第602話 不審人物

「ぷるぷるっ(変な魔力を感じる)」

「きゅろっ……この部屋に臭いは続いてる」



サンとクロミンは扉の前に辿り着き、そこは丁度武器庫の真上に存在する部屋だった。二人は扉の鍵の隙間から伺うと、そこには兵士の格好をした男性が膝が付いていた。


部屋の中でその兵士の男はぶつぶつと何事か呟き、彼の影は不自然に蠢ていた。その様子を見てサンとクロミンは怪しく思い、鍵穴から男の様子を伺う。



「あの人、何してる……?」

「ぷるるんっ(何処からどう見ても怪しい……)」



鍵穴からでは男性が何をしているのかよく見えず、どうにか中に入れないかとサンが考えた時、ここで彼女はクロミンを掴んで鍵穴へと押し込む。スライムである彼は肉体を変幻自在に変化できるため、鍵穴から内部へと入り庫む事に成功する。


部屋の中が暗闇であった事が幸いし、全体が黒色のクロミンが忍び込んでも気づかれず、クロミンは部屋の様子を伺う。この時にクロミンは男が何やら「魔法陣」が刻まれた小さな台座のような物の上に座り込んでいる事に気付く。



「ちっ……勇者は仕留めきれなかったか、やはり人形では力が思うように引き出せないな」



兵士の格好をした男は魔法陣の上でぶつぶつと何事か呟き、その言葉を耳にしたクロミンはこの男が魔王軍だと知る。クロミンはこの事を外にいるサンに知らせるため、彼は扉の鍵に触手を伸ばす。


男は魔法陣の上で精神を集中しているため、今ならば扉を開けても気づかれないと判断したクロミンはサンを中へと招き入れると、彼女は恐る恐る部屋の中に入り込む。



「くそっ、やはり影を繋いでいないと精度が落ちる……やはり、俺が出向くしかないのか」

「お前、ここで何をしてる!!」

「なっ!?」

「ぷるるんっ!?(ちょっ、自分からばらすの!?)」



部屋の中にサンが入ると、彼女は男に大声を掛ける。そんな彼女の行動にクロミンも驚き、彼としてはサンに男を不意打ちさせて倒すつもりだった。


サンに声を掛けられた男は慌てて起き上がって杖を構えようとするが、相手が少女だと知って驚く。仕方なく、クロミンもサンの頭の上に飛び乗って男と向かい合う。



「お前、まおーぐんだな!!サンが捕まえる!!」

「な、何だガキか……誰だか知らないが、見られた以上は死んでもらうぞっ!!」

「ぷるぷるっ(何か来る!!すぐに離れて!!)」



クロミンはスライムの感知能力で男が何かを仕掛けようとしている事に気付き、サンに注意を行う。サンも即座にその言葉に従って後ろへと跳躍すると、男の影が無数の黒蛇のように変化してサンの元へと迫る。



「逃がすか!!」

「きゅろろっ!?」

「ぷるんっ(右に避けてっ!!)」



黒蛇に迫られたサンはクロミンの言葉を頼りに移動を行い、ダークエルフの身体能力の高さを生かして迫りくる黒蛇を回避していく。男は中々捕まらないサンに苛立ちを抱き、自ら廊下に出ると杖を向ける。



「ちょこまかと逃げやがって……これならどうだ!!」

「ぷるんっ(まずい!?)」

「また増えたっ!?」



男の影から更に黒蛇が出現すると、廊下を覆い込む勢いで黒蛇がサンとクロミンの元へ迫る。仮に全力疾走で逃げたとしても逃げ切れず、この状況を打破するためにサンはクロミンを掴むと男に狙いを定めた。



「必殺、クロミンシュート!!」

「ぷるるるんっ!!」

「なっ……あいたぁっ!?」



サンは男の顔面に向けてクロミンを蹴り込むと、勢いよく突っ込んだクロミンは男の顔面に衝突し、堪え切れずに男はしりもちを着いてしまう。すると廊下を覆いつくす勢いで伸びていた黒蛇たちの動きが止まり、その隙にサンはリドから受け取った武器を取り出す。


リドの下で修業を受けていた彼女は様々な技術を学んでいるが、その中でもサンが気に入ったのは「指弾」と呼ばれる技だった。彼女は懐から木の実を取り出すと、親指を構えて勢いよく弾き飛ばした。



「てりゃあっ!!」

「このガキ……いでぇっ!?」



クロミンをぶつけられて怯んだ男の額に更に木の実がめり込み、男は脳震盪を引き起こす。その影響で男の身体から放たれていた黒蛇が消えはじめ、この隙を逃さずにサンは駆け出す。



「クロミン、ジャンプ!!」

「ぷるるるんっ!!」



サンの言葉に即座にクロミンは彼女の前に移動すると、サンはクロミンの上に乗っかり、スライムの弾力を生かして通常よりも高く飛び上がる。そして天井ぎりぎりまで彼女は上昇すると、男に向けて飛び蹴りを放つ。



「必殺!!ライ……じゃなくて、サンキック!!」

「ぐはぁあああっ!?」



戦隊物のヒーロー並の飛び蹴りを放たれた男の身体は吹き飛び、そのまま壁に頭をぶつけて気絶してしまう。その様子を確認したサンは勝利のポーズを取り、一部始終を見ていたクロミンは彼女の勝利を称えるようにその場を飛び跳ねる。



「サン、大勝利!!」

「ぷるる~んっ♪」

「クロミンもよく頑張った!!」



サンはクロミンを抱きかかえると天に翳し、こうして彼女は影魔導士エイの本体を見つけ出し、二人だけで倒す事に成功した――

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