第588話 思いもよらぬ援軍
「中々やるな、森の民……だが、俺の敵じゃねえっ!!」
「抜かせ、若造がっ!!」
リドはオニマルと激しく刃を交わし、一見は互角の勝負を繰り広げていた。しかし、実際の所はオニマルの剣を受ける度にリドは異様なまでの攻撃の重さを感じ取り、徐々に押されていく。
(どうなっている、この男の腕力は……まるでドワーフ、いや巨人族級か!?)
オニマルの一撃は非常に重く、上手く受け流してはいるが刃を交わす度にリドは腕が痺れ、追い詰められていく。小柄でありながら巨人族にも勝る腕力を誇るオニマルにリドは焦りを抱く。
戦技も発動していないにも関わらず、強烈な斬撃を繰り出すオニマルに対してリドは防戦一方に追い込まれ、やがて武器の方が限界を迎えた。オニマルが上段から繰り出した一撃によってリドの剣は砕けてしまう。
「うおらぁっ!!」
「ぐおっ!?」
「なっ!?おい、大丈夫か!?」
武器を破壊されたリドを見てダリルは声をかけるが、オニマルは武器を失ったリドに向けて容赦なく剣を振りかざす。
「これで終わりだ!!」
「ぐはぁっ!?」
「せ、戦士長!?」
「そんな、戦士長がっ……!!」
オニマルの振り下ろした刃を受けたリドは胴体に血飛沫が舞い上がり、甲板の床に倒れ込む。その光景を見た森の里の戦士達は動揺してしまい、その隙を突いてグリフォンの群れが襲い掛かる。
「クエエッ!!」
「うぎゃあっ!?」
「ぐはっ!?」
「く、くそっ……うわぁっ!?」
次々とグリフォンによってエルフもドワーフも蹴散らされ、その様子を見ていたオニマルは剣を肩に乗せると、リドを見下ろす。リドは胸元から血を流しながらもオニマルを睨みつけた。
致命傷を受けながらも自分を睨みつけるリドに対してオニマルは感心する一方、せめて最後は苦しまずに逝かせてやろうとオニマルは剣を構える。
「お前はよくやった、もう楽にしてやる」
「ぐうっ……!?」
「くたばれっ!!」
「させぬわ、阿呆がっ」
オニマルは剣を振り下ろそうとした瞬間、突如として彼の後方から強烈な突風が襲い掛かると、船上で暴れていたグリフォン達も吹き飛ばされる。リドに止めを刺そうとしたオニマルも突如として襲い掛かった突風によって体勢を崩され、しりもちを着いてしまう。
『クェエエエッ!?』
「うおっ……な、何だっ!?」
「随分と我が配下を痛めつけてくれたな、魔王軍よ」
「そ、その声は……族長!?」
いつの間にか船上には「カレハ」が立ち尽くしており、彼女は怒った表情を浮かべていた。その手には扇子が握りしめられ、彼女が扇子を振りかざすと突風が発生し、オニマルの身体を吹き飛ばす。
「下郎よ、得と味わうがいい……これぞ、我が森の民に伝わる秘宝「芭蕉扇」を!!」
「うおおおおっ!?」
「す、凄い……!!」
カレハが扇子を振りかざすだけで強烈な突風が発生し、オニマルの身体が吹き飛び、グリフォン達も逃げ惑う。不思議な事に扇子から繰り出される突風は甲板に存在するエルフやドワーフを避けるように流れ込み、オニマルとグリフォンのみを襲う。
この場に現れたカレハにリドと戦士達は戸惑うが、彼女は少々怒った様子でオニマルを睨みつけ、扇子を構える。
「全く……飛行船とやらがもうすぐ完成すると聞いて、どのような代物なのかと思ってこっそりと来て見ればまさかこんな事態に陥っているとは……」
「か、カレハ様……申し訳ありません」
「リドよ、私の前で情けない姿を見せるな。その程度の傷でお主はもう戦えないのか?」
「くっ……見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ございません」
忠誠を誓うカレハの言葉にリドは根性で立ち上がると、胸元の傷口を抑えながらもオニマルを睨みつける。彼はグリフォン達と共に船首の方へと追いやられ、突如として現れたカレハに冷や汗を抱く。
「か、カレハだと……まさか、森の民の族長がどうしてここに……」
「ふん、勇者殿から飛行船の話は聞いておったわ。伝説の空を飛ぶ船、この目で見るために内緒で訪れてみればまさかこのような事態に遭遇すとは……だが、丁度良い。魔王軍であるお前達を捕えれば勇者殿に少しは恩返しができよう」
「……図に乗るな、この老いぼれが!!」
オニマルはカレハに対して剣を構え、突っ込もうとした。それに対してリドはカレハを庇おうとしたが、そんな彼を無視してカレハは芭蕉扇を構えると、今度は横ではなく盾に向けて振り払う。
「痴れ者がっ!!貴様如き、私に触れられると思うなっ!!」
「ぐああああああっ!?」
芭蕉扇から発生した突風は今度は頭上から襲い掛かり、オニマルの身体が甲板の頑丈な床板にめり込む。その光景を見たリド達は冷や汗を流し、一方のカレハは鼻を鳴らす。
※族長の扱う「芭蕉扇」は勇者が作り出した「神器」と呼ばれる特別な武器です。彼女以外に扱える者はいません。
新作「力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?」を投稿しました!!
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