第572話 浮揚石
「なるほど、なら大昔に本当にこの世界には飛行船があったのか」
「そういう事ですね。ですけど、ちゃんとした記録として残っているわけではありません。なのでどんな形をしていたのか、どのような構造で飛んでいたのかもはっきりしていません」
「う~ん……それだと、俺の能力でも作り出すのは難しいかも」
レイナの能力で仮に「船」や「飛行船」という文字で物体を変化させようと、完成した代物を実際にレイナが知らなければ文字変換は上手く発動しない。もしかしたら普通の船や地球の飛行船が作り出される可能性が高い。
基本的には物体名を変更して新しい物体を作り出す場合、レイナの想像力や知識を基準にした物が作り出される。例えるならばレイナが「カップラーメン」を作ろうとした場合、彼が普段から食べなれた物が自動的に作り出される。そのため、存在を良く知らない物を作り出すのは不可能に等しい。
「もう少し詳しい記録があれば良かったんですけどね。せめて名前さえ分かれば良かったのに……」
「だから一から飛行船を作り出すの?」
「ええ、断片的にですが勇者の船に使われた素材に関しては情報は残っています。例の日記によると勇者の船には「浮揚石」と呼ばれる魔石が使われていたそうです」
「浮揚石だと!?そんな希少な魔石、あるはずがないだろう!!」
「浮揚石……?」
リリスの言葉にチイは驚きの声を上げ、そんな彼女の態度にどのような魔石なのかとレイナは不思議に思うと、ティナが説明してくれる。
「浮揚石とは文字通りに空に浮かぶ魔石の事です。この魔石は上空に向けて常に浮き上がり続けます」
「え、浮かぶの!?」
「はい、浮揚石の空へ浮かぶ性質を利用し、重い物に取り付ける事で重量を減らすという方法もあります。但し、浮揚石は貴重品で現在では殆どの国では発掘されません。手に入るとしたら他国の大迷宮ぐらいでしょう」
「そういう事です。普通なら簡単に手に入る代物ではありません……しかし、私達にはレイナさんがいます!!」
「な、なるほど……つまり、レイナ君に浮揚石を作り出して貰うのだな?」
名前さえ判明していれば知識になくてもレイナの能力で作り出す事が出来るため、リリスはレイナに浮揚石を作り出すように促す。飛行船を浮かばせるにはこの浮揚石が必要不可欠らしく、彼女はレイナに相当な質量の浮揚石を要求した。
「レイナさん、浮揚石を作り出すときは船が浮かばせる程の大きさが必要なんです。ここは隕石ぐらいの大きさを作る勢いでやっちゃってください」
「え、大丈夫なのそれ?」
「ちょっと待ってくれ、そんな物をここで作り出されたら部屋が壊れてしまう!!」
「それもそうですね、なら外へと移動しましょうか。一応、人目につかない場所で制作しましょう……それにもしも作り出した浮揚石が空に消えたら面倒ですからね。対策を打っておきましょう」
「対策、ですか?」
「そこにいるペットたちに活躍してもらいましょうか」
「ぷるぷるっ(僕達?)」
「きゅろっ?」
リリスの言葉にサンとクロミンは首を傾げるが、こうしてレイナ達は飛行船の製作のため、まずは浮揚石の確保の準備を行う――
――それから翌日、レイナはケモノ王国が管理する鉱山の一つに立ち寄り、浮揚石の製作の準備を行う。この時にレイナの他にはサンドワームと黒竜へと姿を戻した2匹も存在し、どちらの身体にも巨大な鎖が巻き付かれていた。
「よ~し、準備はできましたよ!!お願いしますね、レイナさん!!」
「本当に大丈夫なの、これ!?」
「ここまできて何を言ってるんですか!!ほら、女は度胸です!!さあ、やっちゃってください!!」
「その理論だと俺には度胸ないんだけど!!」
「ギュロロッ……」
「ガウッ……」
鎖を噛み占めるサンドワームと黒竜の間にてレイナは心配した様子でグラスを見つめる。三文字の道具を手にしたレイナは解析を発動させ、詳細画面の名前を恐る恐る文字変換にて変更を行う。
「ええい、もうどうにでもなれ!!てりゃあああっ!!」
「文字変換って、そんな気合を入れる必要あるんですか……うわっ!?」
「ギュロロッ!?」
「ガアアッ!?」
文字変換の能力が発動した結果、レイナの所持していたグラスが光り輝き、形状を変化させていく。レイナは急いでその場を離れると、グラスはやがて直径100メートルは存在しそうな巨大な岩石のような物体へと変化を果たす。
浮揚石の外見は土気色の巨大な魔石のため、一見すると普通の岩石とどのように違うのか分からない。しかし、出現した途端に魔石は浮き上がり、天空へと移動する。それを見たリリスはサンドワームと黒竜に指示を出す。
「ほら、御二人さん!!早く浮揚石を鎖で固定して下さい!!頑張ってくれれば今日は好物を好きなだけ用意してあげますよ!!」
「ギュロロロッ!!」
「ガアアアッ!!」
サンドワームと黒竜は身体に巻き付いていた鎖を利用し、空へと浮かぼうとする浮揚石へと飛び込む。その後は鎖を魔石に絡めると自分達の力で押さえつけ、どうにか地上へと固定した。
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