第613話 真の力

「き、気を付けて下さい!!奴が持っているのはただの剣ではありません、魔剣です!!」

「魔剣……!?」

「その娘の言う通りだ……ぬんっ!!」



ナナシは右手に握りしめた赤色の大剣を振りかざすと、刀身から炎を纏う。その熱気の凄まじさに近くに存在した者は顔色を歪め、そして左手の青色の大剣が振り抜かれた瞬間に冷風が発生する。


彼が手にした魔剣の名前は「炎魔刀」と「氷魔刀」と呼ばれ、数ある魔剣の中でも歴史は深く、聖剣を破壊するために作り出された聖剣だと語られていた。



「死にたくなければ退け!!雑魚共がっ!!」

「おのれ、よくも同胞を!!」

「貴様だけは許さん!!」

「待て、お主等!!迂闊に近づくでない!!」



仲間の戦士達を殺された者達は武器を構えて仇を討つために近付こうとした瞬間、ナナシは右手に握りしめた炎魔刀を地面に突き立てる。その瞬間、まるで火山が噴火したかの如く炎が地面から発生し、ナナシに近付こうとした者達へと襲い掛かった。



「ぐあああっ!?」

「ほ、炎が……地面から!?」

「馬鹿なっ……!!」

「邪魔をするな、弱者が」



向かってきた森の戦士達を炎魔刀で発生させた炎で焼き払うと、彼は王城へ向けて歩む。しかし、そんな彼の前にカレハは立ちふさがると、先ほどの様に芭蕉扇を振りかざす。



「勇者様の元へは行かせん!!」

「無駄だっ!!」



芭蕉扇を振り払った瞬間、突風が発生してナナシの肉体へと迫ったが、それに対してナナシは炎魔刀を掲げると刀身に纏った炎が燃え盛り、突風を掻き消す。その光景を見てカレハは目を見開き、自分の芭蕉扇の攻撃が無効化された事を悟る。


彼女が所有する芭蕉扇は所有者の魔力を吸い上げ、更に「精霊」と呼ばれる存在の力を借りて強風を巻き起こす。その風の威力は所有者の実力によって大きく変化し、カレハ程の実力者ならばその気になれば建物を破壊する程の風圧を発生させる事も出来た。



「無駄だ、この剣の前ではどんな風魔法も通用せん!!」

「くうっ……我が風を吸収したというのか!?」



しかし、ナナシが所有する炎魔刀は火属性の魔力を宿す大剣だった。炎魔刀は所有者の意思によって刀身に炎を宿すだけではなく、外部からの風属性の魔力を吸収する能力を持つ。魔法の属性的には風属性は火属性の魔法に力を与える性質を持つため、炎魔刀の能力の前では芭蕉扇の生み出す風であろうと無効化されてしまう。



「最後の忠告だ、そこを退け!!でなければこの剣で斬り捨てるぞ!!」

「……我が一族は勇者様に尽くす事が宿命、退くわけにはいかぬ」

「族長、御下がりください!!」



リドはカレハを庇うように前に出るが、それに対してナナシは左手の氷魔刀を構えると、再び地面に突き刺す。今度は氷でも地面から出すつもりかとリドは身構えたが、直後に大権が突き刺さった箇所が凍り付き、やがて周囲に冷気が広がっていく。



「さ、寒い……なんて冷気だ!?」

「ま、まずい……身体が凍ってきたぞ!?」

「ぷるぷるっ……!?」

「シル、下がって!!スライムの貴方が凍れば助からないかもしれません!!」

「おぉおおおっ!!」



氷魔刀を握りしめたナナシは気合の雄たけびを放つと、周辺一帯の気温が徐々に下がり始め、地面が凍り付いていく。このままでは凍え死ぬと判断したカレハはどうにか止めようとしたが、ここで彼女は芭蕉扇が凍り付いている事に気付く。



「なっ!?芭蕉扇が……まさか、貴様の狙いは私達ではなく、芭蕉扇かっ!?」

「気づくのが遅かったな……ぬんっ!!」

「カレハ様っ!!御下がりください……こ、これはっ!?」



リドはナナシに切りかかろうとしたが、足が上手く動かない事に気付き、視線を向けると既に足元は凍り付いていた。他の者達も同様に足元が凍って身動きが出来ず、シルバースライムのシルに至っては氷像のように化してしまう。


全員の動きを止める事に成功したナナシは剣を引き抜き、周囲の者達の確認を行う。魔剣を使い続ければ彼等を完全に凍り付かせる事も出来たが、今の彼には時間はなかった。月を見上げたナナシは目元を細め、王城へと急ぐ。



「そこで大人しくしていろ、そうすれば命は助かるだろう……せいぜい、数時間程度だがな」

「な、何……どういう意味じゃ!?」

「答える義理はない……貴様たちだけはこの俺の手で終わらせてやろう」

「おのれ、ふざけるなっ……!!」



足元だけではなく、徐々に身体まで凍り付き始めたカレハとリドに対してナナシは炎魔刀を振りかざす。その光景にリドは彼はだけでも守ろうとするが、この時に赤色の煙が彼の視界に入った。


その光景を目にしたナナシは何事かと煙を見上げると、いつの間にか周辺一帯に赤色の煙が舞い上がっている事に気付き、その光景は他の者達も確認していた。カレハは煙を見上げて呆気に取られているナナシに告げる。



「余裕を見せすぎたな……ナナシ、お主の負けじゃ!!」

「……なるほど、目印か。くだらん、どんな敵が現れようと俺を止める事は出来ん」



赤色の煙の正体が味方を呼び寄せるための目印だと気づいたナナシは動じた様子もなく、現れるであろう他の援軍を待ち構える。そんな彼の背後から接近する人影が存在した。

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