第555話 潜入方法

「前回、僕は女性の使用人に化けて城の中に潜り込んだ。だが、この方法はもう使えないだろう」

「え、どうしてですか?」

「先ほど城に働いていたという従業員から聞いた話だが、先日から勇者が暗殺されそうになった件以来、城の警備が強化されたらしい。城に入る人間は何者であろうと鑑定を受けてステータスを確認される。つまり、どんな変装の達人であろうとステータス画面を覗かれれば正体がばれてしまう」

「なるほど、じゃあ変装して忍び込むのは難しいんですね」



リルは酒場の従業員から事前に城の情報を色々と聞いていたらしく、以前に彼女が忍び込んたときよりも警備が強化されていた。国を支える立場の勇者が命を奪われかけた件もあって城の警備が一から見直されたという。


鑑定士の鑑定の能力はどんな人間でも変装を見破れてしまうため、変装などの小細工は通用しない。かといって他に侵入する方法も難しく、帝城の地図を見直しても侵入経路は限られていた。



「城に運び込まれる食料品などの荷物に紛れ込んで入り込むのはどうでしょうか?」

「それも前に試そうとしたが、城内に運ばれる前の検査がある。その方法は難しいな」

「騒ぎを起こして、兵士を引き寄せている間に別の場所に侵入する方法は?」

「ふむ、それはやってみる価値があるかもしれない」

「……あ、そうだ。俺の能力で城の人たちを味方にして中に侵入するのはどうですか?」

「なるほど、魅了の力か……それならいけるかもしれない」



リルはレイナ達の提案を聞き入れ、レイナの「魅了」の能力の事を思い出す。忘れがちではあるが、吸血鬼を倒した時にレイナは魅了と呼ばれる能力を身に付けている。この力は異性に対して絶対の力を持ち、どんな男性であろうとレイナに虜に出来る能力だった。



「確かにレイナの魅了を使えば城の兵士を操って中に忍び込む事は出来るかもしれません。しかし、その場合だと女性兵はどうしますか?」

「そうだな、レイナ君の魅了は同姓には効かなったはずだな?」

「はい……それと、魅了した人間も定期的に接触しなければ効果が切れて操る事は出来なくなります。それに記憶は残っているので後で正体を気づかれる可能性もありますけど……」

「ふむ、しかし一時的にとはいえ、城の人間を僕に加えられるのは悪くない。よし、それならネコミンの案も取り入れよう」

「どうするつもりですか?」



地図の上にリルは4つの駒を起き、それぞれがキング、ビショップ、ナイト、クイーンの駒だった。その内のクイーンを除いた駒をリルは城の中に置く。



「……まずはレイナ君が魅了の能力を使い、城の人間の中から何人か味方に付ける。その人間達に僕達を手引きさせ、女性兵か使用人の格好に化けて僕達が研究室に潜り込むんだ」

「え?レイナは連れていかないのですか?」

「ああ、レイナ君には悪いが囮役を務めて貰う。レイナ君は出来る限り派手な格好をしてもらい、男性陣を従えて注目を浴びるんだ。そして城の兵士達の注意を引く」

「でも、それだとレイナが危険すぎる」

「大丈夫さ、もしもの時のためにクロミンがいるだろう?」

「ぷるぷるっ(どういう意味?)」



部屋の隅でミルクを飲んでいたクロミンは名前を呼ばれて不思議そうにリルに振り返ると、彼女は笑顔を浮かべてクロミンの頭を撫でる。



「クロミン、君には大切な役目を与えよう。君は今から魔王軍の竜となるんだ!!」

「ぷるんっ(どういうこっちゃい)!?」



リルの発言にクロミンも含め、他の者達も驚かされるが、彼女の考えた作戦を聞かされてとんでもない内容にレイナ達は驚かされた――





――その日の夕方、レイナ達は準備のために城下町に繰り出すとまずは服屋に赴き、変装用の衣装を購入する。この際にチイの覚えていた「裁縫」の技能が役立ち、彼女は短い時間の中で購入した衣服を組み合わせ、先日に遭遇したリディアの衣装を再現した。


チイが服を用意する間、他の3人は城の様子を調べ、城から出ていく女性兵の様子を伺う。この際にレイナの解析の能力が役立ち、城から離れる女性兵の様子を観察し、その中でも明日は休日で出勤しない兵士を確認する。



「いた、あの兵士は明日は休日で出勤しないみたいです」

「よし、確保だ」

「了解」



城から離れる女性兵の後を尾行したレイナ達は人気のない場所を選び、女性兵を拘束して彼女達が身に付けていた装備を奪う。このまま放置するのは可哀想なため、捕縛した兵士は宿へと連れ込む。



「よし、人数分の兵士の装備は確保した。彼女達には悪いが、明日までは大人しくしてもらおう」

「本当に上手くいくのでしょうか……」

「ここまできたら弱音は無しだ。大丈夫、作戦通りにいけば上手くいくさ」



レイナ達は全ての準備を整えると、明日に備えて身体を休め、そして警備が最も弱くなる夜明けの時間を迎えるまで待機し続けた――

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