第586話 豪雨

――王都の南門では兵士達が集まり、今にも城壁を乗り越えてこようとしてくるロックゴーレムの大群に対処していた。彼等は必死に矢を射抜き、壁を登ろうとするロックゴーレムを槍で突き落そうとするが、全体が岩石で構成されているロックゴーレムには並大抵の武器は通用しない。



『ゴォオオオッ……!!』

「く、くそっ!!隊長、もう駄目です!!このままだと持ちません!!」

「泣き言を言うな!!ここで我々が諦めれば城下町はどうなる!?何としても食い止めるんだ!!」

「は、はい!!」



次々と押し寄せてくるロックゴーレムに対して兵士達は必死に戦うが、それでも並の剣や矢ではロックゴーレムには通じず、追い詰められていく。



「ゴオッ!!」

「ぐああっ!?」

「ああっ!?城壁を乗り越えてきたぞ、もう駄目だ!!」

「諦めるな!!必ず、援軍が来るはずだ!!それまで持ちこたえろ、うおおおっ!!」



数体のロックゴーレムが遂に城壁に乗り込むと、城門の警備を任されている兵士達は剣を振りかざして命懸けで戦う。しかし、彼等の剣は硬い岩石によって弾かれ、他のどんな武器も通用しない。


このままでは城門の兵士達は全滅かと思われた時、ここで急に空に黒雲が広がっていく。その様子に気付いた兵士達が空を見上げると、驚きの声を上げる。



「ま、まさか!?」

「あ、雨だぁっ!!」

「やった!!やったぞ!!」

『ゴァアアアアアッ……!?』



突如として王都の全域に雨が降り始め、その結果として水を浴びたロックゴーレムたちは悲鳴を上げる。彼等の肉体を構成する岩石は水を浴びてしまうと何故か泥のように簡単に崩れ去り、雨が降った瞬間にロックゴーレムたちは悲鳴を上げて次々と泥と化していく。しかも雨の勢いはどんどんと強くなっていき、正に「豪雨」へと変化した。



『ゴァッ……アァッ……』

「隊長!!全てのロックゴーレムが溶けましたよ!!」

「た、助かったのか……天の恵みだ」

「み、見てください!!街の火災もこの雨のお陰でどんどんと収まっています!!」



先ほどまで街のあちこちで火の手が回っていたが、突如として振り始めた豪雨によって火事が消火されていく光景を兵士達は確認して驚く。しかも豪雨は数分ほどで止んでしまい、残されたのは泥だらけとなった城壁と、大量のロックゴーレムの核だけであった――





「――ふうっ、どうやら上手く行きましたね」

「全く君という奴は……いつもながら、君には驚かされてばかりだ」

「いや、まさか豪雨を作り出してロックゴーレムと火事に対処するとは思いませんでしたね」



王城から外の様子を眺めていたレイナ達はとりあえずは雨のお陰で火災の被害の拡大化を抑えた事を確認し、安堵した表情を浮かべる。数分前、クロミンの行動でレイナは「雨」を作り出す事で街の火災とロックゴーレムを全滅させる方法が頭に浮かぶ。


実際に過去にレイナは雨を作り出した事もあるため、すぐに対処を行うと予想以上の成果だった。王城からは確認は出来ないが王都全域に降り注いだ豪雨によってあちこちで起きていた火災は解決し、ロックゴーレムも全滅に追い込めた。ゴーレムは厄介な敵ではあるが、雨が降れば簡単に身体が崩れて全滅してしまう。



「これで火災とロックゴーレムの方は何とかなりましたね。ですけど、魔王軍が攻めてきたのならば他にもきっと手を打ってくるはずです!!すぐに私たちも動きましょう!!」

「ああ、では改めて城下町の方は白狼騎士団とチイに任せる!!城内の侵入者はネコミン、君の嗅覚と聴覚が頼りだ!!」

「はいっ!!」

「分かった、頑張る」

「リリスとレイナ君もネコミンと行動してくれ。僕は他の将軍に指示を出してくるよ」

「あ、はい」

「わかりました。気を付けて下さいね」



すぐにリルは指示を出すと、レイナ達は行動を起こす。その一方でサンは萎れてしまったクロミンに水筒を与え、水を飲ませる。



「きゅろろっ……クロミン、おじいちゃんみたいに皺々になった」

「ぷるぷるっ……(誰がおじいちゃんだ)」

「サンもクロミンも俺達から離れないでね。そうだ、森の里の人たちにも声を掛けないと……」

「こんな状況なんですからあっちの方から来てくれますよ。それより、偵察に派遣させたティナとハンゾウは大丈夫ですかね?南側からロックゴーレムが現れたという事はあの二人も遭遇している可能性もありますが……ん?待ってください、もしも今回の襲撃が魔王軍の仕業だとしたら……ああっ!?」

「急にどうしたの!?」

「大変です!!すぐに飛行船の場所まで向かいましょう!!敵の狙いはきっと飛行船です!!これまでの作戦はきっと陽動です、奴等の狙いはきっと飛行船ですよ!!」

「ええっ!?」



リリスの言葉にレイナは驚くが、確かに彼女の言葉通りに魔王軍の狙いが飛行船の場合、直行する必要があった――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る