第578話 魔導砲の量産

「何を言ってんですか、こうして魔導砲は完成したんですよ?なら、後はレアさんの能力で複製品を作り出せばいいだけです」

「えっ……いや、でも前の時は俺の能力では作り出せなかったよ?」

「それは前の話でしょう?今は違うはずです、あの時は魔導砲は存在しませんでしたが、今はこうして試作品とはいえ現実に存在します。ならレアさんの能力で作り出せるんじゃないですか?」

「ええっ……出来るかな?」



リリスの言葉にレアは半信半疑ながらに適当な道具を探し出し、とりあえずは解析と文字変換の能力で魔導砲を作り出せるのかを試す。



「私の推測だと現物があるのならば複製品も作り出せるはずです。さあ、お願いします!!」

「う~ん、そんなに上手くいくかな……じゃあ、行くよ。うおりゃあぁあああっ!!」

「そんなに気合を込める必要があるのでござるか!?」



詳細画面に表示された文字をレアは文字変換で「魔導砲」と書き換えた瞬間、前回の時は変化が起きずに文字が消えてしまったが、今回は成功したのか物体が輝き出す。そしてレア達の前に魔導砲と瓜二つの姿形をした新たな魔導砲が誕生した。


目の前に出現した新しい魔導砲を見てレア達は驚き、リリスの予想通りに本当に魔導砲の量産に成功した事に動揺を隠せない。その一方でリリスの方は新たに誕生した魔導砲の確認を行い、頷く。



「やっぱり成功しましたね!!ほら、これを見てください!!実は密かに私が彫った兎さんマークもありますよ!!」

「いつの間にそんな可愛らしい物を……」

「し、信じられん……あれほど時間をかけて作り出した物をこうもあっさりと作り出すとは……」

「ふふふ、理論上ならば飛行船だって完璧に完成した場合はレアさんの能力で作り出せるはずです!!そうなれば飛行船の艦隊だってできますよ!!ふはははっ、これでケモノ王国の世界征服も夢ではありません!!」

「いや、発想が物騒過ぎるよ!!俺達の方が魔王軍みたいな感じになってるけど!?」

「あ、すいません。流石に取り乱しました。でも、この調子でレアさんには魔導砲を1日に1台は作ってもらいますよ。そして魔導砲を飛行船に乗せて砲台を作り上げれば対竜種用決戦兵器「スカイシャーク号」の完成です!!」

「勝手に飛行船に名前を付けるな!!」



リリスの言葉にリルはツッコミを入れるが、魔導砲の複製に成功した事は素直に喜ばしく、後は飛行船の砲台に詰め込めばとりあえずは飛行船は完成する。そして完成した飛行船で雷龍を打ち倒すという計画も夢物語ではなくなってきた――






――同時期、ケモノ王国とヒトノ帝国の領地の境目に存在する山脈、この地には帝国が築いたケン城とは別に実は内密に作りだされた城が存在した。城と言っても実際の所は山をくり抜き、そこに人間が住める住居を作り出したに過ぎない。


硬い岩壁をくり抜き、言葉通りの「天然の要塞」には数名の人間が存在した。その中には過去にレア達と交戦した人間も存在し、魔王軍の最高幹部であるジョカや現在は黄金級冒険者の位を剥奪され、指名手配中のツルギの姿も存在した。そしてレアが偶然にも街中ですれ違った大男もいた。


この3名は円卓に座り込み、誰も座っていない椅子が3つ存在した。その内の2つはかつて吸血鬼の「アルドラ」魔王軍の幹部である「グノス」が座っていた。そして残りの1つの席には遅れてやってきた男が座り込む。



「悪い、待たせたな」

「……遅すぎよ、何時まで待たせるつもり」

「ほう、お主が最後の一人か……」

「…………」



姿を現したのは額に角を生やした男性であり、その男はかつて帝都から脱出を計ろうとしたウサンを殺害した人物だった。ウサンを殺した時とは違い、現在の彼の皮膚は赤黒く変色しており、それを見たツルギは呟く。



「鬼人族、か……この儂でさえも初めて見たぞ」

「……何か文句があるのか?」

「いや、別に文句はない。しかし、お主等は当の昔に全滅したと思って負ったがな」

「黙れ、新参者……いっておくが、俺はお前よりも長い時を生きているんだぞ」



ツルギの「鬼人族」という言葉に男性は目を見開き、身体中の血管を浮き上がらせる。そんな彼に対してツルギは松葉杖の仕込み刀を抜こうとするが、ここで沈黙を保っていた大男が机に拳を叩きつける。それだけの動作で部屋全体に振動が走り、天井の埃が落ちてきた。



「静かにしろ、もうすぐあの御方が訪れる。無礼は許さんぞ」

「ちっ……」

「……すまん」

「全くっ、これだから男どもは……」



大男の威圧に気圧されたのか鬼人族の男性は舌打ちしながらも足を組み、ツルギの方も刃を戻す。そして改めて彼は大男に視線を向け、全く隙の無い佇まいに嫉妬心を抱く。



(まさか魔王軍にこれほどの強者がいたとは……やれやれ、儂の全盛期でも勝てるかどうか)



この場に存在する全員が只者ではなく、最も危険ななのはジョカでも鬼人族の男性ではなく、圧倒的な威圧感を誇る大男で間違いなかった。

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