第564話 勇者達の実力

「はっ!!俺狙いか、いい度胸だ……!?」

「はああっ!!」



レイナは茂の身体に触れようと腕を伸ばすと、咄嗟にシゲルは拳を構えるが、本能的に危険を感じた瞬は咄嗟に後ろに飛んでレイナの腕を躱す。何故だか分からないが、レイナの腕に触れたら危険だと彼は思い、距離を置く。



「くっ、近づくなっ!!乱打!!」

「うわっ!?」



ボクシングのジャブの要領で茂は「闘拳」と呼ばれる腕鉄甲と酷似した武器を装備した拳を繰り出し、自分の元にレイナを近づかせない。その姿を見てレイナは引き下がるしかなく、魅了の能力を使用して茂を大人しくさせる事が出来なかった。


魅了の能力は異性が対象ならば絶対的な効果を発揮するが、相手に直接触れない限りはどうしようもできない。また、雛の場合は女性のために魅了は通じず、味方にする事は出来ない。



「おい、雛!!こいつに近付くなよ、何だかやばそうだ!!」

「えっ?う、うん……分かったよ~」

「くそっ……合図があれば逃げ出せるのに」



レイナは城に忍び込んだリル達の合図を確認するまでは行動に移せず、どうすればいいのかと考える。このまま勇者達と戦い続けるのはまずく、下手をしたらこちらがやられかねない。


二人の詳細画面は開いたままのため、状態の項目に文字変換の能力を発動させて二人を「麻痺」させて動けないようにする方法もある。しかし、この状況下ではあるがレイナは二人と話し合いを行いたいと思っていた。



(この後にアリシア姫と瞬君が戻ってくる。そうなると俺達の正体も二人に知られるはず……ここで戦ったら余計な誤解を生むかもしれない。でも、どうすれば……そうだ!!)



雛と茂と話し合うためにレイナは何か方法はないかと考えていたが、ここでレイナはポーチに手を伸ばす。こんな事態も考えて先日にハンゾウから受け取っていた道具を取り出す。



「喰らえっ!!」

「うおっ!?」

「わああっ!?」

「ガウッ!?」



レイナは取り出した「煙玉」を叩きつけると、周囲に白煙が広がってレイナ達を覆い込む。その結果、城門付近は煙に覆われて視界が塞がれ、雛と茂はレイナの姿を見失う。



「け、煙玉!?そんなもんまでこの世界にはあるのか!?」

「し、茂君!!どこにいるの~!?」

「あ、馬鹿っ!!無暗に動くな、気づかれちまうぞ!?」

「……二人とも、俺の声が聞こえる!?」

「ああっ!?」

「えっ!?この声って……」



煙の中から茂と雛は少年のような声を耳にすると、どちらも驚愕の表情を浮かべる。数か月ぶりに聞こえたクラスメイトの声に茂と雛は戸惑う。



「こ、この声は……霧崎か!?」

「霧崎君!?霧崎君なの!?」

「そうだよ、俺だ!!俺はここにいるよ!!」

「嘘だろ、おい……」

「何処にいるの、霧崎君!?」



レアの声が聞こえた事で茂と雛は慌てて辺りを見渡すが、煙のせいでよく見えない。二人は本当にレアがここに戻ってきたのかと混乱する最中、レアは声をかける。



「ごめん、俺はもう行くよ!!詳しい話は瞬君に聞いて!!」

「瞬!?瞬と会ったのか!?」

「瞬君は無事なの!?」

「大丈夫、安心して!!アリシア姫と一緒に帰ってくるから!!それと、俺の事は誰にも話さないでね!!」

「お、おい!!何処にいるんだ霧崎!?」

「待って、霧崎君!!私、お礼が言いたくて……あれっ!?」



煙が晴れていくと茂と雛は姿を確認できるようになったが、いつの間にか城門の近くに存在したはずの黒竜とレイナが姿を消している事に気付く。


煙が晴れた途端に姿を消したレイナ達に茂と雛は戸惑い、慌てて周囲を見渡す。最初は煙に紛れて逃げたのかと思ったが、黒竜ほどの巨体の生物が逃げ出せば目立たないはずがなく、見失うなど普通はあり得ない。



「ゆ、勇者様!!ご無事ですか!?」

「いったい何が……」

「敵は何処に消えたのですか!?」

「お前等……」

「え、えっと……」



慌てて兵士達が駆けつけるが、彼等は姿を消したレイナと黒竜に驚き、何が起きたのかを尋ねる。しかし、茂と雛からすれば彼等もレイナ達が消えた理由など分からず、何も説明できなかった――






――同時刻、リル達の方は保管庫にて遂に目的の魔除けの石を発見し、すり替える事に成功した。また、捕縛した魔大臣から色々と情報を引き出し、案の定というべきか彼は碌な情報は持っていなかった。



「ゆ、許してくれ……私はあの女に頼まれて合成生物を引き渡す代わりに実験の協力を申し込まれただけだ……本当だ、嘘じゃない!!今年中に成果を上げなければ私は解雇されるんだ……!!」

「全く、見下げ果てた奴だ……敵対する組織の人間と繋がっているにも飽き足らず、更にミーム将軍を陥れる真似をするとはな」

「人として最低」

「結局は有力な情報は持っていなかったか……仕方ない、命だけは助けてやる。だが、このまま逃がすわけには行かない。私達と一緒に来てもらうぞ」

「ひいっ!?」



魔大臣を捕縛したリル達は城から抜け出すために行動し、研究室を離れて城の裏口から逃げ出そうと既に動いていた。しかし、城の様子がおかしい事に気づき、通路の角にてネコミンは聞き耳を立てて様子を伺う。

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