第551話 帝都への帰還

――街に戻った後、すぐに準備を整えると休みなしでアリシアと瞬はミームに連れられる形で帝都へ帰還する事が決まる。同時にリル達は今後はどうするべきか話し合いが行われた。


リル達の目的はアリシアを救い出して戦争を回避する事だった。その目的は果たされたのだが、今度はミームの身が危なくなった。彼女は帝国の将軍の中でも唯一リル達が信頼できる相手のため、出来る事ならば力になりたい。



「僕達も帝都へ向かおう。危険ではあるが、放置は出来ない」

「お待ちください!!本気で言っているのですか!?」

「……流石に危険過ぎると思う」

「ぷるぷるっ……」



馬車の中に残ったリルはレイナ達に帝都へ自分達も向かう事を告げると、当然の如くリルもチイも反対する。レイナとしてはリルの言葉に悩み、出来る事ならば帝都に存在する他の勇者と顔を合わせたかった。


正体を明かす事は出来ないとはいえ、レイナとしても自分が消えた後の勇者達の動向は気になっていた。茂とは先日に顔を合わせたが雛とは帝都を脱走して以来から顔を合わせていない。



「リルさん、帝都へ戻ってどうするつもりですか?」

「このままだとミーム将軍の身が危ない。それと魔大臣の動向が気になる……どうしてミーム将軍に口封じをされていたのに急に口を割ったのか?僕は魔王軍が関与していると思うんだ」

「しかし、魔王軍と繋がっていたウサン大臣はもういないのでは?」

「ウサンは消えたとしても他の人間が魔王軍と繋がっている可能性は否定できないだろう?」

「でも、私達の手配書が回ってる。前の様に変装して忍び込むのも難しい」



ネコミンは数枚の羊皮紙を取り出すと、そこには帝都へ訪れた頃の変装した銀狼隊と勇者レアの似顔絵が記されていた。アリシア救出後、彼女達は行方不明者として未だに捜索は続けられている。



「勿論、それも分かっている。中途半端な変装では正体が気づかれるだろう……だが、私達にはリリス特製の変装セットがある。これがあれば今まで以上に上手く変装できる」

「仮に変装したとしても私達に何が出来るのですか?魔大臣を脅して魔除けの石の効能が嘘であると証言させるのですか?」

「それも考えたが、ここは魔除けの石その物を何とかしよう。僕達は帝都へ忍び込み、魔除けの石をすり替えるんだ」

「すり替え?」



リルは自分の荷物から地図を取り出して敷き詰めると、それは帝都の地図だと判明し、彼女は帝城を指差す。この地図は長年の間、リルが制作した地図だった。



「この地図は何年も費やして僕が書き上げた地図だ。使者として赴く度に僕は城を観察し、地図を作り上げた。この地図を頼りに忍び込み、僕は勇者の暗殺を企てた事もある」

「あ、もしかして俺と最初に会ったときも……」

「この地図のお陰さ。最も今度は勇者を殺すのではなく、結果的には彼等を救うために使う事になるとは思わなかったが……」



ケモノ王国の立場からすれば勇者は脅威の存在であるため、危険を覚悟でリルは勇者達を暗殺するために彼女は一人で挑んだ。しかし、今回はその逆で勇者の味方であるミームを救うために彼女はもう一度帝都へと戻り、城に忍び込む事を提案する。


ミームが今回の一件で捕らえられた場合、帝国はどのように動くのか分からない。だが、帝国にはレイナが作り出した魔除けの石が存在し、もしもこの魔除けの石が量産されて帝国軍が牙路を抜けてケモノ王国への侵入を可能とした場合、取り返しのつかない事態へと陥るだろう。



「レイナ君が作り出した魔除けの石は簡単に量産できるはずがないと思うが、可能性は零とは言えない。何としても僕達の手で破壊するか、あるいはすり替えるんだ」

「確かにそれはそうかもしれませんが、何もリル様が向かう必要はありません!!ここは国へと戻り、潜入が得意なハンゾウを連れてくるべきです!!」

「牙路が見張られている事をもう忘れたのか?魔王軍が待ち伏せている可能性がある以上、僕達は簡単にはケモノ王国へ戻る事は出来ない。ここは僕達の手で魔除けの石をすり替えるんだ」

「すいません、俺が不用意に魔除けの石を残さなければ……」



レイナは申し訳ない気持ちに陥り、今回の事態は全て自分の責任だと感じていた。そんなレイナに対してリルは彼女の胸に拳を押し当て、微笑む。



「君だけが悪いわけじゃないさ。基を正せば馬鹿な勇者を助けるための行動だ。第一に君がいなければケモノ王国も勇者達も命が危なかったんだ」

「ぷるぷるっ(そうそう)」

「こんな事になるなんて誰も予想できなかった、気に病む事じゃない」

「……それに私もお前がいなければ死んでいた所だ。なら文句を言えるはずがないだろう」

「皆、ありがとう……」



リル達の言葉にレイナは安堵するが、同時に遂に自分が帝都へと戻る機会が訪れた事を意識した。帝都を離れてから既に半年近くの月日が経過したが、最初の頃と今では立場に大きな違いがあった。

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