第549話 謀反の疑惑

「姫様が見つかった以上、すぐに帝都へ引き返す必要があります。姫様が無事である事、事件の黒幕が魔王軍である事を伝えればきっと戦の準備を辞めるでしょう」

「ええ、当然です。何としても父上を止めなければ……」

「まあ、あたしに与えられた約束の期限の日数は十分に残っています。後は帝都に戻ればいいだけですが、リル王女様はどうする気だい?このまま一緒に帝都へというわけにもいかないだろう?」

「ええ、僕達は街へ着いたら下ろしてください。明日の朝には国へ引き返すつもりです」

「ちょ、ちょっと待ちな。国へ戻るって国境は今は封鎖されているんだよ。だいたい、どうやってこの国へ来たんだい?」



リルの言葉を聞いてミームとしては戸惑い、そもそもどうやってリル達が帝国領地へ入ってきたのか彼女は知らない。ここで正直に話すべきかレイナ達は悩んだが、ミームはある事を思い出す。



「いや、待てよ……そういえば少し前に魔大臣から報告が上がっていたね。なんでも凄い性能を誇る魔除けの石が発見されたとか……」

「魔除けの石?あ、それってまさか……」



レイナは茂と再会した時に残した魔除けの石の事を思い出し、あの時は茂が野生の魔物に襲われないように残してきた代物だが、帝国に回収された後に調べられていた事を知る。


既存の魔除けの石をレイナの能力で強化した代物だが、帝国の魔大臣と呼ばれる役職の人間の分析によって特殊な魔除けの石があるとミームに伝えられ、彼女はその魔除けの石を使用してレイナ達が帝国へ訪れたのだと考えた。



「なるほど……獣人国では何時の間にか高性能な魔除けの石を作り上げる事が出来たんだね?そして牙路を通ってここまで渡ってきた……そう感がるともう国境なんて意味はないね」

「将軍、この事は……」

「分かっているよ、牙竜の脅威も無しに国に渡る事が出来るなんて知られたら大問題だからね。魔大臣にも口止めしておいたし、魔除けの石の件はしばらくは黙っておくよ」

「助かります。それと、ケモノ王国はヒトノ帝国と争うつもりはありません。今後も同盟国として良い関係を築きましょう」

「ああ、そうしてくれると助かるよ」



リルの言葉にミームは頷き、隣国同士で争い合いたくないというのはどちらも同じ考えであった。一方でアリシアの方は先ほどの話でレイナが反応した事に気付き、彼女はやはりレアとレイナが同一人物であると考えた。



(やはりこの御方は勇者様……しかし、どうして女性のような恰好を?女装、いやどう見ても本物の女性にしか見えない。でも帝国に居た時は間違いなく男性だったはず……いったいどうなってるのでしょう?)



ちらちらとレイナを観察しながらアリシアは混乱の境地に達し、何しろ男だと思い込んでいた相手が今現在は女性にしか見えないのだから当然の反応である。一方でリル達はレイナが作り出した魔除けの石が帝国に知られた事に頭を悩めた。



(その場に私達がいなかったから止める事は出来なかったのは仕方がないが、魔除けの石を帝国の魔大臣に知られたのはまずいな……あの石を分析して量産でもされたら大変な事になる。まあ、まずは大丈夫だろうが……)



レイナが作り出した魔除けの石があれば牙路を安全に通り抜ける可能性もあり、もしもそれが可能ならばもう帝国は山脈を越える必要はなく、安全に牙路を抜けてケモノ王国へ攻め寄せる事が出来るだろう。


しかし、魔除けの石の量産は現実的には不可能な話でもあり、そもそもレイナが作り出した魔除けの石は本来ならば存在しない代物である。仮にレイナの魔除けの石を使って牙路を潜り抜けようとしても人数は限られる。考えすぎならばいいのだが、リルはどうしても不安を拭う事が出来なかった。



「ミーム将軍!!街が見えてきました!!」

「ああ、そうかい。牙竜共はいないのかい?」

「はい、姿は見えません……待ってください、こちらに兵士が向かってきています!!」

「兵士?伝令兵かい?」



部下の言葉に疑問を抱いたミームは馬車から下りて様子を伺うと、街の方角から近づいてくる兵士の集団が存在した。それを見てミームは疑問を抱くと、兵士達の足を止めて近づいてくる伝令兵が到着するのを待つ。


伝令兵達は険しい表情を浮かべてミームの軍の前に立つと、彼等の中から書状を手にした兵士が前に出てミーム将軍を呼び出す。



「ミーム将軍、おられますか!?」

「ああ、私はここにいるよ。何かあったのかい?」

「……貴女が謀反の計画を企てたとの密告がありました!!今すぐに軍を他の将軍に任せ、帝国へと帰還して下さい!!」

「何だって!?」

「それはどういう意味ですか!?」



ミームに謀反の疑いがあると言われて馬車の中で聞いていたアリシアも驚き、彼女は馬車を飛び降りて伝令兵の元へと駆け出す。兵士達はアリシアがここに存在する事に驚くが、そんな事よりもアリシアはミームに疑いが掛かっている理由を問う。

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