第583話 王都の異変

――時刻は夜を迎える頃、王都の民衆の間では様々な噂が広がっていた。その内容というのがどれも荒唐無稽な内容なのだが、王都の民衆は不安を煽る。



「お、おい!!聞いたか?北方領地を任されているガーム将軍が再び反旗を翻して王都に乗り込もうとしているらしいぞ!!」

「はあっ!?何だそりゃ、嘘だろ?この間に和解が成立したばかりだぞ?」

「それよりも俺は実はガオ王子が生きていて、南部の貴族達と手を組んで王位を取り戻そうとしている話を聞いたんだが……」

「大変だ!!南側の方で殺人鬼が現れたらしいぞ!?もう何十人も殺されているらしい!!」

「な、何だって!?俺は冒険者ギルドの方で騒ぎが起きたとか聞いているが……」



城下町の民衆の間には様々な噂が広がり、その内容の殆どが信じられない話だったが、何故か噂は広まっていく。やがて民衆は混乱へと陥り、噂の内容を確かめるために王城に問い合わせしてくる者達も現れた。



「国王代理!!ガーム将軍が大軍を率いて攻め込もうとしている話は本当ですか!?」

「牙路から大量の牙竜が出現したという話も本当ですか!?」

「街の中に大量殺人鬼が現れたと噂になっていますが、そんな奴がいるんですか!?」

「ええい、近づくな!!お前達、ここを何処だと思っている!?」



王城の正門に大勢の民衆が駆けつけ、噂の信義を確かめようと押し寄せてくる。そんな彼等に対して兵士達は中に通さないように押しとどめるが、混乱に陥った民衆は真実を確かめようと次々と押し寄せてきた。


兵士達は必死に対応するが、あまりにも数が多く、噂に惑わされた者達が後を絶たない。その様子を城壁から見下ろした警備隊長は仕方なく対応する。



「お前達、落ち着け!!私はこの城の警備隊長のジョンだ!!お前達の質問は国王代理に代わり、私が答えよう!!」

「け、警備隊長……では聞きたいことがあります!!現在、王城にて謀反が起きたという話は本当ですか!?」

「な、何だと!?」



一人の男性がジョンに真っ先に質問すると、あまりに物騒な内容にジョンは言い返そうとした時、ここで一人の兵士がジョンの背後に接近する。そして彼は剣を引き抜くと、ジョンの背中に目掛けて突き刺す。



「う、うわぁああっ!?」

「ぐあっ!?」

「なっ!?き、貴様……何をするか!?」

「ひいいっ!?」

「さ、刺しやがった!!あの兵士、刺しやがったぞ!?」



ジョンが答える前に彼の背後から近づいた兵士が剣を突き刺し、背中から貫かれたジョンは倒れ込む。その様子を見ていた他の兵士達は慌てて剣を刺した兵士を取り押さえ、その様子を見ていた民衆は怖気づく。


背中から剣を刺した男は苦し気な表情を浮かべ、必死に自分を抑える。兵士達を振りほどこうとする。この時に城内から騒動を聞きつけた白狼騎士団の団員のオウソウが現れると、何事が起きたのかを尋ねる。



「おい、こんな時間に何を騒いでいる!?」

「あ、オウソウ殿……た、大変です!!この男が警備隊長を急に刺して……」

「何だと!?」

「ち、違う……俺じゃないんだ、俺が刺したんじゃないんだ……!!」

「何を言ってるんだお前は!?俺達の前で隊長を刺しただろうが!!」



取り押さえられた男は苦し気な表情を浮かべ、必死に自分が隊長を刺した事を否定するが、その手には血塗られた刃の剣が握りしめられていた。どう見ても言い逃れできる状況ではないが、そんな彼の態度を見てオウソウは疑問を抱く。



「おい、その男が警備隊長を刺したというのは本当なのか?」

「はい、間違いありません!!この場に存在する全員が見ていました!!」

「ち、違うんだ……身体が、身体が勝手に動いたんだ!!俺は必死に抵抗したんだ!!でも、身体が言う事を聞かなくて……」

「何を戯言を!!」

「そんな言い訳が通用すると思っているのか!?」

「…………」



兵士の男の言葉に周囲の人間達は怒りを露にするが、オウソウは男の言葉を聞いて違和感を覚えた。彼が嘘を吐いているようには見えず、そもそもこの状況下で苦し紛れの言い訳を行う事が逆に怪しく思う。


以前のオウソウならば話も聞かずに即刻に男を連れていくように命じたかもしれないが、レイナ達と出会ってから彼は変わり始めた。どうしても男の言葉が気になったオウソウは詳しく話を尋ねようとした時、ここで背後に気配を感じて咄嗟に彼は振り返る。



「う、うわぁああっ!?」

「ぬおっ!?」

「な、何だ!?お前、急にどうしたんだ!?」

「ち、違う……身体が勝手に、動くんだよぉっ!?」



オウソウは背後から切りかかられ、慌てて彼は身体を逸らして回避に成功するが、オウソウを斬り付けようとしたのは取り押さえられた男とは別の兵士だった。兵士は苦し気な表情を浮かべながらも無茶苦茶に剣を振り回し、その様子を見ていたオウソウは慌てて兵士の腕を抑えつけた。

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