第573話 森の民の族長の元へ……
「よし、これで浮揚石を手に入れましたね!!」
「いや、手に入れたって……これ、どうやって持ち帰るの!?ずっとクロミンとサンに引っ張らせるつもり?」
「いやいや、流石にそんな事はしませんよ。ですけど、確かにこの場所だと不便ですね何処か適当な場所に運び出した後、砕いて回収しましょう」
「砕くの!?」
「砕きますよ。まさか、このまま状態で飛行船の材料に使うわけないじゃないですか」
レイナの想像ではこの浮揚戦を気球代わりに利用して飛行船を浮かばせると思っていたが、リリスによると飛行船を浮かばせる方法は浮揚石を細かく砕き、船の各所に装着するらしい。そうする事で船を浮かばせる事が出来るという。
サンドワームと黒竜に絡みついた鎖を利用し、まるで風船のように巨大な浮揚石を運び出す姿は異様だったが、これで晴れてレイナ達は浮揚石の確保に成功した――
――その後、今度は肝心の船を手に入れるためにレイナ達は準備を行う。一応はケモノ王国にもいくつかの船は所持しているが、生憎と必要なのは竜種に対抗できるだけの頑丈で大きな船だった。
残念ながらケモノ王国が保有する大船では雷龍の攻撃に耐え切れるとは思えず、一から船を作り出す必要があった。そのために森の民にも協力してもらい、彼等の森でしか入手できない魔法耐性が高い木材を運び出してきてもらう。
「すいません、なんか大変な事を頼んじゃって……」
「いえいえ、勇者殿の御友人ならば我々も協力は惜しみません」
「ほえ~……ここが森の民の里ですか。始めてきましたけど、凄い場所ですね」
「サンは二回目!!」
「ぷるぷるっ♪」
レイナ達は再び森の民の里へ訪れると、長老と面会を行う。前回の時はレイナとサンの二人だけであったが、今回はリリスも同行していた。森の民に木材の提供を協力してもらい、その代わりに病のせいで臥せっている族長の治療を申し出たのだ。
森の民の族長は長らくの間、病のせいで寝たきりの生活を送っていると知り、その話を聞いたリリスは族長を助ける事で森の民に恩を売って飛行船の開発を手伝いをしてもらおうと提案してきた。人の弱みに付け込むようでレイナとしては心苦しさを覚えたが、リリス曰く「族長の命が助かる、私達も欲しい物が手に入る、それの何がいけないんですか!!」という熱弁に押されてレイナ達は族長の元へ向かう。
「ほ、本当に族長を治す事が出来るのですか?」
「ええ、私達なら治す事が出来ます。ねえ、レイナさん?」
「う、うん……そうだね」
実際の所は族長の症状を確認しない事には何とも言えないのだが、大抵の病気はレイナの能力で治す事が出来る。そしてリリスが加わったのはレイナの能力を知られないため、彼女自身が族長の治療を行うふりをして裏でレイナを治すためであった。
「まあ、安心して下さい。この巨塔の大迷宮で発見された薬を使えばどんな病気も治す事が出来ますよ」
「そ、それはまさか、あらゆる怪我や病気を治すといわれている
「その通りです!!いや、手に入れるのに苦労しましたよ。ねえ、レイナさん」
「そうだね、苦労したね……俺が」
リリスが取り出したのはこの世界に存在する薬の中でも最高峰に位置し、あらゆる怪我や病気を治すと呼ばれる「精霊薬」だった。この薬は偽物でもなく、正真正銘の本物の精霊薬である。
まさか精霊薬を持ち込んでくるとは思わなかった長老は戸惑うが、実際の所はこの精霊薬の入手先はレイナの文字変換の能力で作り出した代物である。かつてレイナは「薬」と打ち込むだけであらゆる回復薬を作り出せる事が判明し、その方法を利用してこの世界で最も貴重で価値のある精霊薬を作り出す事にも成功していた。
(レイナさん、上手くやって下さいね。精霊薬なら治せると思いますけど、万が一の場合はお願いします)
(分かったよ……リリスも上手くやってね)
精霊薬を手にしたリリスとレイナは長老の案内の元、族長が休んでいる部屋へと辿り着く。そして中に入ると、そこには思いもがけぬ光景が広がっていた。
「……えっ?この御方が族長なんですか?」
「若い……女の人?」
「ええ、確かにこの御方が族長ですが……これが族長の病の影響なのです」
族長というからにはレイナ達が想像していたのは長老のように年老いた人物だと思っていたのだが、実際に顔を見ると族長は随分と若い女性のような容姿をしていた。彼女は布団の上に横たわり、目を閉じた状態で動かない。
顔色や皮膚を見てもどう見ても20代後半ぐらいの若い女性にしか見えないのだが、長老によるとこれは病気の影響で族長は急速に若返っているらしく、少し前までは彼女は長老よりも年老いた老婆だったという。
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