第576話 貴方様のために仕えましょう
「ちょ、転生者の事を知ってるんですか!?」
「うむ、何度か会った事がある。一つの肉体に何故か二つの魂が存在し、それでいながら重なるように一体化している人間を……そんな者は全員が前世の記憶を持ち合わせているらしい」
「ほえ~……なるほど、そういう感じなんですか」
カレハの言葉にリリスは驚いた表情を浮かべ、自分の胸元に手を押し当てる。リリスの場合は幼少期にある事情で前世の記憶を思い出したのだが、実際の所はそれが本当に自分の記憶なのか確信は抱いていなかった。
しかし、カレハの言葉によってリリスは二つの魂が一体化しているらしく、前世の記憶が蘇ったのは二つの魂が合わさったからかもしれない。また、地球から訪れたレアの魂も普通の人間とは魂の強さが違うらしく、カレハはレアの魂を覗き込む。
「それにしても勇者様の魂の輝きはなんと立派な事……これほどの魂の持ち主は私が仕えた勇者様以来です」
「へ、へえっ……そういえば勇者様に仕えたという事は、カレハさんは森から出た事があるんですか?」
「ああ、私はこの里を救ってくれた勇者様に一時期仕えた事がある。最も勇者様はすぐに亡くなってしまったが……」
かつて森の民が危機に陥った時、一人の勇者が訪れて彼等を救った。その事から森の民は勇者という存在を信仰するようになり、カレハも森をでて勇者と共に旅をした時期もあった。
残念ながらエルフであるカレハと地球からきたとはいえ、人間である勇者は寿命の違いによってずっと一緒にいられる事は出来なかった。それでもカレハは勇者とは相思相愛の関係だったという。
「私は勇者様を愛し、勇者様も私の事だけを愛してくれた……だからこそ私は勇者様の願いを聞き入れ、次世代に訪れる勇者のために力を貸す事を誓った。勇者レア殿、今後も森の民は貴方様のために忠誠を誓う事をここに約束します」
「いや、そんなかしこまらなくても……」
「何を言ってるんですか、森の民の協力を得られるならどれだけ心強い事か……じゃあ、まずは手っ取り早く船作りに必要な素材を提供してもらいましょうか」
「船?」
レアとリリスはここでカレハに雷龍ボルテクスの討伐のために飛行船を作り出す計画を話し、その話を聞き入れたカレハはすぐに森の民を総動員させ、船作りに必要な木材の調達を行う――
――浮揚石、木材の調達を完了したレア達は今度は人員の確保のために行動し、竜種に対抗する船となるとやはり建築技術に優れたドワーフの協力は欠かせなかった。こちらの方は冒険者ギルドの方にも動いてもらい、大量のドワーフを呼び寄せる。
「皆、よく集まってくれた!!僕達はこれから、勇者の伝承に存在する「飛行船」なる船を作り出す!!そして竜種を倒すための兵器の開発を急ぎたい!!」
「ひ、ひこうせん……それは空を飛ぶ船の事か!?」
「竜種を倒すための船だと!?」
「そんなもん、作れるのか!?」
集められたドワーフ達はリルの話を聞かされて半信半疑ではあったが、そんな彼等の元に調達した浮揚石、木材、更にはリリスが作り出した魔導砲の計画書を用意する。彼等はそれらを見て驚き、特に貴重な浮揚石が存在する事に動揺を隠しきれない。
「我が軍師の話によるとこれだけの素材と、優れた技術を持つ君たちの力があれば飛行船だろうと開発できると聞いている!!この飛行船と兵器の開発に成功すれば、もう僕達は竜種という脅威に怯えなくて済むんだ!!」
「し、信じられねえ……」
「だが、本当にこれだけの素材があれば……」
「無論、船の開発に成功すれば君たちにもそれ相応の報酬を約束する!!もしも船が完成し、竜種を屠る事が出来れば……君たちは伝説の飛行船を再現した職人、つまりは英雄になれるんだ!!」
「え、英雄……!!」
「俺達が英雄に……!!」
仕事が大きいほどにドワーフはやる気を起こし、彼等はリルの言葉に乗って飛行船の開発とリリス考案の魔導砲の建設に動き始めた――
――そして月日は流れ、一か月後にはケモノ王国の王都にて巨大な飛行船の開発に成功した。また、建設の途中でドワーフ達の様々な改良が施され、飛行船には風属性の魔石を搭載して作り出したプロペラも取り付けられ、浮揚石を利用して船を浮上させると、風属性の魔石でプロペラを回転させる事で移動を行う原理となる。
開発までにはもっと時間が掛かると思われたが、ドワーフの建設技術はリリス達の想像を超え、僅か一か月足らずで飛行船の開発に成功する。しかし、肝心の竜種に対抗するための魔導砲に関しては実験段階であり、船を飛ばす前に魔導砲の試し打ちが行われる事になった。
「よ~し、それじゃあ行きますよ!!皆さん、下がっててください!!下手に近付いたら暴発して吹き飛ぶ可能性もありますからね!!」
「ほ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「……ドキドキしてきた」
「ここまで苦労して、爆発は嫌でござるよ!!」
レア達は王都の近くに存在する丘にて魔導砲の試し打ちを行うため、準備に取り掛かる。魔導砲の外見は「大砲」と全く同じ見た目をしているが、違う点があるとすれば装填されるのは火薬の砲弾ではなく、砲弾の形に削り取られた魔石である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます