第571話 勇者の船

「そうです!!その手がありましたか!!空を飛べばいいんですよ!!」

「な、何!?」

「人が空を飛ぶ手段があるのか!?」



リリスの発言にサンを除いた他の者達も驚くが、現実的に考えて人が空を飛べるはずがない。最もこの世界には魔法が存在するので空を飛べる人間もいるかもしれないとレイナは思ったが、リル達の反応を見る限りは空を飛ぶ魔法がある事を知らないらしい。



「リリス、空を飛ぶって……」

「ああ、言っておきますけど某漫画の舞〇術みたいな感じで人が空を飛ぶ方法はありませんよ。エルフならそれに近い感じで風の魔法で身体を浮きあがらせる事は出来そうですが、空を自由自在に飛ぶ事は出来ないはずです」

「それならどうやって空を飛ぶのでござる?」

「簡単な話です、私達は空を飛べなくても乗り物を利用すればいいんですよ!!分かりやすく言えば飛行船ですね」

『ひこうせんっ?』



聞きなれない単語にレイナ以外の者達は首を傾げるが、飛行船の話を聞いたレイナはこの世界に飛行船は存在するのかと驚く。



「こっちの世界にも飛行船があるの!?」

「何?レイナ君はそのひこうせん……というのを知っているのか!?」

「飛行船とは分かりやすく言えば空を飛ぶ船です。勇者の世界に実在する乗り物ですね」

「空を飛ぶ船だと!?そ、そんな船が勇者の世界にはあるのか!?」」



リル達は船が空を飛ぶ事に衝撃を受け、勇者の世界にはそんな凄い乗り物があるのかと驚きを隠せない。その一方でレイナは飛行船を使ってどのように雷龍を倒すのかが気になり、リリスに尋ねた。



「でも、リリス……飛行船で空を飛ぶとしても雷龍を倒せる事が出来るの?むしろ、飛んでいる間に攻撃を受けたら俺達の方が危険だと思うけど……」

「確かに普通の飛行船では落とされてしまう可能性がありますね。ならば普通ではない飛行船を作り上げるまでです!!」

「ど、どういう意味だ?」

「私達の手で一から飛行船を作り上げるんですよ!!用意するのは雷龍の放つ電撃対策を行った船を作り上げるんです!!」

「飛行船を作り上げる!?」



レイナはリリスがてっきり自分の能力で地球の飛行船を作り上げ、それに魔導砲を搭載して戦闘を挑むと考えていた。しかし、リリスは自分達の手で飛行船を作り上げる事を提案する。


リリス曰く、仮に地球の飛行船を作り出したとしてもレイナ達では扱いこなせるまでに時間を要する。第一に地球の飛行船では雷龍の攻撃を受ければ破壊される可能性もあった。話に聞く限りでは雷龍の放つ雷撃は凄まじい威力を誇り、地球産の兵器でも無事とは限らない。



「リリス、その飛行船というのは簡単に作り出せる物なのか?そもそも船を作ると言っても、予算の方が……」

「何を言ってるんですか、これまで魔王軍にどれだけの被害を受けたのか忘れたんですか?奴等を一泡噴かせたいでしょう!?そんなケチケチしてたら何時まで経っても魔王軍なんて滅ぼせませんよ!!」

「ううっ……!?」

「……勢いで誤魔化そうとしてない?」

「シャラップ!!他に案がなければ黙っていてください!!」

「でも、リリス……飛行船を作ると言ってもどうするの?そんな簡単に作り出せる代物じゃないよね?」



レイナは飛行船の構造すらも知らず、どのような方法で飛んでいるのかも良く分かっていない。そんな彼に対してリリスも自分も似たような知識だと吐露する。



「私も飛行船がどういう構造でどんな原理で飛んでいるのかは具体的には知りませんよ。それに知っていたとしても、ケモノ王国の科学力では再現は不可能ですからね」

「それなら飛行船は作れないんじゃ……」

「いいえ、私達には科学はなくても魔法の力があります。それに伝承によると、かつて召喚された勇者は魔法の力を利用して船を飛ばせたという記録も残っています!!」

「その話は私も知っている」

「私も子供の頃に母から聞いた事があります。有名な御伽噺ですね」

「僕も昔、絵本で呼んだ事があるな……しかし、あの話は創作じゃないのか?」

「いいえ、実は前に大迷宮で回収した剣の魔王の部下が残した日記の中に勇者が作り出した船に関しての記録が残っていたんです」



リリスは大迷宮で遭遇した死霊使いの事を話し、彼が記録していた日記から勇者の船に関わる情報を見つけたという。その情報の内容は勇者が空を飛ぶ船を作り出し、それに乗って魔王軍の本拠地に攻め込んだという。


当時の魔王軍の本拠地は大迷宮に移動する前、彼等は険しい山脈に魔王軍の城を築いたという。魔王軍の城は山の上に存在し、外部から攻め入るのは難しく、実際に過去に何度か討伐に出向いた軍隊が撃退されている。


魔王軍の城を正攻法で落とす事は難しいと考えた勇者は、巨大な船を作り上げると空へと浮かばせ、上空から魔王軍の城に乗り込んで城を落とした事が判明する。これによって魔王軍は本拠地を失い、巨塔の大迷宮へと移り住む事態に陥ったらしい。

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