第587話 飛行船

――王都にて建設されている飛行船は王城からそれほど離れていない場所にて建設され、その場所には数百人の兵士が警護を行っている。また、兵士以外には王国中から集めたドワーフと森の民の戦士達も存在し、彼等は協力して飛行船を作り上げていた。



「何故、こんな無意味な石像を船の船首に取り付けようとする!?こんな物、余計な重量を増やすだけではないか!!」

「馬鹿野郎!!お前等にはロマンがないのか!?性能面ばかりを重視して見た目をおろそかにしたら船なんて俺達は作らねえぞ!!」

「だからと言ってこの石像はやり過ぎだろう!!というか、どうして女神の石像なんだ!?ここは普通は勇者の石像だろうが!!」

「うるせえっ!!俺達は男の石像よりも女の石像が好きなんだよ!!」

「それは完全にお前達の趣味ではないか!!」

「ああ、またあの二人が言い争ってるよ……」

「ほっとけ、俺達は真面目に仕事をするぞ」



東里の戦士長にして森の民の族長の命令を受け、現在は王都にて飛行船の建設を手伝うリドはドワーフの棟梁であるダリルと言い争いをしていた。この二人は最初に会った頃からよく言い争う関係であり、性能だけを重視するリドと、職人の遊び心を加えたいダリルは毎日のように喧嘩を行う。



「だいたいお前等にこの船の事をとやかく言われる筋合いはないんだよ!!どうせもう材料は揃ったんだ、さっさと故郷へ帰りやがれ!!」

「断る!!我々は勇者様のためにこの国に赴いたのだ!!お前らに指図される謂れはない!!」

「ふん、どうやらまたぶちのめされたいようだな!!」

「こちらの台詞だ!!」

「もう、御二人とも止めてくださいよ!!また勇者様とリル様に怒られますよ!?」

「おお、喧嘩か!!やれやれ、やっちまえっ!!」



エルフの戦士達は慌てて仲裁に入ろうとするが、騒ぎ事を好む傾向のドワーフ達は煽っていく。リドとダリルは袖を捲し上げて殴り合おうとした時、ここで二人は異変に気付いたように目つきを鋭くさせる。



「……おい」

「ああ……何かが入り込んできたな」



一流の戦士であるリドは優れた直感で危機を感じ取り、ダリルの方も飛行船に視線を向け、彼は鉄槌を取り出す。他の者達も二人の様子を見て只事ではないと判断して飛行船に視線を向けた。


街に起きた騒動のせいで飛行船の警備を行っていた兵士の半数以上が駆り出されており、もしも何者かがこの飛行船を狙うとしたら今が絶好の好機である。その事に気付いたリドは配下に視線を向け、指示を出す。



「飛行船の内部を調べろ!!敵が侵入してきた可能性がある、油断するな!!」

『はっ!!』

「おい、てめえら!!俺達の大事な飛行船に手を出そうとする奴を見つけたらぶっ飛ばせっ!!いや、捕まえて俺の前に連れ出してこい!!」

『おうっ!!』



飛行船の傍に待機していたエルフの戦士とドワーフの職人たちは即座に飛行船へと乗り込み、敵の姿を探す。その一方でリドとダリルは飛行船の船上へと昇りあがり、警戒したように背中を合わせる。



「喧嘩は後だ、まずはこの船を守るぞ」

「ちっ……仕方ねえな、俺達の船のためだ」

「ふんっ……まさかドワーフに背中を預ける日が来るとはな」

「おうよ、俺の背中もしっかり守れよ」



リドとダリルは喧嘩を通してお互いの実力を知っており、お互いに背中を預けるには十分な相手だと認識していた。二人は船を守るために警戒していると、ここでリドは空を見上げて声を上げる。



「上だ!!」

「何だと!?」



ダリルはリドの言葉を聞いて上を見上げると、そこには鷹と馬が合わさったような魔物「グリフォン」が存在した。しかも単体ではなく、数体のグリフォンが飛行船に目掛けて降下し、その先頭を移動するグリフォンの背中には鬼人族と思われる男が乗っていた。



「うおおおおっ!!」

「あれは……鬼人族か!?」

「グリフォンだと!?くそ、何て奴等を連れてきやがった!!」




――クェエエエエッ!!




グリフォンの群れが飛行船に向けて突っ込み、船上に立っている兵士やエルフの戦士に襲い掛かる。リドは剣を抜くと、鬼人族の男はグリフォンの背中から飛び降り、リドに剣を振り下ろす。



「うおらぁっ!!」

「ぐっ……何者だ!?」

「魔王軍特攻部隊隊長、オニマルだ!!」



リドと刃を交わした「オニマル」と名乗る男は笑みを浮かべ、久々の強敵の予感を覚えながらもリドと激しく刃を交わす。


その一方で数体のグリフォンを相手に兵士と戦士達は苦戦を強いられ、ダリルもオニマルが乗り込んでいたグリフォンに追い詰められる。



「クエエッ!!」

「うおおっ!?や、やめろっ……この、焼き鳥にして食うぞ!!」

「グエッ!?」



自分の身体を押し倒してきたグリフォンに対してダリルは嘴に鉄槌を叩きつけると、グリフォンは嫌がるように離れる。それを見たドワーフ達がダリルを救うために駆け出す。



「棟梁!!俺達も戦うぜ!!」

「仕事で鍛え上げた俺達の腕力を舐めるなよ!!」

「森の戦士よ!!ドワーフなんかに後れを取るな!!戦えっ!!」

「うおおおっ!!」



普通の人間ならばグリフォンを見れば怖気づくだろうが、気の強いドワーフと戦士としての教育を受けてきたリドに仕える戦士達は恐れもせずにグリフォンへ立ち向かっていく。

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