痺は免れない痺れ薬をナナシは浴びてしまう。
「ぐあっ……!?」
「や、やったでござる!!」
粉末をナナシが浴びたのを見てハンゾウは勝利を確信したが、そんな彼女に対してナナシは蹴りを繰り出し、彼女の身体を吹き飛ばす。
「馬鹿がっ!!」
「がはぁっ!?」
「は、ハンゾウさん!?」
「そんな、効いてないのか!?」
ハンゾウが蹴り飛ばされた光景を見て周囲の者達は動揺し、彼女によって痺れ薬の粉末を浴びたナナシだったが、唾を吐き出したナナシは淡々と告げる。
「生憎だが俺は毒の耐性を持っている……この程度の薬では死なん」
「そ、そんな……」
「くそっ、化物がっ……」
「どうすればいいんだ……」
僅かな希望であったハンゾウの毒さえも耐性を持つ事が判明し、周囲の者達はナナシを倒す手段が尽きたかと考える。仮に他の援軍が到着してもナナシに勝る者が現れなければどうしようもなく、ここまでかと思われた時、馬の足音が鳴り響く。
馬が駆けつける音を耳にした者は街道に視線を向けると、そこには白馬に跨ったリルとチイの姿が存在した。二人はナナシの存在を確認すると驚きの表情を浮かべるが、すぐに周囲に倒れている者達に気付き、怒りをあらわにした。
「チイ、私に合わせろ!!」
「はい、リル様!!」
「リルだと……この国の王女か、丁度いい」
リルとチイは馬から飛び降りると、真っ先にナナシの元へ向かう。彼女達は目にも止まらぬ速度で移動すると、妖刀ムラマサを振りかざす。チイも同時に反対方向からフラガラッハを放つ。
「「牙斬!!」」
「くだらん!!」
左右から仕掛けてきたリルとチイに対してナナシは両手の大剣を振り抜くと、冷気と炎を纏わせた攻撃で二人を倒そうとした。しかし、それに対してリルは身を低くすると、チイは空中に跳んで回避を行い、同時に攻撃を仕掛ける。
「せいっ!!」
「はあっ!!」
「ぬうっ!?」
リルは足元に剣を放ち、チイは顔面に向けて刃を振り抜く。咄嗟にナナシは頭を逸らしてチイからの攻撃は回避するが、リルの攻撃は避けきれずに左足に血飛沫が舞う。
並大抵の武器では傷一つ付かないナナシの肉体だが、リルが装備している「妖刀マサムネ」は切れ味も鋭く、更に斬り付ける際に相手の魔力を奪う能力を所有している。レイナの文字変換の能力で所有者の負担だけは改善された妖刀をリルは放つ。
「はああっ!!」
「このっ……図に乗るな!!」
「お前がなっ!!」
妖刀を今度は喉元に目掛けて突き刺そうとしてきたリルに対してナナシは炎魔刀で弾き返そうとしたが、それに対してチイが即座に空中で炎魔刀を所有する方の腕に剣を放つ。結果としてチイの攻撃によってナナシは大剣を振り切れず、リルはその間に距離を取る。
「乱切り!!」
「ぐおおっ!?」
「刺突!!」
「があっ!?」
二人はチームワークを生かして連撃を行い、チイは空中にてフラガラッハで幾度も斬り付けると、リルはがら空きの腹部に剣を突き刺す。二人の武器は妖刀と聖剣のため、ナナシの頑強な肉体でさえも無傷とはいかず、血が滲む。
無敵だと思われたナナシに損傷が入った事で他の者達も活気を取り戻し、身体が凍り付いていた者達も徐々に自分達を加勢するために動こうとすると、ある事に気付く。
「あれ、身体の氷が……溶け始めている!?」
「そうか、この氷は魔法の力で生み出した物……時間が経過すれば魔力が薄れて効果は消える」
「俺達も戦えるぞ!!」
「そうじゃ!!皆の者、ここが踏ん張り時!!皆で力を合わせて戦おうぞ!!」
氷魔刀の影響で凍り付いていた者達も身体が自由に動くようになると、リルとチイに加勢するために動き出す。カレハは芭蕉扇を振りかざし、彼女は今度は風にぶつけるだけではなく、地面の砂利を巻き上げてナナシに放つ。
「ふんっ!!」
「ぐおっ……き、貴様!?」
「お主が儂の風を無効化できるとしても、風の力で吹き飛ばした物はどうしようもあるまい!!」
吹き飛ばされた砂利によってナナシは再び視界を塞がれ、その隙に他の者達は攻撃を仕掛ける。既に限界だったリュコも起き上がると、彼女はナナシが崩壊させた建物に視線を向け、瓦礫を持ち上げる。
「喰らえっ!!ナナシ!!」
「ぐはぁっ!?」
背中に向けて瓦礫が叩き込まれたナナシは体勢を崩して膝を突き、その隙に次々と他の者は矢を撃ち込む。この時にもカレハは芭蕉扇を振りかざし、援護を行う。
「弓を持つ者は矢を放て!!儂の風の力で勢いを強化させる!!」
「はい!!」
「おっしゃあっ、俺達も撃つぞ!!」
「くたばれ、化物がっ!!」
「き、貴様等ぁっ……!!」
一気に形成が逆転し、相手に魔剣を使わせる暇もなく猛攻を仕掛ける。弓を持つ者は矢を放ち、それをカレハは芭蕉扇の力で速度を加速させてナナシの身体に放つ。
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