第570話 魔導砲

「大丈夫です、開発に必要な素材はレイナさんに用意してもらいます」

「え?俺が!?」

「といっても必要な素材は殆ど集まってるんですけどね。どうしてもケモノ王国では手に入らなそうな素材をレイナさんの能力で用意してもらいます」

「なるほど……だが、その兵器は本当に竜種に通用するのか?竜種に対抗できるほどの威力を誇る攻撃用の魔道具など聞いた事がないが」

「ないなら作るまでです!!私の「魔導砲」は間違いなく、雷龍ボルテクスを倒すのに役立ちます!!」

「凄い自信でござるな」



今までに見せた事のない気迫で断言するリリスに全員が圧倒されるが、それ以前にレイナはある事に気付き、リリスに尋ねてみた。



「リリス、その兵器の名前は魔導砲というんだよね?」

「え?そうですけど……名前が気に入りませんか?なんならレイナ砲でもいいですけど」

「いや、そういうのじゃなくて……試しにその魔導砲を作れないかなと思って」

「作る?」



レイナは机の上に置かれている「グラス」に視線を向け、解析の能力を発動させ、詳細画面を開く。画面に表示された名前に文字変換の能力を発動させ、リリスの語る「魔導砲」と書き込む。


普段ならば名前を変えた瞬間に物体に変化が訪れるのだが、今回の場合は名前を書き換えても変化は訪れず、それどころか文字が勝手に消えてしまう。その様子を見てレイナは残念そうに答える。



「あっ……やっぱり、無理みたい。現実に存在しない物体へ作り変える事は出来ないみたい」

「むしろ、それで作り出されたら私の立場がありませんよ……」



実を言うとレイナの文字変換の能力には条件の項目には存在しないが、実在しない物体名に書き換える事は出来ない事が判明した。少し前にレイナは試しに5文字の道具に「ワープ装置」と書き込んだ事があった。しかし、結果から言えば道具に変化はなく、文字が消えてしまう。


物体名を変更させる際、現実に存在しない道具の名前を付けても変更されず、自動的に文字が戻ってしまう。また、文字が書きかけの途中で能力を解除する場合も同様の現象が起きる。ちなみに文字数は減る事はないため、何度でも書き直す事は出来る。



「現時点では私の魔導砲は完成していませんからね。いくらレイナさんの能力でも現実に存在しない兵器は作り出せません。しかし、もしも私の魔導砲が完成した場合、その時はレイナさんの能力で魔導砲を作り出す事が出来るかもしれません」

「何?という事は……その魔導砲とやらを完成させればレイナの君の能力でいくらでも作り出せるのか?」

「そうですよ、一台作るだけでも国が傾くほどの予算を必要としますが、レイナさんが量産すれば雷龍ボルテクスにも対抗できるはずです」

「そ、それは凄そうだな……」

「リリス、恐ろしい子……」

「少女漫画みたいな事をいってんじゃないですよ」



リリスの言葉にリル達は冷や汗を流し、さらりととんでもない兵器の量産化を話す彼女に恐れさえも抱く。最も魔王軍に雷龍ボルテクスの存在がいる以上、万全の準備を整えるという事で対竜種用の兵器は必要不可欠だった。



「ボルテクスが現れた場合、私達にも対抗手段が必要です。そのためにはこの魔導砲を一刻も早く完成させる必要があります」

「簡単に言うが、完成までどれくらいの月日が必要なんだ?」

「そうですね……材料は殆ど集まっています。しかし、それを組み立てるとなると技術者が必要です。私一人ではどうしようも出来ませんからね」

「技術者というと……」

「鍛冶能力が高いドワーフの力が必要という事ですか?」

「その通りです。魔導砲を作り出せる高い技術力を持つのはドワーフの鍛冶師のみです。そういう事なので既に冒険者ギルドに依頼してドワーフを集めて貰っています」

「手が早いでござるな!!」



既に魔導砲の開発に必要な人材の募集は行っているらしく、これならば魔導砲の完成も近いと思われたが、ここでリリスは困った表情を浮かべる。



「ですが、材料と人手を集めるだけでは駄目なんですよ。私が開発した魔導砲だけではボルテクスには対抗できません」

「そうなの?」

「ボルテクスは空を飛びますからね。しかも黒雲の中に姿を隠すんですから魔導砲で狙い撃ちするのは難しいんです。そこで私達も雷龍を見つけ出す方法を考えねばなりません」

「方法と言われても……」



黒雲の中に身を隠し、空を自由に飛び回る相手を見つける方法など限られており、そんな簡単に名案は思い付かない。相手の姿を捉えられればレイナの能力で即死させるか服従させる事も出来るが、肝心の雷龍を引きずり出す方法を思いつかなければ意味はない。


皆が考え込んでいる間、ここで意外な人物が提案を行う。彼女は元気よく腕を上げ、自分の考えを告げた。



「サン達も空を飛べばいい!!」

『…………』



サンの提案に全員が彼女に視線を向け、最初はそんな事が出来るなら苦労はしないと考えたが、ここでリリスは何かを思い出したように大声を上げる。

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