第550話 魔大臣の密告

「あ、アリシア様!?ご無事で何より……」

「そんな事はどうでもいいのです!!それよりも先ほどの話は本当なのですか!?ミーム将軍に謀反の疑惑が掛けられているというのは……」

「ほ、本当の話です。ある者から陛下に直接報告が届き、それを知った陛下はすぐにミーム将軍を更迭するようにと……」

「ふざけるんじゃないよ!!帝国に仕えて数十年、あたしは一度だって帝国に刃をむけるような真似をした覚えはないよ!!」



伝令兵の言葉にミームは激高し、アリシアもミームが謀反の計画を立てるなど信じられなかった。しかし、伝令兵達は皇帝から受け取った書状を差し出し、これは皇帝からの直々の命令である事を伝える。



「我々もミーム将軍がそのような計画を立てたとは思っていません。しかし、陛下からの命令は絶対です……どうかこのまま我々と共に帝都まで同行して下さい」

「これは……確かに父上の文字ですね。しかし、どうして……」

「いったい誰が密告したんだい!?私を謀反人に仕立て上げようとは良い度胸だね!!」

「そ、それは……」

「答えなさい!!」



アリシアの命令に対して伝令兵は迷った表情を浮かべるが、やがて彼等は観念したようにミームを密告した人物を明かす。



「帝国の魔大臣のウリギ様です……先日、ウリギ様は茂様の捜索の際に発見した魔除けの石を分析し、その効能を確かめるとすぐに陛下へ報告しようとしたそうですが、それをミーム将軍に止められたと……」

「魔大臣の奴め、やっぱりあいつのせいか!!」



ミームは魔大臣の名前が出てきた事に歯ぎしりし、確かに彼女は魔大臣に魔除けの石の報告を辞めるように忠告した。しかし、それだけで彼女が謀反の疑いが掛かるなど信じられず、アリシアは詳しく事情を尋ねる。



「どうして魔除けの石の報告を止めただけでミーム将軍に謀反を企んだ事になるのですか?」

「陛下によればミーム将軍はケモノ王国の軍勢がヒトノ帝国へ侵入できるはずがないと進言されたそうですが、事前に魔除けの石の存在を知っていた事を知り、自分に嘘を吐いたと判断されたのです。魔除けの石を使えばケモノ王国の軍勢は国境を越えずとも帝国へと侵入できるという事実を隠蔽したと陛下は思い、ミーム将軍を帝都へ呼び出して直接問い質すつもりかと……」

「冗談じゃないよ!!あたしが陛下に報告をしたときは魔除けの石の事なんて知らなかったんだよ!!」

「しかし、魔大臣はミーム将軍が陛下に報告する前の時点から既に情報は伝えていたと……」



伝令兵の言葉を聞いてミームは憤慨し、確かに彼女は陛下を宥め課せるためにケモノ王国の軍勢が帝国軍に察知されずに領地内に入り込む手段はないと説得した。


だが、皇帝の元に魔大臣のウリギが訪れ、彼女は虚偽の報告をしたと告げたと報告し、自分は彼女に脅されて魔除けの石の存在を陛下に伝える事が出来なかったと語る。それを知った皇帝は激怒して彼女を帝都へ呼び戻そうとしているらしい。



「どちらにせよ、ミーム将軍はすぐに帝都へと戻るべきです。皇帝陛下は非常にお怒りでもしも戻らなければ軍隊を送り込んでミーム将軍を捕縛すると申しております」

「あたしを捕まえるだと!?陛下はそこまであたしのことを信用していないのかい!!」

「わ、我々に怒られましても……」

「ミーム将軍が謀反など有り得ません!!私が陛下の誤解を解きます!!共に帝都へと参りましょう!!」

「わ、分かりました。では私達は姫様が無事に見つかった事を陛下へ先に報告してまいります。すぐにお二人とも帝都へ帰還して下さい」

「ああ、陛下にしっかりと伝えな。あたしは任務を果たしたので帰還するとね!!」



伝令兵達はミームの迫力に気圧されて慌てて街の方角へと走り去り、残されたミームたちは面倒な事態に陥ったと頭を悩める。そして馬車の中に乗っていたレイナ達も予想外の展開に陥った事を知り、リルは神妙な表情を浮かべた。



「まずいな、このままだとミーム将軍の身が危ない」

「え?あの……アリシア姫が戻って皇帝陛下を説得すれば問題ないのでは?」

「事はそんな簡単な話じゃないんだ。仮にミーム将軍がアリシア姫を無事に皇帝陛下に届けたとしても、彼女が魔大臣の報告を陛下に伝えるのを妨害したという事実は消えない。しかも彼女の発言でケモノ王国への軍隊の派遣を先延ばしにされた後に魔大臣が密告した事が問題なんだ」

「皇帝からすればミーム将軍が帝国が王国への侵攻を妨害を行ったように感じるだろう。しかもミーム将軍はこの国の大将軍、帝国領地内の軍人たちの信望も厚い御方だ。そんな人物がもしも謀反を起こしたらと考えたら皇帝の不安は大きいだろう」

「そんな……」



瞬の甘い考えにリルとチイはため息を吐き出し、このままではミームは無事では済まないのは確かだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る