第554話 魔大臣
「こいつは噂なんだが、最近の魔大臣は人が変わったように荒々しくなったらしい。最近になって俺の店にも着た事があるぞ?普通、貴族がうちのような店に来ること自体が珍しいんだがな」
「え?この店に魔大臣が!?」
「ああ、といってもお忍びで来てたな。実は俺の所で働いている従業員が元々は城の兵士でな、それですぐに魔大臣だと気づいたんだ。最も本人は気づかれないようにフードを被っていたらしいがな。なあ、あの時に来たのは魔大臣?」
「え、ええ……あの時は驚きましたよ。まさか魔大臣がここに来るなんて……」
掃除中だった従業員の一人が店主に話しかけられて頷き、どうやら彼が帝城で働いていた兵士らしい。城の兵士ならば魔大臣の顔を見おぼえていてもおかしくはなく、彼は魔大臣が来た時にすぐに正体に気付いたという。
店主の話によると貴族が一般人が訪れる酒場に来ること自体が非常に珍しいらしく、魔大臣が来たと知った時は驚いた。しかも魔大臣の傍には見知らぬ女性が存在し、結婚しているはずの魔大臣が年若い女性を連れてきた事に彼は怪しむ。
「魔大臣は愛妻家として有名なんだが、その時は妙に若い女を連れて楽しそうに話してたな。俺の勘だが、あいつらはきっとできてるな。魔大臣の奴め、表向きは妻一筋に見せかけてあんな若くて可愛い娘と浮気してやがったな」
「そうですかね?俺はそうは見えませんでしたよ。確かに話はしてましたけど、なんだかあの二人の目が笑ってはいなかったような……」
「女性、か……それはどんな容姿か分かるか?」
「あん?あんたらも気になるのか?」
「あ、それなら俺が絵を描きましょうか?実は俺、模写の技能を持ってるから似顔絵も書けますよ」
「本当か?」
従業員の言葉にレイナ達はすぐに彼に女性の似顔絵を描いてもらう。従業員は瞬く間に羊皮紙にペンを走らせ、女性の似顔絵を描く。その似顔絵を見た瞬間、レイナ達は危うく声を上げそうになった。
(この女は……ジョカ!!)
(という事は魔大臣は……)
(ああ、どうやら魔大臣は魔王軍と繋がっている可能性が高いな……)
似顔絵を確認したレイナ達は魔大臣が密談していた相手がジョカだと判明すると、目つきを鋭くさせる。一方で事情を知らない店主と従業員はジョカの似顔絵を見て盛り上がる。
「いや、あの時は本当に驚きましたね。魔大臣がこんな若い人と一緒に話してるなんて……」
「だから言ってるだろ、こいつらは出来てるんだよ。魔大臣め、何処でこんないい女を引っかけやがったんだ」
「あ、でももう一人の男は誰だったんでしょうね?ほら、二人が帰る直前で現れたあの男」
「ああ、そういえばそんなのもいたな」
「男?他にも誰か現れたんですか?」
二人の言葉にレイナ達は驚き、魔大臣がジョカだけではなく、他にも男性と会っていたという話からその男性の正体も魔王軍なのかと疑問を抱く。試しに従業員にその男性の似顔絵も書いてもらう。
「ほら、この男ですよ。こっちの男の方は最初に見た時に巨人族かと思うぐらいに迫力がありましたね」
「ああ、長年冒険者を相手にしてきたが、あれほどの迫力を持つ男は見た事がないな……きっと、傭兵か何かだろう」
「へえっ……えっ、この人!?」
「レイナ君?知っているのか?」
レイナは男の似顔絵を見て驚いた声を上げ、その彼女の反応にリル達も不思議に思う。リル達は特に男の顔には見覚えはないが、レイナの方はかつて一度だけ男の顔を見た事があった。
それは帝都を脱出してケモノ王国へ向かう旅の途中、レイナは常人ではありえない迫力を滲み出していた男性と街中ですれ違った。その姿を見た時、レイナは本能的に彼が只者ではないと悟る。その男性と全く同じ顔の似顔絵を見て驚いた――
――酒場にて思わぬ情報を手に入れたレイナ達は以前に宿泊していた宿屋へと赴き、とりあえずは四人部屋を借りる。部屋は余っていたが、全員が同じ部屋で居る方が何かと都合がいいという事で同じ部屋に宿泊する事にした。
ちなみにレイナは現在は女性ではあるが、精神は正真正銘の男性である。なので本来は女性の3人と一緒の部屋に過ごすのは問題があるかもしれないが、この4人は旅の間もずっと同行してきたため、今更抵抗感などない。
「さて……今後の事を話し合おうか。といってもあまり時間はない、ミーム将軍がこの帝都まで戻ってくるとしたら早くても3、4日といったところだろう」
「3日以内に我々は魔大臣が管理している魔除けの石を発見し、すり替えるかあるいは破壊する必要があるのですね?」
「そういう事だ。だが、肝心の魔除けの石が何処で保管されているのか分からない。魔大臣の屋敷か、あるいは帝城か、この二つに限られるだろう」
「リルさんはどちらにあると思いますか?」
「十中八九、帝城だろう……魔大臣は帝城に存在する研究室にて魔除けの石の分析を行っているはずだ。そこに忍び込み、僕達は魔除けの石を回収する必要がある」
ここでリルは地図を取り出し、机の上に置く。彼女が長年を費やして作り上げた帝城の地図であり、事前にレイナとチイは地図製作の能力で記録しておく。
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