第559話 合成生物

(くそっ、ジョカめ……いったい何を考えている!!)



通路を急ぎ足で移動しながらも魔大臣は自分が管理を任されている研究室へと向かう。その際中、彼は鍵を取り出すとある部屋の前へと立ち止まり、研究室に繋がる地下の階段へは向かわず、部屋の中に入り込む。


彼が入った部屋はかつてレナに与えられた部屋であり、元々は長い間放置されていた小部屋だった。魔大臣はこの部屋を内密に改造し、城の地下に存在する研究室に繋がる抜け道を作り出していた。



(急がなければ……!!)



鍵を取り出した魔大臣は壁の窪みに差し込むと、煉瓦が動き出して人が通り抜ける程の大きさの出入口が出現し、すぐに中に入って研究室へと向かう。この抜け道の先は研究室の一番奥にある魔物を閉じ込めるための特殊な地下牢に繋がっていた。


地下牢まで辿り着ければすぐに研究室へと引き返す事が出来るため、魔大臣は駆け足で階段を降りて地下牢へと向かう。この城の中には秘密の抜け道が幾つか存在し、帝城の地図を作り出したリルでさえも知らない。



「よし、ここまでくれば大丈夫か……」



通路を抜けた魔大臣は安堵した表情を浮かべる。そして研究室の保管庫に管理している魔除けの石の回収に向かう途中、檻の中に閉じ込められている自分が作り出した合成生物に視線を向けた。



「おお、今日は随分と大人しいんだな……」

「…………」



檻の奥には鎖で拘束された魔物が存在し、それを見た魔大臣は珍しそうな声を上げた。彼が作り出した2体の合成生物の1体なのだが、今は構っている暇はないので魔大臣は地下牢を抜け出す。


地下牢を抜けた魔大臣は研究室の保管庫の方角へと向かい、現在の時間帯は誰も出入りしておらず、強いて言えば人目を気にせずに魔大臣は保管庫へと向かおうとした。しかし、研究室の扉が開かれている事に気付き、彼は焦った声を上げる。



「なっ!?ど、どうして扉が……まさか!?」



この扉を開く事が出来るのは鍵を所有している魔大臣だけであり、職員でさえもこの中に入る事は出来ない。それにも関わらずに扉が開いているという事は何者かが入り込んだ事を意味しており、慌てた様子で彼は保管庫へと向かう。



「リ……ルーイ様、この部屋が怪しいと思います」

「保管庫か……確かにこの部屋に隠されていそうだ」

「鍵は掛かってなさそう」



保管庫の通路から声を耳にした魔大臣は身体が震え上がり、彼はこっそりと通路の影から覗き込むと、3人の女性兵が保管庫の前に立っていた。すぐに魔大臣は彼女達が保管庫に侵入しようとしている事から彼女達が侵入者だと気付く。


追手を撃退して扉を開く事に成功した3人は研究室に乗り込み、、魔除けの石が隠されている保管庫の前にまで立っていた。3人は保管庫へ入ろうとする光景を見て魔大臣は非常に焦り、彼女達の目的は何なのかは分からないが彼は困り果てる。



(侵入者か!?衛兵を……い、いや……そんな時間はない。何とかしなければ……そうだ!!)



魔大臣は保管庫に3人が入り込む前に対処するため、彼は懐から犬笛のような道具を取り出す。この笛を吹けば地下牢に閉じ込められている合成生物をこの場に呼び寄せる事が出来た。



(まだ完全には支配下に収めていないが、実験ではこの笛がある限りは私が襲われることはない……こうなったら奴を利用するしかない!!)



意を決した魔大臣は笛を鳴らすと、すぐに聴覚が鋭い獣人族であるリル達は異変に気付く。そして通路の影に隠れている魔大臣に気付き、ネコミンが声を上げる。



「あそこに人がいる」

「ちぃっ!!もう新しい追手か!!」

「仕方あるまい、イヌミン!!中に入って魔除けの石を!!私達がここで時間を稼ぐ!!」

「分かった、気を付けて……」



ネコミンを保管庫に通したリルとチイは武器を構えると、動くのに邪魔な女性兵の鎧兜を脱ぎ捨てる。これで万全に戦えるが、そんな彼女達に対して魔大臣は余裕の表情を浮かべて姿を現した。


姿を見せたのが少々肥え太った老人である事に二人は驚くが、すぐに格好をみて兵士や騎士ではない事を悟り、この研究室の管理を任されている魔大臣だと気付く。魔大臣は冷や汗を流しながらも笛を握りしめ、地下牢の方角に向けて大声を出す。



「さあ、出てくるがいい!!お前の力を見せろ、合成生物!!」

「いったい何を言って……何だ!?」



魔大臣の言葉に反応するかのように地下牢に繋がる扉が破壊される音が鳴り響き、通路を駆け抜ける足音が鳴り響く。その足音を耳にしたリルとチイは武器を構えると、やがて姿を現したのは人型の巨体な生物だった。


最初にその生物の外見を見たリルとチイが頭に思い浮かんだのは「コボルト」だった。だが、通常のコボルトとは異なり、全身が黒色の毛皮に覆われ、更に頭の数は2つ存在した。しかも足元に鉄球が取り付けられた鎖を引きずっていた。

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