第553話 帝都の様子

「よし、おふざけはここまでだ。さあ、行こう」

「もしもこの通路も封じられていたらどうしますか?」

「その時は別の方法を探すしかないな」



リル達は地下道へ入ると、帝都へ向けて歩く。しばらく時間が経過すると、何事もなくレイナ達は帝都へと繋がる出入口へと到着した。どうやらこの通路の存在は帝国兵には未だに気付かれていないらしく、遂にレイナは帝都へと帰還を果たす――





――久々に到着した帝都は以前と比べても人の数が少なく、何処か活気がなかった。巡回する帝国兵の数が非常に多く、レイナ達は目立たないように気を付けながらも街中を歩き回る。



「何だか、以前と比べて帝都の人達の元気がありませんね」

「ふむ、確かに……少し調べてみるか。この先に僕の馴染みの酒場があるんだ」

「レイナ、念のために地図製作は発動しておけ」

「あ、うん」



チイの助言にレイナは従い、街中ではあるが地図製作の画面を開いて地図を記録しておく。リルの先導の元、彼女が銀狼隊として活躍していた頃によく訪れた酒場へと訪れた。


以前にリルが訪れた時は酒場は常に大勢の人がいたが、今日は人気が殆ど存在せず、酒場の店主と従業員だけしかいなかった。店が休みというわけではないらしく、レイナ達が中に入ると不愛想な店主が声をかける。



「いらっしゃい……お客さん、初めてか?」

「いや、何度か訪れた事はあるんだが……まあ、久々に訪れたから顔は覚えていないか」

「ん?そうだったか?悪いな、常連の客ならちゃんと顔を覚えるんだがな……何を呑む?」

「じゃあ、ミルクを5杯お願いします。あ、この子には皿でお願いします」

「おい、酒場だぞ。酒を頼めよ……」



レイナの言葉に店主は呆れるが、律儀に4つのコップと大きめの皿を置くと、椅子に座り込んだレイナ達にミルクを注ぎ込む。レイナ達はコップのミルクを飲み干し、クロミンはぺろぺろと皿の上のミルクを味わうとリルが早速話しかける。



「店主、最近はどんな感じだい?儲かっているかい?」

「この状況を見て儲かっていると思うか?少し前までは冒険者どもがよく立ち寄っていたんだが、最近ではよりつかなくなっちまったよ。そういえばあんたらも冒険者か?」

「いや、旅人さ。ちょっと遠くから来てね、帝都へ観光へ訪れたんだが何だか様子がおかしいね」

「観光客か、こんな時期に来るなんて運が悪かったな。今現在、この国は戦の準備をしているんだ」

「戦の準備だと……という事は、ケモノ王国に本気で仕掛けるつもりか!?」

「な、何だ!?知ってたのか?」



チイの言葉に店主は驚くが、リルはそんな彼女を落ち着かせ、城下町の住民にも戦の準備が行われている事を知っている辺り、皇帝は大々的にケモノ王国との戦争を考えている事を知った。



「僕達も噂程度だが、帝国が戦の準備を整えている事は知っている。しかし、理由は何故か分かるか?」

「そんなのは決まってるだろ、獣人共がアリシア姫を誘拐したから皇帝が怒って戦を仕掛けるんだよ……と、言いたい所だが実はここだけの話、理由はそれだけじゃねえんだ」

「ほう?」

「詳しく話を聞きたいか?なら、ちゃんとした酒を頼みな、情報量だ」

「む、酒か……普段は嫌いじゃないんだが、今日は酔うのはちょっとな」

「じゃあ、一番高いお酒をください。これだけで足りますか?」



話を聞いていたレイナは自分の財布から金貨を取り出し、とりあえずは10枚ほど机の上に置く。そのレイナの態度に店主は驚き、最初にミルクを頼んできたので酒は飲めないかと思っていたが、彼は10枚の金貨を見て目を見開く。


もしかしたら上客が訪れたのかと店主はすぐに店の中で一番高い酒を用意すると、リル達は不安な表情を浮かべる。本当にそんなお酒を飲んでも大丈夫なのかとレイナに視線を向けるが、レイナは何事も内容にお酒を受け取ると蓋を開いて口に注ぐ。



「いただきます」

「なっ!?おい、そんな無茶な飲み方……」

「ごちそうさまでした」

『ええっ!?』



酒瓶を口に運んで一気に飲み干したレイナに店主だけではなく、リル達も驚く。レイナは以前に「悪食」と呼ばれる固有スキルを習得しており、その影響でレイナはどんな毒物だろうと栄養として吸収できる。それが酒であろうと関係なく、レイナは一番高くて強い酒を飲み干す。


店主は空になった瓶を見て唖然とするが、そんな彼にレイナは口元を拭いながら店主に情報を問い質す。代金を受け取った以上も店主も黙っているわけにはいかず、彼がある伝手で掴んだ情報を話した。



「それで、どんな情報なんですか?」

「あ、ああ……俺の聞いた話によると、魔大臣が皇帝に戦争を仕掛けるように助言したらしい。なんでもケモノ王国へ安全に侵入できる凄い魔道具を開発したとかどうとか……」

「凄い魔道具……それはどんな魔道具か分かりますか?」

「さあな、そこまでは知らねえが……だが、魔物を寄せ付けない凄い代物らしい」

「やはり……」



レイナは店主の言葉に他の3人を見ると、この国の魔大臣がレイナが残した「魔除けの石」を利用し酔うとしている事が発覚する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る