第590話 剣聖の動揺

「白狼騎士団の副団長は短剣の二刀流と聞いていたが……剣も扱えたのか?」

「舐めるな!!一通りの武器も扱えずに騎士団の副団長など務まらん!!」

「ほう、それは楽しみじゃのう」



妖刀を構えるツルギに対してチイは緊張気味に長剣を構える。この際にツルギはチイが所有する剣に見覚えがあるような気がしたが、思い出す前にチイが仕掛けた。



「行くぞ!!兜割りっ!!」

「その程度の攻撃……!?」



チイは正面からツルギに接近すると、上段から剣を振り下ろす。その攻撃に対してツルギは受けようとしたが、予想外の攻撃の重さに彼は驚き、ツルギの身体が後方へと押し返される。



「はああっ!!」

「ぬうっ!?」



自分よりも小柄であるはずのチイの攻撃に対してツルギは受け切れず、鍔迫り合いの状態で押し込まれていく。外見からは想像できない腕力を誇るチイにツルギは戸惑うが、すぐに彼は刃を弾き返す。


流石に油断し過ぎたかとツルギは刀を構えると、横薙ぎに振り払う。並大抵の剣士ならば反応できないほどの剣速だが、咄嗟にチイは後方へ飛んで回避に成功する。



「旋風!!」

「くぅっ!?」

「ほう、避けたか……しかし、これで終わりじゃ」



後ろに飛んだチイに対してツルギは剣を構えると、彼女に向けて突き刺す。迫りくる刃に対してチイは目を見開き、咄嗟に彼女は蹴りを繰り出して刃を下から弾く。



「舐めるなっ!!」

「何っ!?」



まさか攻撃を弾かれるとは思わなかったツルギは驚いた声を上げ、一方でチイは体勢を整えるために後ろに跳んで空中で回転しながら着地を行う。身軽さにおいては白狼騎士団の中でもチイはハンゾウにも負けず劣らず、自分が握りしめる剣を覗き込んで頷く。


先ほどから自分の攻撃に対応するチイに対してツルギは違和感を抱き、いくら白狼騎士団の副団長を任される相手とはいえ、剣聖と謳われた自分の攻撃が悉く通じない事に彼は疑問を抱く。その一方でチイの方も自分があのツルギと戦えているという事実に興奮気味だった。



(戦える、戦えているぞ!!今の私なら勝てない相手じゃない!!)



剣を握りしめながらもチイはツルギと向かい合い、警戒しながらも敵の隙を伺う。ここでツルギは自分が相手を甘く見過ぎたかと思い、次の攻撃で仕留めるために彼は鞘に刀を治めた。



「この一撃で終わらせてやろう。覚悟は良いか?」

「くっ……!?」

「抜刀!!」



ツルギはチイが立っている場所まで一気に駆け抜けると、彼は鞘から刀を引き抜き、下から刃を繰り出す。その攻撃に対してチイは剣を構えるが、凄まじい勢いで接近する刃を見て彼女は防ぐのは不可能だと判断する。



「ああっ!!」

「何ぃっ!?」



下から繰り出された刃に対してチイは反射的に空中に跳ぶと、身体を回転させながらツルギの刃を回避する。その思いもよらぬ回避行動にツルギは驚きの声を上げるが、更にチイは空中で回転した状態で剣技を繰り出す。



「和風牙!!」

「ぬぐぅっ!?」



身体を回転させた状態で剣をの刃を繰り出してきたチイの攻撃はツルギの右肩を掠め、損傷を与える事に成功した。ほんの掠り傷程度ではあるがツルギは自分に傷を与えたチイを睨みつける。


空中で体勢を整えたチイは着地すると、汗を流しながらもツルギと向かい合い、最初の頃は彼の気迫に押されていたが今は全く怯えている様子はなかった。ツルギは自分が傷つけられたという事実に信じられず、チイに怒鳴りつけた。



「この儂を傷つけるとは……貴様、何をした!?」

「何をしただと?別に私はお前に何もしていないぞ、

「ぬうっ……!?その剣、思い出したぞ!!」



ここでツルギはチイが所有する剣を見てかつてハンゾウが所有していた「フラガラッハ」と瓜二つである事に気付く。どうしてハンゾウが所有していたフラガラッハをチイが所持しているのかと彼は驚くが、一方でチイの方も自分が聖剣を使いこなしているという事実に身体を震わせる。



(不思議な感覚だ……この剣を持っているだけで何故か負ける気がしない。これが聖剣の力か……!!)



チイは自分が所持する「聖剣フラガラッハ」に視線を向け、本来はアリシア、レイナ、ハンゾウの3人しか所持していない聖剣を彼女が手に入れるまでの経緯を思い出す――





――時は飛行船の建造が開始される前にまで遡り、唐突にリリスが全員を呼び出した。彼女が呼び出した理由は今後の事を想定し、今以上の強敵が現れた場合に備えて自分達も強くならなければならないと提案する。



『皆さん!!私はとんでもない事に気付きました、少し前にレイナさんが作り出した聖剣を他の方が使えるかどうかを試そうとした事がありましたよね?その事に関して進展がありました』

『おおっ、前回の時は拙者が聖剣を貰ったでござる』

『せ、聖剣!?ハンゾウ殿は聖剣を譲り受けたのですか!?』



事情を知らないティナはハンゾウの言葉を聞いて驚き、本来は聖剣は世界に1種類ずつしか存在せず、その聖剣をハンゾウが受け取ったという話に驚くのも無理はない。

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