第601話 自害

「こいつがエイという影魔導士か……おい、起きるんだ!!」

「すんすんっ……!?待って、二人ともこの人に近付いたら駄目!!」

「えっ?」



倒れているエイにレイナとリルが近づこうとした瞬間、ネコミンは危険を察したように腕を掴み、武器庫の出入口の扉を指差す。



「強い火の魔力の臭いがする!!この人、魔石を壊して自害をしようとしている!!」

「何だって!?」

「くっ……急いで離れるんだ!!」



ネコミンの言葉を聞いてレイナ達は出入口の扉へと急ぎ、脱出を計る。しかし、扉は外側から鍵を施され、開く事が出来ない。



「駄目だ、こちら側からでは開かない!!」

「退いて下さい!!」

『扉――ミスリル合金製の扉 状態:施錠』



レイナは解析を発動させ、扉の状態を調べると「施錠」という文字を確認し、即座に文字変換を発動させて文字を書き換える。



「これでどうだ!?」

『扉――ミスリル合金製の扉 状態:解錠』

「よし、開いた!!」



解析と文字変換の能力でレイナは扉の鍵を開く事に成功し、3人は外へ飛び出す。この際にレイナは階段を上がりきる暇はないと判断し、武器庫の扉を閉じると全力で圧しとどめた。



「二人とも、早く行って!!」

「レイナ!?」

「くっ、走れネコミン!!」



扉の内側から赤色の光がこぼれ始めると、ネコミンの腕を掴んでリルは階段を上る。その様子を見てレイナは全力で扉を抑えつけると、強烈な爆音と衝撃波が扉の内側から発生し、扉が吹き飛ぶ。


レイナの身体は扉を支えきれずに倒れ込み、武器庫から煙が噴き出す。ネコミンとリルはレイナが扉を抑えてくれたお陰で吹き飛んだ扉に巻き込まれず、階段を登り切る。いったい何事が起きたのかと兵士達の治療を行っていたリリスが駆けつける。



「ちょ、どうしたんですか!?何があったんですか!?」

「くっ……敵が自害した、恐らくは火属性の魔石を暴発させたんだ」



影魔導士のエイは自分が捕まる前に隠し持っていた火属性の魔石を利用し、敢えて暴発を引き起こして爆発を引き起こさせ、レイナ達を巻き込もうとした。エイ自身も確実に死ぬが、最期にレイナ達を道連れにしようとしたのだろう。


仮にレイナ達が抜け出せず、武器庫内に残っていたとしたら間違いなく死んでいた。もしかしたら最初からエイは死ぬつもりで3人を引き寄せ、外側から鍵を施す事で自害を計った可能性もあり得る。最初から自分も道連れに死ぬ覚悟を抱いて戦っていたとしたら恐ろしい相手だった。



「レイナ、しっかりして……生きてる?」

「いててっ……ほ、骨が折れたかも」

「大丈夫ですか!?ほら、上級回復薬ですよ!!」



凹んだ扉を押し退けてレイナは姿を現すと、すぐにネコミンが彼女を抱き上げ、リリスは口元に上級回復薬を押し込む。レイナは上級回復薬の効果で回復し、どうにか起き上がると部屋の様子を伺う。



「エイは……」

「多分、この様子だと死んでますね。この中には戦闘に利用する魔石も保管されていましたし、中は凄まじい事になったでしょうね」

「そうか……」



武器庫から煙が収まる様子はなく、中に存在したエイは原型が分からないほどに粉々に砕け散ったか、あるいは焼き尽くされたと思われた。レイナは敵ながら自分を犠牲にして自分達を道連れにしようとしたエイの覚悟に冷や汗を流す。



「何て奴だ……自分が情報を漏らさないように自害する準備までしていたのか」

「恐ろしい敵ですね。こんな奴が他にも魔王軍にいるとしたら厄介ですよ」

「ああ、気を引き締め直さなければな……」

「……これからどうすればいい?」



とりあえずは城内に忍び込んだ侵入者は倒す事に成功したが、ここから先はどうするかレイナ達は考えなければならない。とりあえずは武器庫から離れると、この時にレイナはある事に気付く。



「あれ、そういえばサンとクロミンは?さっきから姿を見てないけど……」

「え、私は知りませんよ?ネコミンは?」

「私も見ていない」

「あの二人、何処に行ったんだ……まさか、この状況で何処かに遊びに行ったとは思えないが……」



サンとクロミンの姿が消えている事にレイナ達は気付き、二人ともこの城に残ったはずなのだが姿を見せない。まさか二人の身に何かあったのではないかとレイナ達は焦って捜索に向かう――






――同時刻、サンはクロミンを頭に乗せて四つん這いになりながら床の臭いを嗅いでいた。ダークエルフの姿で犬の様に臭いを嗅ぐ彼女の姿を見たらレイナ達はどのように反応するのかは見ものだが、当の本人は別にふざけているつもりはなく、むしろ逆に真剣な表情を浮かべていた。



「くんくんっ……きゅろっ、こっちの方から知らない臭いがする!!」

「ぷるぷるっ(それならご主人様にすぐに知らせた方がいい)」

「きゅあっ!!クロミン、それは駄目!!こういう時こそ、サンとクロミンが力を合わせて役に立つとき!!いつもレイナに頼っちゃ駄目!!」

「ぷるるんっ(なるほど、一理ある)」



サンはクロミンと共に城内を調べ回り、彼女なりにレイナ達の役に立とうとしていた。そしてサンは臭いを嗅いでいると、知らない人間の臭いを感じとる。

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