第558話 魔大臣の秘密の研究
――研究室の前にてリル達が兵士達と交戦を開始した頃、自室にて眠っていた皇帝も異変に気付き、彼は慌てた様子で起き上がる。牙竜の鳴き声を耳にした彼は何事かと寝間着姿のまま通路へと飛び出すと、忙しなく駆け回る兵士に状況を尋ねた。
「な、何事じゃ!?いったい、何が起きておる!?」
「へ、陛下!!侵入者です、遂に魔王軍がこの城にまで攻め込んできました!!」
「何じゃとっ!?魔王軍が……」
「奴等は牙竜の亜種を引き寄せ、既に城門に迫っています!!陛下も念のために地下へ避難して下さい!!」
兵士の言葉に皇帝は度肝を抜き、まさか帝都にまで魔王軍が攻め寄せてきた事に動揺を隠せない。その一方で彼は城内に存在する勇者の事を思い出し、すぐに二人を起こすように指示した。
「ゆ、勇者は何をしておる!!こんな時のための勇者であろう!!すぐにヒナ殿とシゲル殿を起こして対処させるのじゃ!!」
「は、はい!!」
「魔王軍め……!!」
「へ、陛下!!ご無事ですか!?」
通路に出た皇帝の元に魔大臣が訪れ、そんな彼を見て皇帝はある事を思い出し、彼が管理をしている「魔除けの石」の存在を告げる。
「おおっ!!魔大臣よ、丁度良かった。お主が分析中の「魔除けの石」はあらゆる魔物を追い払う力を持つと言っておったな?」
「えっ!?は、はい……それがどうかしましたか?」
「たわけっ!!すぐに魔除けの石を運び出して城門に現れた牙竜の亜種を追い払うのじゃ!!そんな事もお主は分からんのか!?」
「あ、なるほど……で、ですが、あの魔除けの石はまだ研究中でして」
「そんな事を言っていられる状況か!!さっさと持って行って牙竜の対処を行えっ!!手遅れになっても知らんぞ!!」
「しょ、承知しました!!」
皇帝に怒鳴られた魔大臣は急いで通路を駆け抜け、その様子を見て皇帝はため息を吐き出す。しかし、彼ものんびりとはしてられず、すぐに避難の準備を行う。
その一方で皇帝に叱りつけられて通路を駆け出した魔大臣は内心で焦りと苛立ちを抱いていた。彼は10日ほど前に現れた「ジョカ」の事を思い出す。
(くそ、あの女め!!いったい何を考えている!?)
魔大臣の屋敷の元に突如として手紙が届き、その内容は彼が密かに魔大臣の役職を利用して魔道具の研究開発のための費用と称して横領し、そのお金で個人的にとある「魔物」の実験を行っていた事が示されていた。
自分だけしか知らないはずの秘密を知っている者がいる事に魔大臣は震え上がり、すぐに手紙に応じて彼は酒場へと訪れた。普段は酒場には訪れない魔大臣であったが、そこで彼はジョカと遭遇する。
『帝国が回収した魔除けの石の効能を皇帝に伝えなさい。言っておくけど、情報はもう伝わっているのよ。あんたがミームに釘を刺された事もね』
『ば、馬鹿な……そんな事を報告すれば私の身が危ない!!』
『何を言ってるのよ、あんたは職務を全うに果たしただけよ。むしろ、権力を利用してあんたを黙らせたミームが悪いんじゃない?』
『そ、それは……そうかもしれないな』
ジョカの言葉に魔大臣は確かに一理あると思い込み、元々は彼はミームに口出しされなければ皇帝に報告するつもりだった。それを無理やりにミームに脅されて報告を怠った事自体が問題のように思い始めると、ジョカは更に言葉を続けた。
『あんたは何も悪くないわ、研究費の横領に関してもあんたなりに考えがあっての事でしょ?』
『ど、どうしてそこまで……』
『私達はこの帝都中に支援者がいるのよ。あんたが研究室にて隠しているあの『合成生物』の事も知っているのよ』
『な、何だって!?』
魔大臣はジョカに自分が研究中の「合成生物」の存在も知られている事に震え上がるが、そんな彼に対してジョカは強力を申し出た。
『数種類の魔物を配合させ、人間に従う戦闘用の魔物を開発するのがあんたの目的でしょう?この研究が成功すれば帝国の軍事力は強化され、あんたの地位も安泰だった……けれど、支援者であったウサンが失脚した事で研究を断念せざるを得なかった』
『う、ううっ……』
『合成生物を作り出す事には成功したけど、肝心の知能が低すぎて人間に従う事が出来ないのも知っているわ。だけどね、どんな魔物も従えさせる人間が協力した場合、どうなるのかしら?』
『えっ……ま、まさか魔物使いの事を言っているのか?』
『そうよ、あんたの合成生物は私も興味があるわ。だから、こうしましょう?あんたが作り出した合成生物の1体を私に寄越しなさい。そうすれば魔物使いの能力であんただけに従う合成生物の製作に協力してあげるわ』
『な、何だと……そ、それは本当か?』
ジョカの言葉を聞いて魔大臣は非常に悩んだが、彼は元々はウサン大臣の派閥だった。だが、彼が失脚したせいで魔大臣の立場も危うくなり、成果を出さなければ解雇されるのは時間の問題だった。
だからこそミームに魔除けの石の報告をしたのは彼女とに取り入るためだったのだが、不正を嫌う彼女は魔大臣を受け入れる事はない。そのため、魔大臣はジョカの言葉に従うしか選択肢はない。
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