第591話 改名

『まあまあ、落ち着いて下さい。詳しい説明は省きますが、ここにいるレイナさんは聖剣の複製品を作り出せる能力を持っています。しかも本物と遜色ない性能の武器を作り出せます』

『聖剣の複製!?そんな事までレイナさんは出来るのですか!?』

『ああ、もう。話が進まないから落ち着いて下さい』

『リリス、確かにその話は私達も知っているが、レイナ君が作り出した聖剣を使用できるのはレイナ君だけじゃなかったのか?』

『もしくはレイナと名前の文字数が同じ人間だけだったはず……』



過去にレイナは聖剣の複製品を作り出し、所有者名を書き換える事でハンゾウに聖剣フラガラッハを渡した事がある。この事からレイナの本名である「霧崎レア」を4文字の別の人間の名前に変更すれば聖剣の所有者は変更する事が可能だった。


だが、4文字の名前を持つ人間はレイナ達の中ではハンゾウとネコミンに限られ、リル、チイ、リリス、ティナの4人は聖剣を所有する事が出来ないと今間に考えられていた。しかし、そんな彼女達に対してリリスは思わぬ抜け道を発見したという。



『先日に訪れた転職師の方を覚えていますか?あの人が持つ能力は職業を変更する事は知っていますね』

『ああ、勿論だ』

『それで私は気づいたんです、レイナさんの能力を以てしても文字数が違う人間に聖剣を譲渡する事は出来ません。しかし、発想を逆転させるんです。それなら変更すべき名前の文字数を変えればいいのではないかと……正にチェス盤、いや将棋盤をひっくり返す発想に辿り着いたです!!』

『何で言い直したんだ?』



リリス曰く、4文字の名前ではない人間でも名前を「改名」させればもしかしたら聖剣を使う事が出来るかもしれないと判断し、彼女はこの世界における名前の改名を試す。


鑑定や解析の能力で表示される画面にはその人間の「本名」が表示されるため、偽名を名乗った所で本名の項目に変化はない。しかし、この世界では改名を行う方法は存在し、その内の一つが鑑定士の覚える能力の中には「改名」と呼ばれる固有能力が存在する。



『高レベルの鑑定士はSPを消費する事で「改名」という固有能力を覚えることができます。この改名は文字通りに鑑定した対象の名前を変更させるだけの能力なので覚えている人間は殆どいません。まあ、結婚の際に結婚相手の家名を名乗りたいという人間もいますので改名を習得する鑑定士もいますが……』

『では、その鑑定士に協力してもらうのでござるか?』

『いいえ、実はレイナさんがSPを消費して改名の能力を覚えられる事が判明しました』

『何だと!?それは本当なのかい?』

『あ、はい。割とあっさり覚えられました』



リリスの言葉にレイナはあっさりと頷き、新たに彼女が覚えた「改名」の能力は対象が人種の場合に限り、名前を変更する能力だった。この能力のお陰でレイナは「人名」のみを変更する事が出来るようになった。



『俺は鑑定は使えないけど、解析の能力を利用すれば人物名だけは変えられるようになったよ。ちなみに人物名以外の項目は書き換える事は出来なかったけど……』

『あくまでも変更出来るのは人の名前だけのようですね。そういえばレイナさんは物体の名前を変更する事で別の物体に作り替えることが出来ますよね。じゃあ、もしもハンゾウをネコミンと書き換えたら、ハンゾウの存在が消滅して第二のネコミンが誕生するんですか?』

『何を怖い事を言っているのでござるか!?』

『私も巻き込まないで』



さりげなく恐ろしい発言をするリリスにハンゾウとネコミンは怯えるが、その質問に対してレイナは首を振った。



『いや、それは無理だよ。前に生きている魔物に試した事があるけど、どんな風に名前を変更しても変わらなかったよ。種族名を変更すれば別の生物に変化する事は出来るけど、名前に関してはどんな文字を打ち込んでも変更するのは名前だけみたい』

『なるほど、つまり生物の名前に対してはレイナさんの能力を使用してもどうしようもできないんですね』

『それに改名の能力も条件があるんだよ。相手の同意を得ない状態では名前を変更する事ができないみたい。ちなみにサンの名前も「霧崎サン」に変更済みだよ』

『きゅろろっ♪レイナとおそろい!!』

『いや、その名前だとややこしいと思いますけど……』



改名を覚えた事でレイナは早速試したらしく、この際にサンの名前を「サンドワーム」から「霧崎サン」と変更した。改名の際は文字変換と違って文字数も気にせずに自由に書き換えられる(相手からの同意がなければ改名は出来ないが)。


これまでサンは鑑定や解析の能力でステータス画面や詳細画面では「サンドワーム」と表示されていたが、これは種族名ではなくて人物名として表示されていたのは魔物の間では「名付け」という文化がないからである。なので魔物には名前の概念は存在せず、その種族名が人物名として表示される仕組みだった。




※ちなみに魔人族には名前はあります。

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