第569話 雷龍対策

「これまでの調査の結果、魔王軍の最高幹部を名乗るジョカは「雷龍ボルテクス」という存在を操っているそうです。その力は計り知れず、一撃で剣の勇者を殺しかけたという話でしたね?」

「ああ、レイナ君も前に見た事はあったな?」

「はい、でも姿をはっきりと見たわけじゃないんですけど……」



かつてレイナはグノズという魔王軍の幹部に襲われた際、雷龍の攻撃を目撃している。姿をはっきりと捉えたわけではないが、レイナに敗れたグノズは雷龍の雷撃によって絶命した。



「雷撃ボルテクスか……名前は聞いた事があるが、それほどの強大な竜種を味方に付けている当たり、魔王軍の戦力は侮れないな」

「それにヒトノ帝国やケモノ王国にも魔王軍の内通者がいました。恐らくはウサン大臣やギャン宰相も魔王軍と繋がりを持っていたんでしょうね。どちらも国の重臣同士、魔王軍の影響力は恐ろしいです」

「しかし、一番の問題はやはり雷撃ボルテクスか。この脅威を取り除かなければ魔王軍を倒す事は難しいだろう」



雷龍ボルテクスを倒せる存在がいるとすれば真っ先にレイナに視線が向けられる。どんな相手だろうとレイナの「解析」と「文字変換」の能力を合わせて使えば勝てない相手はいない。それどころか味方にさえ付ける事が出来るかもしれない。


ジョカが現れた時にレイナが真っ先に彼女を「服従」していれば良かったのだが、あの時は解析を発動させる暇もなく、そもそも瞬のせいで致命傷を負ったチイを救うために文字変換の能力を使い切ってしまった。今思えばもっと早くに手を打っていれば良かったと後悔するが、今更嘆いても仕方なかった。



「すいません、ジョカと会ったときに俺が手を打っていれば……」

「まあ、今更仕方ありませんよ。魔王軍もレイナさんの能力の事は薄々勘付いている様子でしたからね」

「ですが、魔王軍に対抗すると言っても我々は何をすればいいのでしょうか?」

「ふむ……魔王軍が竜種を従える存在となると、やはり単純に戦力を強化させる必要がありますね。となると、やはりあの計画を実行に移すしかありませんか……」

「あの計画?」



リリスに何か考えがあるのかとレイナは彼女に視線を向けると、リリスは不敵な笑みを浮かべて机の上に羊皮紙を広げる。


その羊皮紙を確認すると、設計図らしき絵と文章が記されていた。それを確認した全員が不思議に思ってリリスに視線を向けると、彼女は自信に満ちた表情で答えた。



「これは長年、私が考えた「魔導砲」と名付けた兵器の計画書です!!」

「ま、魔導砲?何だそれは……」

「正式名称は高魔力圧縮放射砲なんですが、長いので魔導砲と改名しました。要約するとこれは竜種を倒すために作り出した兵器です!!」

「竜種を……倒す!?そんな事が出来るのか!?」



室内の全員がリリスの発言に驚愕の表情を浮かべるが、レイナだけは羊皮紙に描かれている図を見て彼女が何を作ろうとしているのかを読み取り、設計図の内容が「大砲」だと気付く。



「これ、もしかして大砲?」

「たいほ?」

「誰かを逮捕するのですか?」

「違いますよ、こんなのを使ったら逮捕どころか爆散しますよ」

「爆散!?物騒な話だな……だが、レイナ君はこれが何なのか知っているのか?」

「ええ、まあ……勇者の世界にある兵器というか、何というか」



レイナの言葉にリル達は驚いた表情を浮かべ、勇者の世界の兵器となると期待感も高まる。一方でリリスは自分が考え抜いた魔導砲の説明を行う。



「ちっちっちっ……これはただの大砲ではありませんよ。この世界にしか存在しない素材で作り出す兵器です。その威力はただの大砲の比ではありません、私の計算ではこれを使えば牙竜級の相手であろうと一撃で葬れるはずです」

「ぷるぷるっ(何だってっ!?)」

「リリス、クロミンを怯えさせた駄目」

「いや、別にそんなつもりはないんですけど……まあ、それはさておき私がこの魔導砲の事を今まで話せなかったのは制作の段階に必要な素材の数々、更には制作を行う技術者の問題があるからです。まず、この魔導砲を作り上げるには莫大な予算が必要です。それこそ、国家規模の予算ですね」

「リリス、うちの財政はあまり余裕はないぞ……」



リリスの言葉にリルは顔色を青くし、先日の農耕の件で現在のケモノ王国は財政的には余裕があるとは言えない状況だった。農耕が成功すれば今後は自給自足だけで国を保つ事が出来るが、そのために無茶をして人員を集めたばかりである。


農耕のために多くの人間を呼び集め、彼等のために最高の環境を整えた。給料も高く、育てた農作物の一部を受け取っていいという条件で未だに多くの人間が農耕へ志願している。そのため、ケモノ王国の財政は火の車だった。そんな状況で更に国家予算級の金額の出費は出来ないとリルは告げるが、その点はリリスも考えがあるらしく、レイナの肩を掴む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る