第585話 急変

――城下町の異変は王城に居たリル達も目撃し、彼女はすぐに火災の原因を突き止めるため、城内の兵士を派遣させようとした。しかし、城門の兵士の報告を受けた彼女は今回の異変が魔王軍の仕業である事を確信すると、すぐに全員を呼び寄せた。



「白狼騎士団は即座に城下町の対応を行え!!リリスとネコミンは城内の治癒魔導士と共に待機、緊急事態に備えていつでも動けるように準備を整えろ!!」

『はっ!!』

「まあ、仕方ないですね」

「分かった」



リルの言葉にオウソウを筆頭に白狼騎士団の団員達は即座に動き、今回ばかりは速やかに行動する必要があった。残されたレイナ達に関してもリルは指示を出す。



「レイナ君、君は万が一の場合に備えて王城へ待機してくれ!!サンとクロミンはレイナ君の傍から離れるな、それと森の民の戦士にも連絡を!!飛行船の守護を頼むとな!!」

「は、はい!!」

「きゅろっ!!」

「ぷるるんっ(了解)」

「分かりました、すぐに兵を送ります!!」



レイナ達は王城に待機し、王都内に存在する森の民の戦士にも協力を仰ぐ。彼等も既にこの事態を掴んでいるはずであり、彼等の力も借りれれば大きな戦力となり得る。しかし、ここで玉座の間に急報が届く。



「た、大変です!!南門の方にてロックゴーレムの大群を確認しました!!ロックゴーレムはこちらに向けて進行中とのことです!!」

「何だと!?」

「申し上げます!!城下町の火災が驚異的な速さで広がっています!!城門にて民衆が集まり、早急な対応を求めています!!」

「くっ、次から次へと……!!」



リルは玉座の間に入ってきた兵士達の報告に頭を抱え、この状況下で更なる問題が起きた事に頭を悩める。しかし、ここでリリスが思いもよらぬ言葉を告げた。



「飛行船……」

「えっ?」

「飛行船を発進させましょう。あの飛行船ならロックゴーレムの大群だろうが蹴散らせる力があります」

「何だって!?」

「本気で言っているのかリリス!?」

「こんな時に冗談なんか言いませんよ、他に方法はないでしょう?」



まだ試運転も行っていない飛行船を飛ばせというリリスの言葉にレイナ達は驚くが、確かにこの状況で飛行船を動かす事に成功すれば空からロックゴーレムの大群に攻撃を仕掛ける事は出来る。


飛行船には既に竜種を倒すための魔導砲の砲台も搭載され、ロックゴーレムであろうと竜種を倒すために作り出された魔導砲ならば確実に倒せる。しかし、まだ動かした事もない飛行船に頼るなど不安な点もあるが、リリスはそれ以外に方法はないという。



「魔王軍の目的は分かりませんが、この状況では手段は選んでいられません。ここは一か八か、飛行船を飛ばしてみましょう!!」

「し、しかし……あの船はまだ完成していないのだろう?」

「それでは誰がロックゴーレムの大群に対処するんですか?仮にレイナさんを送り込んだ場合、王城の守備が大きく低下します。それともサンとクロミンに任せる方法もありますが、その場合だとレイナさんに負担が掛かりますよ」

「くっ……」



サンとクロミンを元の姿に戻せば大きな戦力にはなるが、その場合だとレイナの文字変換の能力の条件でる文字数を全て消費してしまう。文字変換の能力が使えなくなれば緊急事態の際にレイナが対応できない可能性もある。


リリスとしてもこんな賭けみたいに飛行船を発進させる事はしたくはないが、魔王軍が本格的に動き出した以上は迷う時間もない。敵が新しい手を打つ前に彼女は飛行船の発進を提案した。



「国王代理、決めるのは貴方です。何か他に打開策が思いつかないのなら飛行船を発進させてください!!」

「……本当に他に方法はないのか」

「悩んでいる暇も惜しいんですよ!!さあ、どうするんですか!?」

「私は……」

「ぷるる~んっ!!」



苦渋の判断を降そうとしたリルに対し、ここでクロミンが大きな声を上げる。そのクロミンの反応に他の者達は戸惑うが、彼は何かを伝えたいのか、唐突に体内の水分を天井に向けて吐き出す。



「ぷるっしゃああっ!!」

「うわっ!?きゅ、急にどうしたんだ!?」

「あう、冷たい……」

「ちょ、クロミン!!落ち着きなさい、もう水浸しになっちゃうじゃないですか!!」

「水浸し……水……!?」



クロミンの行為によって玉座の間に存在した者達は上から降り注ぐ水に濡れてしまうが、ここでレイナはある事に気付く。この方法ならば火災とロックゴーレムの大群の両方の対応を行える可能性もあった。



「クロミン、分かったよ!!やっぱり、お前は天才だ!!」

「ぷるるんっ……(←萎れる)」

「ど、どういう意味だい?」



レイナだけがクロミンの意図に気付き、彼の身体を持ち上げて歓喜の声を上げる。その様子にリル達は戸惑うが、レイナは説明している暇はないのですぐに外へ向けて駆け出す。





※クロミン「ぷるぷるっ(後は任せた……)」('、3_ヽ)_←安らかな死に顔(嘘)

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