第565話 女性兵

「おい、聞いたか!?勇者様達が魔王軍を撃退したそうだぞ!!」

「何!?本当か!?」

「ああ、城門に現れた牙竜も操っていた女も姿を消したらしい!!」

「消えた?逃げたのか?」

「それが分からないんだよ!!どんな方法を使ったのか知らないが、なんでも煙に紛れた間に姿を消したとか……」



通路の角からリル達は兵士達の会話を盗み聞きすると、レイナ達が二人の勇者に撃退されたという話を聞いて信じられない思いを抱く。だが、話しを聞く限りではどうやら捕まったわけではないらしく、不測の事態が起きたらしい。



(リル様、どうしますか?城門でレイナが騒ぎを起こしている間に我々は逃げるつもりでしたが……)

(参ったな……こんな事ならレイナ君が味方に付けた奴等を残しておくべきだったな)



裏口から侵入する際、レイナは数名の兵士を魅了で虜にしてリル達に協力させた。しかし、その数名の兵士は既にリル達は気絶させていた。理由としては自分達の犯行を見られるわけにはいかないためである。


レイナの魅了で味方にした存在はあくまでも一時的にしか彼女に従わず、定期的に身体を接触させなければ魅了の効果は切れてしまう。しかも気絶させた場合は目を覚ますと魅了の効果を失う事が発覚し、既にリル達が気絶させた兵士達はレイナの魅了の効果は解除されていた。



(どうしますか?このまま魔大臣を連れて逃げ出すのは難しいかと……)

(そうだな、レイナ君の合図のために借りたこれを使えば注目を引けるだろうが……)

(これ、どうやって使うの?)



リルは事前にレイナから受け取った小包を取り出し、ネコミンは興味深そうに覗き込む。一応はレイナから事前に使い方は聞いてはいるのだが、リルもこれが何なのかは知らない。



(リル様、やはり魔大臣をここで始末するべきでは?)

(それは絶対に駄目だ。そんな事をすれば城に戻ってきたアリシアに誤解されてしまう。事情を知っている彼女なら今回の件は私達の仕業だとすぐに見抜くだろう)

(でも、この人を連れて行ってどうするの?正直、この人がいなければ私達だけなら簡単に抜け出せるのに……)

(レイナ君に引き合わせたい。そして彼の能力で皇帝に自白させればミーム将軍の無実が証明されるんだ)



腕を拘束し、口元を塞いだ魔大臣にリル達は困った表情を浮かべ、どうにかして彼を連れて城を抜け出す方法を考える。魔大臣を折角捕まえる事が出来たのだからなんとかしてレイナを彼に引き合わせ、魅了の能力で魔大臣の悪事を暴露させようかと考えていたのだが、囮役のレイナが既に姿をくらましているとなると脱出は難しい。


当初の予定ではリル達が合図を出した後にレイナは城から退散する予定だったのだが、既にレイナが抜け出しているとなると城の警備は元に戻ってしまう。恐らくは消えたレイナを捜索するために兵士が繰り出されるだろうが、再度侵入者を警戒して城の警備は厳しくなるだろう。



「ふんっ……どうやらお前等に逃げ場はないようだな。私を見逃すなら命だけは助けてやるぞ?」

「黙れ、お前は自分の立場を分かっているのか?」

「ひいっ!?」



リル達の態度を見て魔大臣は取引を持ち込もうとするが、そんな彼にチイは首元に短剣を押し付ける。最悪の場合は彼を殺し、この騒動を全て魔王軍の仕業にして逃げ出す手段もあった。だが、そんな事でアリシアが誤魔化されるはずがなく、必ず彼女はリル達の仕業だと見抜く。



(レイナ君、何があったんだ……無事だと良いんだが)



仕方なく、リルはチイの地図製作を頼りに兵士の位置を把握し、誘導して貰おうと考えた時、ここで通路の角から一人の女性兵が姿を現す。



「えっと、こっちの方に……うわっ!?」

「くっ、見つかったか……!!」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」



リルは見つかってしまったかと咄嗟に剣を構えるが、女性兵は慌てて両手をあげると、その声を聞いてネコミンが真っ先に聞きなれた声だと気付く。



「その声……レイナ?」

「何だと!?」

「ぷるるんっ」

「うわっ!?クロミンも!?」



ネコミンが女性兵の正体をレイナだと見抜き、更に鎧の中からクロミンが飛び出して彼女の元に飛び込む。その姿を見てリル達は戸惑うが、レイナは安堵した表情を浮かべる。



「良かった、ここにいたんですね。ちょっと探しましたよ」

「れ、レイナ君……その恰好は?」

「ああ、これは途中で倒した女性兵の人から借りたんです。気絶させて目立たない場所に隠しましたけど……」

「どうして私達がここにいると分かったの?」

「元々はこの城の中で元々は暮らしていたからね。どうやらこの地図製作の技能、覚える前に暮らしていた場所も画面に表示されるみたい。だから皆の居場所も分かったんだよ」

「そ、そうだったのか……無事で何よりだ」



レイナの言葉を聞いて納得し、よくよく考えればレイナは数日とはいえ、この城の中で過ごしていた時期がある。しかも訓練も兼ねて色々な場所に出回っていたため、レイナの地図製作の画面には城の構造が最初から記録されていた。





※リル「私が苦労して地図を作ったのは何だったんだ……(´;ω;`)」

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