第599話 影魔導士エイ

「あ、見てください!!あそこに兵士が倒れていますよ!?」

「くそ、扉も開いている!!既にやられていたか!?」

「まだ生きてるなら助けないと……」

「…………」



倒れている兵士と開け放たれた武器庫の扉を見たリル達は急いで向かおうとしたが、ここでレイナだけは兵士達の様子を見て異変に気付く。解析の能力を発動させ、倒れている兵士達の様子を伺うと、全員に声をかけた。



「後ろに跳んで!!」

「「っ!?」」

「うわわっ!?」



レイナはリリスを抱えた状態で後ろに跳躍すると、他の二人も反射的に離れる。すると、兵士の影から「黒蛇」のような形をした影が出現し、先ほどまでレイナ達が存在した場所に移動する。



「影魔法!?まさか、兵士に取りついていたのか!?」

「う、ぐぅっ……」

「あががっ……!?」

「まずい、二人とも首が……!?」



黒蛇は兵士達の首元に巻き付き、兵士達は苦し気な表情を浮かべていた。首を圧迫されて彼等は必至にもがくが、実態が存在しない影を掴む事は出来ず、それでいながらどんどんと首は絞め上げられる。


このままでは兵士達の命はなく、かといって下手に近付けば黒蛇の餌食となってしまう。どうするべきかと考えた時、ここでレイナはリリスを下ろして腰に差していた聖剣を引き抜く。



「これならどうだ!!」

「レイナ君!?何を……」



聖剣を構えたレイナは足元に迫ろうとしていた黒蛇に対して切り裂く。実態を持たない影に物理攻撃を行っても無意味に思えるが、聖剣の刃が黒蛇の影を斬り付けた瞬間、黒蛇に異変が起きる。



『シャアアア……!?』

「効いた!?」

「実体化しましたね……そうか、聖剣フラガラッハは聖属性の魔力を宿していました!!闇属性に対抗できるのは聖属性のみ、その魔力を宿しているフラガラッハなら攻撃が通じるんですね!?」

「そういう事!!」



解析の能力を発動してレイナは影魔法が生み出した黒蛇の弱点を見抜き、聖剣ならば損傷を与えられると見抜いた。フラガラッハで斬り付けられた途端、黒蛇は突如として実体化した。


影から実体を得た黒蛇は逃げるようにその場を離れ、兵士達も解放して武器庫の奥へと引っ込む。兵士達を救う事は出来たが、肝心の影魔導士の姿は見つかっておらず、急いでレイナ達は武器庫の扉を潜り抜ける。


武器庫は地下に存在し、扉の向こう側は地下へ続く階段が繋がっていた。階段を降りた先には扉が存在し、そこも既に開け開かれていた。



「この奥に隠れたようです!!どうします!?」

「この武器庫はこの場所以外に出入口は存在しない!!つまり、ここを封鎖すれば敵は逃げ場を失う!!」

「それなら出入口で誰か見張った方がいい」

「そういう事なら私がここに残りますよ。この人達の治療も必要だと思いますし……」

「分かった、ここは任せたよ!!」



リリスは扉の前で倒れていた兵士達の介抱しながら見張りをも行い、残ったレイナ達は階段を降りて武器庫へと辿り着くと、部屋の中が暗闇に覆われている事を知る。


暗闇の中では影魔法に対処しにくく、レイナ達は松明を灯して中の様子を伺う。武器庫は相当に広く、しかも木箱や棚など隠れやすい場所が多く、敵を見つけるのは苦労しそうだった。



「くっ……こうも暗いとやりにくいたな」

「レイナ、敵が何処にいるか分かる?」

「この中にいるのは間違いないけど……何だっ!?」



3人は部屋へ入り込んだ瞬間、突如として扉が外側からしまってしまい、何が起きたのかと驚く。この時、レナは天井に視線を向けると、どうやら黒蛇が扉を閉めた事を知る。



(しまった!?足元だけを注意して天井を注意していなかった!!)



先ほどの攻撃も床を伝っての攻撃だったのでレイナは天井にも黒蛇が移動できることを失念してしまい、しかも絞められた途端に鍵がかかってしまう。恐らくは黒蛇が外で鍵を施したのは間違いなく、完全にレイナ達は扉に閉じ込められてしまう。


流石に武器を保管するだけはあって扉の方も頑丈な作りらしく、しかも内側からは鍵を解放できない仕組みになっていた。外側のリリスは異変に気付いているだろうが、彼女は部屋の中で何が起きているのか分からず、レイナ達が閉めたと勘違いしてもおかしくはない。



「リリス!!聞こえる!?扉が閉められた!!」

「駄目だ、レイナ君……この扉は特別に厚くて頑丈なんだ。前に謝って武器庫の管理を行っていた兵士が武器庫に閉じ込められたとき、翌朝まで助けを求めたが外に漏れる事はなかった。つまり、私達の声は外には届かない」

「という事は……閉じ込められたのは私達?」



リルの言葉にレイナは外へ助けを求めても声が聞こえない事をしり、改めて武器庫の様子を伺う。先ほどの黒蛇は既に姿を消してしまい、何処に影魔導士が隠れているのか分からなかった。

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