第574話 族長の快復

――族長であるカレハは里に暮らすエルフの中でも年長者だった。しかし、ある時に病にかかって倒れてしまう。その病というのも「奇病」と呼ばれ、彼女は急速的に若返っていく。


置いていた肉体は日に日に若返っていくが、同時に彼女の身体はどんどんと衰弱していった。若返りの奇病の原因は不明だが、この病のせいで今では族長の肉体は20代の時にまで若返る。もしもこのまま若返りを続けた場合、恐らくは20才前後で死亡してしまうと考えられた。


森の民も彼女を救うために様々な薬を処方して見たが、効果は一向に現れない。薬剤師が調べたところ、現時点のカレハの肉体は若返る事だけに魔力を全て消耗している状態であるらしく、仮に魔力を回復させる薬を使用しても若返りが早まって逆に追い詰めてしまう。



「若返りの奇病はこの世界では治療法が確立されていません。そもそもこれが病気なのかどうかも判明していないんです。唯一、分かっている事があるとすれば20才前後まで若返るとどんな人物だろうと衰弱死してしまうという事だけです」

「そんな怖い病気だったのか……でも、本当に治せるの?」

「そこは頑張りましょう。では、まずはレアさんから診察してください」



今回は森の里に訪れるという理由で勇者レアとして赴き、先にレアがカレハの顔を覗き込んで解析を行う。詳細画面が表示されてカレハのレベルや状態が表示される。



(うわ、この人凄い!!今まで出会った人の中で一番のレベルだ!!)



カレハのレベルは驚くべき事に70を超えており、更には多数の能力を所有している事が発覚した。しかし、それらを確認する暇はなく、状態の項目を確認した。





――個体名――


職業:精霊魔導士


性別:女性


状態:奇病


レベル:73


特徴:森の民の族長を務め、数多くの技能と固有能力を所有する。精霊の加護の恩恵で精霊を呼び寄せる能力を持ち、若かりし頃は勇者と呼ばれる存在と共に旅をした。現在は「若返りの奇病」に襲われ、残り数日の命である



――――――――





画面に表示された文字を確認してレアは頷き、最初にリリスに精霊薬を飲ませるように促す。彼女は薬瓶を取り出すと、カレハに飲み込ませようとした。



「ほら、落ち着いて飲んでください。これを飲めばもう大丈夫ですからね」

「ぞ、族長……!!」

「大丈夫です、俺達を信じてください」



カレハの身体に人間であるリリスが触れる事に長老のオチバは身体を震わせるが、レアが彼を宥める。本来、族長であるカレハは人前には滅多に顔を出さない。しかも人間を見下す傾向がある森の民がよりにもよって人間に助けを求めるなどあってはならない事である。


しかし、今にも死にそうなカレハを見捨てる事は出来ず、長老は他の者達を説得してレアとリリスをここまで呼び寄せた。彼女が助かるのであれば長老は何を犠牲にしてでも助ける覚悟は出来ていた。そしてリリスがカレハに精霊薬を飲ませると、彼女の身体に変異が起きた。



「う、ぐぅっ……あ、あああっ!?」

「ぞ、族長……カレハ!?」

「レアさん!!」

「……大丈夫、薬が効き始めたみたい」



精霊薬を飲ませた途端、カレハの身体に異変が訪れ、彼女は苦しみ悶える。その姿を見た長老は声をあげるが、レアはすぐに詳細画面を確認してカレハの身体に表示されていた「奇病」の文字が消えている事を確認する。



「ぶはぁっ!?はあっ、はっ……こ、ここは……!?」

「か、カレハ……儂だ、儂の事が分かるか!?」

「おお、オチバではないか……儂の事を呼び捨てにするとは、ふふふ……余程切羽詰まっておったな」



カレハが目を覚ますとオチバは感極まって彼女の腕を掴み、泣き始める。そんなオチバを見てカレハは驚いた表情を浮かべるが、すぐに笑みを浮かべた。



「おお、こ、これはすいません……!!」

「よい、久しぶりに呼び捨てにされて嬉しかったぞ……其方達は?」

「あ、どうも……リリスと申します」

「レアと言います」

「うむ、カレハじゃ」



オチバを宥めながらもカレハはレアとリリスに視線を向けると、二人は自己紹介を行い、カレハもそれに倣って頭を下げる。それを見たオチバは改めて二人の紹介を行う。



「族長、この御方はケモノ王国に招かれた勇者様でございます」

「おお、そうであったか!!これは勇者様、ご無礼を……」

「ああ、いや気にしないでください。それよりも病気は平気ですか?」

「病気?ふむ、そういわれれば身体が軽いような……な、なんと!?この身体はいったい!?」



カレハは自分の身体の様子を確認すると、いつの間にか肉体が若返っている事に気付き、すぐに彼女は手鏡で自分の姿を確認して驚く。なにしろ病にかかる前と今では外見が大きく変化しており、若返った自分の身体を見てカレハは唖然とする。

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