第567話 アリシアの帰国

――レイナ達が帝都を離れてから二日後、帝城にアリシアと瞬を連れ帰ってきたミームが戻ってきた。彼女はアリシアと瞬と共に馬に乗って城下町を引きかえすと、アリシアが無事に戻ってきた事を知って民衆は騒ぎ出す。



「アリシア様!!アリシア様が戻ってきたぞ!!」

「きゃああっ!!シュン様ぁっ!!」

「流石はミーム将軍だ!!本当にあの二人を連れ帰ってきたぞ!!」

「「「アリシア様万歳!!将軍万歳!!勇者様万歳!!」」」



民衆の声援を浴びながらも3人はにこやかに手を振りながら帝城へと向かうと、城門には皇帝がそわそわとした様子で立ち尽くしていた。そしてアリシアの姿を見つけると、彼は喜びを抑えきれずに腕を広げて彼女の元へ向かう。



「おおっ、アリシアよ!!愛しい娘よ!!」

「陛下!!」



アリシアは馬から降りると皇帝の元へ駆けつけ、二人はお互いの身体を抱き合う。その光景を見て周囲の者達は安堵するが、一方で茂と雛も瞬の姿を見て嬉しそうな声を上げて駆け寄ってきた。



「瞬!!やっぱり生きてやがったか、てめえ心配させんじゃねえよ!!」

「瞬君!!良かった、生きてたよぉっ!!」

「うわっ……ふ、二人とも、苦しいよ」



瞬は二人に抱き着かれて少し困った表情を浮かべたが、無事に会えた事を喜ぶ。その一方でミームの方は他の将軍と話し合い、無事に任務を達成した事を祝われる。



「ミーム将軍!!よくぞご無事で……」

「無事とはちょっと言い難いね……こっちはこっちで色々とあってね。まあ、その辺の話は後でするよ」

「おお、ミームよ……よくぞ我が娘を救い出してくれた!!礼を言うぞ、流石は我が国の誇る大将軍じゃ!!」



皇帝はアリシアを離すとミームに視線を向け、彼女に対して深く感謝を示す。そんな皇帝の態度にミームは苦笑いを浮かべ、当初は謀反の疑いを掛けられて帝都へ引き返すように命じられたのにまさかこんな感謝されるとは思わなかった。


ミームの謀反の件に関しては魔大臣の密告があったからだが、その魔大臣が魔王軍と通じている事が判明し、更に彼が回収していた魔除けの石は既に紛失していた。元々、本当に魔大臣が所持していた魔除けの石に竜種をも退ける力が存在したのかも分からず、魔王軍と繋がっていたという理由で魔大臣の発言は虚偽であると皇帝は認識していた。



「ミームよ、すまぬ……魔大臣の言葉を真に受けてお前という優れた将軍を危うく更迭するところであった。どうか許してくれ」

「いいえ、陛下……あたしも魔大臣の報告を黙っているように命じたのは事実です。しかし、これも国のため……ケモノ王国との戦争は考え直してくださいましたか」

「うむ、言われてみれば儂も早まった事をした。アリシアよ、お主に手を出したのは魔王軍なのであろう?」

「その通りです父上!!ケモノ王国の方々は関係ありません、この度の件は全て魔王軍の仕業なのです!!」

「ふむ……よく分かった。冷静に考えれば帝国の敵はケモノ王国ではなく、魔王軍じゃな。もう儂は迷わん、これより魔王軍の殲滅に帝国は全力を尽くす!!」

『はっ!!』



戻ってきた娘の言葉に皇帝は頷き、もうケモノ王国に攻め入るなどという発想は消え、自分達を嵌めようとした魔王軍に対して彼は怒りを抱き、今後は魔王軍の殲滅のみに力を加える事を約束した――





――その日の晩、無事に帰還したアリシアと瞬のために城内では宴が行われた。無事に任務を果たしたミームは褒め称えられ、瞬もアリシアを守り通した事から皇帝に気に入られていた。



「シュン殿、アリシアから話は聞いたぞ。魔王軍の襲撃の後、アリシアが生き残れたのはお主のお陰だとな。どうじゃ?この際にアリシアの婿になるか?」

「い、いや……僕は当然のことをしたまでです」

「ははは、冗談じゃ。だが、もしもお主がアリシアの事を気に入っているのであれば国王の座を譲っても構わんぞ?」

「陛下!!そのようなおふざけはお辞め下さい!!」

「う、うむ?すまん……しかし、そこまで怒らなくてもいいではないか」



皇帝の言葉にアリシアは憤慨し、彼女の気迫に皇帝は気圧される。一方で瞬は色々な人に褒め称えられるが、彼の内心はどれだけ褒められようと嬉しくはなかった。アリシアが生き延びる事が出来た本当の理由は自分ではなく、ケモノ王国から訪れたレイナ達のお陰である。



(……何が勇者だ、他の人を守る事も出来ないのに勇者なんて言えるのか?)



瞬は再開したレア(レイナ)の事を思い出し、いったい何が起きたのかレアは自分を上回るほどの成長を果たしていた。再び出会った彼が女性になっていた事は気になるが、それでもレアが瞬を上回る実力を身に付けていた事に変わりはない。


今の瞬では単独で牙竜に勝つ事は叶わず、明らかにレアとの間には大きな力の差があった。強くなるために自分なりに精いっぱいの努力をしてきたが、それでも瞬はレアとの間に差を感じる。


召喚されたばかりの頃のレアは本当に勇者としての力を持ち合わせておらず、瞬との間に大きな差があった。それにも関わらずに今は立場が逆転した事に瞬は内心ではショックを受けていた。



(いや、違う……僕だって彼と同じ勇者なんだ!!なら、彼に出来る事が僕に出来ないはずがない!!)



瞬はレアに対して嫉妬に近い感情を抱き、自分も彼に負けぬ勇者になるためにもっと強くなることを誓う。そんな彼の心情を見抜いたように瞬を見つめる人影が存在した――

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