第580話 上級回復薬
「はあっ!!とりゃっ!!」
「くっ、このっ!!」
「せいやぁっ!!」
「ていっ、ていっ……ふう、疲れた」
「お~励んでますね。皆さん、一旦休憩しましょうか。差し入れを持ってきましたよ」
城内に存在する訓練場にてレイナ達は激しい訓練に励んでいた。そんな彼女達の元に木箱を抱えたリリスが現れる。彼女は木箱の蓋を開くと、そこには大量の回復薬が入っていた。
「ほら、これを見てください!!改良に改良を重ねた結果、遂に完成しましたよ!!これが私の作り出した
「上級回復薬……?」
「従来の回復薬の何倍もの回復速度と回復効果を併せ持つ優れものですよ!!体力回復の効果も抜群ですからね!!」
「お前、またそんな変な薬を作ったのか……」
「変な薬とはなんですか!?レイナさんが作り出した精霊薬を参考に開発した新薬ですよ!!」
リリスの言葉にチイは呆れてしまうが、そんな彼女に対してリリスは不満そうに自分の作り出した回復薬を差し出す。こちらの薬は全てリリスが制作した代物であり、森の民が育てている特殊な薬草から作り出した代物だと説明する。
「この回復薬を作り出すのに私がどれほど苦労したが……私の土地で栽培している薬草よりも効果の高い薬草を森の民から分けてもらいました。それを上手く調合して作り出したのがこの上級回復薬なんですよ!!」
「もう分かったでござるよ。リリス殿も大変だったのでござるな」
「てっきり、訓練が嫌でサボっていると思った」
「失礼な!!そもそも私は非戦闘員です!!訓練に参加する必要はありません!!」
「ここまで言い切られると逆に清々しいな……」
レイナ達はリリスが作り出した上級回復薬に視線を向け、とりあえずは全員が1本ずつ飲んでみる事にした。特に大きな怪我は負っていないが、一口で飲み込むと彼女の言う通りに消耗していた体力が一気に回復したような気分に陥る。
一口だけで体力を取り戻し、更には身体に力が漲るような感覚へと陥ると、レイナ達はその効果に驚きを隠せない。その一方で獣人族のリル、チイ、ネコミンは舌を出す。
「うえっ……な、なんだこの回復薬は……少し味が濃いぞ」
「草のような香りがする」
「普通の回復薬よりもきついな……」
「え、そうですか?俺は別に……」
「拙者も平気でござる。兵糧丸と比べればどうってことはないでござるよ」
「ああ、獣人族の方は味覚のほうも優れてますからね。ちょっと味の方はきつのかもしれません」
「まずい、おかわり!!」
「ぷるぷるっ(もう1本!!)」
「いや、いたんですか貴方達」
リリスが開発した上級回復薬は通常の回復薬よりも臭いと味が濃いらしく、特にレイナとハンゾウは気にしなかったが、嗅覚と味覚が鋭い獣人族からすればきつい飲み物だという。
しかし、効果の方は確かで長時間の訓練で疲れていたはずの身体は回復し、それどころか訓練前の時よりも身体に力が漲っていた。まるで栄養剤のような効果を併せ持ち、どちらかというとドーピングに近い性質を持っているのかもしれない。
「この上級回復薬の次の改善は味と香りですかね。まあ、現状でも十分な効果があるんですから皆さんも普段から1本ぐらいは着用して下さい」
「こ、これをか……」
「あんまり持ちたくない……」
「ううっ……しかし、効果を考えると文句は言えないのか」
「いや、どんだけ嫌がってるんですか。そこまでの覚悟ないと駄目なんですか?」
渋々と上級回復薬を受け取るリル達にリリスは呆れるが、彼女はレイナの力を借りずとも良質な回復薬の生産に成功した。これは間違いなくリリスの功績であり、レイナにも回復薬の大量生産は不可能だった。
レイナの能力は万能に近いと思われるが、実際の所は制限も多い。精霊薬などのこの世界の最高品質の薬を作り出す事は出来るが、薬の量産などは行えない。しかし、その作り出した薬をリリスは研究し、再現を試みる事は出来る。
(何気にリリスも凄い事をやってのけるんだよな。それに比べて俺は能力頼りばかりだな……)
自分と比べてもリリスの方が余程高い能力を持っている事にレイナは内心で引け目を感じる。彼女は転生者ではあるが、薬の調合技術などは独学であり、彼女の努力によって手に入れた知識と技術はレイナのような能力ではない。その点ではレイナもリリスを見習うべきなのだが、どうも彼女の場合は仕事は趣味半分で行っているようにしか見えない。
「それよりも皆さんの方は訓練はどんな感じですか?例の武器は使いこなしていますか?」
「ああ、最初の頃と比べて大分マシにはなったな……それにしてもまさかこんな形でこの剣を手にするとは思わなかったな」
「こうして手にしてみて分かったが、改めてレイナの凄さを思い知らされるな……」
「流石はレイナ、世界を救う救世主」
「いや、別にそんなたいそうな存在じゃないけど……」
リリスの質問にリル達はレイナに尊敬の眼差しを向け、そんな彼女達の反応にレイナは照れ臭そうな表情を浮かべる。
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