第584話 王城襲撃

「止めろ、いったいどうしたというんだ!?」

「か、身体に何かが絡みついて……!!」

「何か、だと……!?」



オウソウは兵士の身体を見ると、いつの間にか兵士の身体に黒い蛇のような物が巻き付いている事に気付く。最初は魔物かと思ったが、よくよく観察するとそれは蛇の形を模した「影」である事を知る。


黒蛇のような影に兵士は巻き付かれ、無理やりに身体を動かされているらしい。咄嗟にオウソウは黒蛇を引き剥がそうかとしたが、本能的に素手で触れるのは危険だと判断して兵士を持ち上げた。



「すまん!!後で助けるからな!!」

「うわぁっ!?」



兵士を担ぎ上げたオウソウは投げ飛ばすと、王城を取り囲む水堀へと放り込む。兵士は悲鳴を上げながら水中に沈み、その様子を見たオウソウは一般人に声をかけた。



「お前達は早く逃げろ!!得体の知れない魔法を使う輩が近くにいる!!ここにいればお前達も巻き込まれるぞ!!」

「ひぃいいいっ!?」

「に、逃げろぉっ!!」

「敵襲だぁっ!!」



一般人はオウソウの言葉に恐れを抱き、その場を離れた。その様子を見てオウソウは安心する暇もなく、彼の背後から今度は槍を構えた兵士がオウソウに襲い掛かった。



「お、オウソウさん!!避けてっ!?」

「うおっ!?」

「くそ、身体が……」

「な、何が起きてるんだ!?」



オウソウは慌てて身体を逸らして槍を回避する事に成功したが、周囲の兵士達は突如として苦しみ始め、オウソウに大して武器を構える。


オウソウは全員の身体に黒蛇が巻き付いている事に気付き、彼は咄嗟に身構えるが不意に足元に違和感を感じて視線を向けると、そこには自分に近付く黒蛇が存在した。



『シャアアッ!!』

「うおおっ!?」



黒蛇が自分に向けて飛び掛かる光景を見てオウソウは反射的に飛びのき、偶然にも篝火の近くへと移動する。この時、接近していた黒蛇は松明の光を浴びた瞬間、苦しそうに慌てて距離を取る。



『シャウッ……!?』

「んっ!?まさか……そうか、こいつが弱点か!!」



オウソウは篝火に視線を向け、黒蛇の弱点が「炎」かと思い、携帯していた松明を取り出す。火を灯すと彼は松明を掲げて兵士達の元に駆けつけ、松明を突き出す。



「これならどうだ!?」

『シャアアアッ!?』



松明で兵士を照らした瞬間、彼等の身体に巻き付いていた黒蛇が消え去っていき、兵士達は肉体の自由を取り戻す。



「あちっ……あ、あれ?身体が急に楽に……」

「どうなってるんだ?」

「いったい何が……」

「よし、やはり火が弱点だったか!!」



黒蛇を兵士達から引き剥がす事に成功したオウソウは満足そうに頷き、すぐに残された最後の黒蛇に視線を向けた。この黒蛇だけはオウソウを狙っているのか他の兵士にとりつく暇もなく、オウソウは松明を抱えた状態で黒蛇と向かい合う。


得体の知れない蛇の形をした「影」に対してオウソウは闇属性の魔法だと見抜き、この影の蛇に身体を巻き付かれると操られる事は明白だった。しかし、炎が苦手なのか松明を翳しただけで消えてしまうのを確認したオウソウは黒蛇へ向かった。



「これで終わりだ!!」

「オウソウさん、危ない!?」

「何っ!?」



兵士の言葉に咄嗟にオウソウは顔を上げると、城の中からボーガンを構える謎の人物が存在する事に気付き、相手はオウソウに向けて矢を放つ。顔面に向けて迫る矢に対してオウソウは目を見開き、兵士達は彼の顔に矢が当たったのを目撃した。



「ふがぁっ!?」

「お、オウソウさん!!」

「そんなっ……!!」

「だ、誰だ!?いったいなんてことを……!!」



矢を受けたオウソウが倒れたのを見て兵士達は彼がやられたと判断し、慌ててボーガンを放った人物に振り返る。しかし、確かに存在した人物は既に姿を消しており、残されたのは顔面に矢を受けて倒れたオウソウのみだけである。


兵士達はオウソウの元へ駆けつけ、彼の治療を行おうとした。だが、ここで兵士達はオウソウの顔を覗き込み、信じがたい表情を浮かべた。



「ふぐぐっ……ぺっ!!」

「お、オウソウさん!?」

「無事だったんですか!?」

「ああ、歯で受け止めてどうにかなった……」

『えええっ!?』



オウソウはあろう事か飛んできた矢に対して歯で噛みつき、止めた。獣人族ならではの防御法だが、彼は口から捨てた矢を見て冷や汗をかく。



「くそ、何者だ……いや、そんな事よりもすぐに報告しなければならん!!敵襲だ、もう賊は王城に乗り込んでいるぞ!!」

「す、すぐに連絡してきます!!」

「ちょっと待て……あれ、何だ!?」



王城に侵入者が現れた事に兵士達は城内の人間に報告に向かおうとしたが、ここで兵士の一人が城下町の異変に気付く。オウソウは兵士の言葉を聞いて振り返ると、城下町のあちこちで煙が上がっており、火災に襲われていた。


その光景を目にしたオウソウは唖然とするが、すぐにこの事態の原因を突き止める。侵入者、城下町の火災、謎の噂、これだけの行為で「敵」の正体は明確であり、遂に魔王軍が王都へ攻め込んできた事を彼は悟り、歯ぎしりを行う――





※水堀の兵士「あぷあぷっ……(´;ω;`)タスケテー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る