第582話 牙山の異変

――ハンゾウとティナはシロとクロに乗り込み、牙路へ向けて移動を行う。この際に二人は最短距離で牙路へ向かうため、牙山を通り抜けようとした。この山にはサンドワームが生息するという理由で誰も近寄る事は出来なかったが、レイナのお陰で現在は安全な場所へと変化していた。


保護されたサンドワームはダークエルフに変異し、サンとして行動している。また、牙山には新しい「トンネル」も作り出され、現在は以前以上に通りやすい環境になっているはずだった。しかし、ティナたちが辿り着いたときには牙山には明らかな異変が生じていた。



「こ、これは……どういう事でござる?」

「崩落……でしょうか?」



山の反対側にまで繋がるはずのトンネルは何故か塞がっており、何が起きたのか出入口が巨大な岩石によって塞がれていた。トンネルが崩壊して出入口が塞がったのかと二人は思ったが、それにしては不自然な点があった。


まずトンネルの出入口を塞ぐ岩石は尋常な大きさではなく、少なくとも10メートルを超える巨大な岩だった。最初は岩壁が崩れて落ちてきたかと思われたが、それにしてはこれだけの巨大な岩石が偶然にも落ちてトンネルを塞いだとは考えにくい。



「むう、参ったでござるな。このトンネルを使えないとなると山を登って超えるしか方法ないでござる。しかし、それだとシロとクロが牙山を迂回しなければ合流はできないでござる」

「クゥ~ンッ……」

「仕方ありませんね……一か八か、この巨岩を破壊して見ましょう」

「えっ!?そんな事が出来るのでござるか!?」

「やってみなければ分かりませんが……」



ティナはシロから下りると、大剣を手にした状態で巨岩の前へと移動する。本当に巨岩を破壊するつもりなのかとハンゾウは焦るが、彼女は巨岩を前にして大剣を構え津お、勢いよく踏み込む。



「せいやぁっ!!」



気合の掛け声と共にティナは大剣を振り抜き、巨岩へ向けて叩き込む。普通の岩石ならばティナの一撃で壊れるか、少なくとも亀裂程度は生じるはずである。しかし、振り抜いた大剣は巨岩に触れた瞬間、巨岩の表面に「人面」のような物が浮き上がった。




――ゴォオオオオッ!!




次の瞬間、巨岩から人間の手足のような腕と足が出現すると、やがて巨大な「ロックゴーレム」と化してティナの前に立ちふさがる。その光景を見てティナとハンゾウは驚き、まさかトンネルを塞いでいた巨岩の正体が大型のロックゴーレムだとは思いもしなかった。



「これは……ロックゴーレム!?どうしてこんな場所に……」

「ティナ殿、ここは足場が狭いでござる!!すぐに逃げなければ!!」

「ゴオオッ!!」



ハンゾウはすぐにティナに逃げるように指示を出すが、大型のロックゴーレムは自分に攻撃を仕掛けたティナとハンゾウに大して怒りの咆哮を上げ、右足を振りかざす。その結果、狭い足場に存在したティナたちは避ける事も出来ずにロックゴーレムの一撃を受けて墜落してしまう。



「きゃああっ!?」

「ぬああっ!?」

「「キャインッ!?」」



ロックゴーレムの攻撃をかわしきれずにティナたちは吹き飛ばされてしまい、地上へ向けて落下した。その光景を確認したロックゴーレムは咆哮を上げると、その声に反応するかのように次々と牙山のあちこちの岩壁から人面が浮かんできた。


牙山には既に数十体のロックゴーレムが待ち構えており、人間程の大きさのゴーレムや15メートル級の巨大なゴーレムも含まれていた。既に魔王軍の侵攻は始まっており、牙山に潜んでいたロックゴーレムたちは王都へ向けて進行を開始する――





――同時刻、牙路を見張っていた砦と見張り台を破壊し、王都へ向けて数体の牙竜が進行していた。その指揮を取るのは魔物使いのジョカであり、彼女は途中の村などを無視して牙竜達をケモノ王国の王都へ向けて移動させていた。



「あんた達、餌が欲しいんでしょう?でも、これ以上に食べたら駄目よ。もっと飢えなさい、王都へ辿り着く事が出来ればたんまりと餌にありつけるわよ」

『ガァアアアアッ……!!』



ジョカは敢えて牙竜達に何も食べさせず、飢えさせる事で牙竜達の獰猛性を煽っていた。ジョカの傍にはツルギも控え、彼は自分の魔剣に目を向けながらも楽しみにしていた。



(ガーム、ライオネル、それに勇者レア……お前達に儂を止める事は出来るか?)



最悪の魔剣「紅月」の刃の輝きに魅入られたツルギは笑みを浮かべ、彼は先日に手を組んだもう一人の仲間を思い出す。魔王軍に所属する人間ではないが、金さえ払えばどんな仕事も引き受ける男であるため、既に王都へ潜入して動いてるはずだった。



(さて、儂等が到着するまで上手くやるんだぞ……傀儡師よ)



ツルギは剣を鞘に納めると、笑みを浮かべて空を覗き込む。既に時刻は夕方を迎え、間もなく夜の時間帯に訪れようとしていた――

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