第581話 最終調整
「それはそうと、飛行船に関してなんですが最終調整に入るそうです。レイナさんの作り出した魔導砲も取り付けましたし、後は実際に飛べるかどうかを確かめるだけですね」
「そうか……遂に飛行船に乗れるという事か」
「飛行船が完成すればこれまでは移動に困難だった場所も自由に行き来できますね。そうだ、雷龍を倒した後は飛行船で気ままに旅でもしませんか?」
「何をのんきなことを……といいたい所だが、空の旅か。確かにそれは夢があるな」
「楽しそう、わくわくしてきた」
「きゅろっ……サンは高い所怖い」
「ぷるぷるっ(大丈夫、傍にいてあげるよ)」
「なんかクロミンが格好いい事を言っている気がする……」
飛行船は全ての準備を整え、後は実際に飛べるかどうかを確かめるらしい。念のために出発前にレイナが解析の能力を利用し、問題点がないのかを確かめている。それでも本当に空を飛ばす事になると緊張も隠せず、製作者のリリスも上手く成功する事を祈るだけだった。
「飛行船の試運転は明日の昼に行います。この飛行船が完成すればもう私達に怖い物無しですが……万が一の場合を想定して搭乗者はレイナさんにお願いしていいですか?」
「え、俺!?」
「レイナさんがいれば飛行船に何らかの不備があっても対処できますしね、それに私も一緒に乗ってあげますから安心して下さい」
「逆に不安なんだけど……」
「どういう意味ですか!?」
リリスの言葉にレイナはまさか飛行船の試運転に自分が乗り込むとは思わなかったが、もしも飛行船に何か起きた場合はすぐに対処できるのは自分だけという言葉に言い返せず、了承した。しかし、話の際中に慌てた様子の兵士が駆けつけてきた。
「こ、国王代理!!ここにおられましたか!!」
「どうした?そんなに慌てた様子で……」
「緊急事態です!!牙路付近の見張り台から狼煙が上がったとの報告が届きました!!」
「何だって!?」
兵士の言葉にリルは驚いた表情を浮かべると、兵士は何が起きたのかを話し始めた――
――牙路を利用してレイナ達が帝国へ行き来している事を魔王軍に知られて以降、リルは牙路の付近に砦を築いて見張り台を用意した。この見張り台が牙路の様子を伺い、もしも異常事態が起きた場合は狼煙を上げるように彼女は指示を出す。
見張り台は一定の間隔で用意され、仮に狼煙が上がった場合はすぐに別の見張り台が狼煙を上げ、連絡を行う役目を持つ。狼煙を確認した場合、すぐに王都へ連絡を行う仕組みとなっており、先ほど狼煙が上がったという報告が王城に届いたという。
具体的に牙路にて何が起きたのかは不明だったが、緊急事態が発生した事は間違いなく、すぐに牙路の様子を伺う必要があった。しかし、仮に牙路へ向かうとなると相応の戦力を用意しなければならず、ここでリルは思い悩む。
「牙路で何が起きたのかを確かめる必要がある。しかし、誰を派遣させるべきか……」
「そういう事なら俺が行きます。牙路なら何度か言った事がありますし……」
「いえ、ここは私に任せてください。もしかしたらレイナ様を誘き寄せる魔王軍の罠である可能性もあるかもしれません」
「なるほど、ティナ君か……確かに君なら適任だな」
牙路の確認のために誰を派遣させるか話し合う中、ティナが真っ先に名乗り出た。彼女は黄金級冒険者であるために実力もあり、仮に牙竜が牙路から侵入してきたとしても彼女なら対抗できる力を持つ。
しかし、ティナだけに任せるわけにもいかず、誰か他にも戦力が必要だと思ったリルはハンゾウに視線を向け、彼女に尋ねた。
「ハンゾウ、君も行ってくれないか?万が一の場合、ティナを連れて逃げ出せるのは君しかいない」
「承知!!拙者も修行の成果を試したい所でござった!!」
「では、よろしくお願いします。ハンゾウさん」
牙路への偵察はティナとハンゾウに任せ、更に移動手順として二人にはシロとクロを貸し与える。万が一の場合を想定し、ティナはシルの世話はサンに任せる事にした。
「サンさん」
「きゅろ?サンはサンだよ。サンサンじゃないよ?」
「いえ、そういう意味では……すいません、ではサンにシルの事を任せたいのですが、よろしいですか?」
「ぷるっくりんっ……」
「大丈夫!!クロミンと一緒にシルの面倒を見る!!」
「ぷるぷるっ」
サンは元気よく返事を返すと、シルを受け取る。その様子を見てティナは安堵した表情を浮かべ、彼女にシルを任せるとハンゾウと頷き合う。
「では、私達は牙路へ向かいます。何事も問題なかった場合はすぐに引き返しますので……」
「ああ、何事も起きていない事を祈るよ」
「それではすぐに向かうでござる!!その前にリリス殿、先ほどの薬を分けてもらえるでござるか?」
「どうぞどうぞ、試作品なので数はあんまりありませんけど、持って行ってください」
ハンゾウは念のためにリリスが作り出した回復薬を受け取ると、ティナと共に急ぎ足で牙路へと向かう。その様子をレイナ達は見送る事しか出来なかった――
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