第548話 秘密は明かせない

「最初に会ったときから違和感を感じていました。教えて下さい、貴女の正体はレア様ではないですか?」

「それは僕も気になっていた。だが、あり得ないと思って無視していたが……本当に君はレア君なのか?どうしてそんな恰好を……」

「それは……」

「そこまでにしてもらおうか」



レイナに対してアリシアと瞬は問おうとするが、そんな二人に対してリルは間に割って入り、他の者達もレイナを庇うように阻む。



「さっきから何を言っているのか知らないが、彼女はレイナ君だ」

「リル、誤魔化さないでください!!その御方は……」

「彼女は勇者じゃない、何度も言わせないでくれ」

「リルさん?」



リルの言葉にアリシアは我慢できずに怒鳴りつけそうになったが、そんなアリシアに対してリルは頑なにレイナの正体を明かそうとしない。その反応を見てレイナは戸惑うが、リルとしては黙って見過ごすわけにはいかなかった。


アリシアも瞬もレイナの正体がレアである事は気づいてはいるが、まだ確信を抱いたわけではない。何しろ二人が知っている勇者レアは男性で目の前に立っているレイナはどう見ても女性でしかも年齢も明らかに違う。だからこそリルは適当に誤魔化す。



「勇者レアはケモノ王国で保護している。そしてここにいる彼女は僕達の大切な仲間で、そして君たちの命の恩人だ。ならこれ以上に余計な詮索は止めて貰おうか」

「しかし!!」

「くどいぞ、アリシア?だいたい君はレイナ君に何を求めているんだ。仮にレイナ君の正体が君たちのいう勇者だとしよう、それで彼女に何を求めるつもりだい?まさか都合よく自分達の所へ戻ってこいなどと言い出すつもりじゃないだろうね」

「そ、それは……」

「くっ……」



アリシアと瞬はリルの言葉に言い返せず、確かに彼女の言う通りに二人はレイナの正体がレアだとしたら帝国へ戻ってくるように頼むつもりだった。理由は不明だが、レイナは他の勇者には存在しない不思議な能力を持っているのは間違いない。


一瞬で傷を治す力、性別や年齢までも変化させる力、何よりも牙竜を圧倒出来る程の強さ、それらを見せつけられればアリシアも瞬も黙って見過ごせるはずがない。これほどの力をもつレアが自分達の傍に戻ってくればこれ以上に無いほどに心強い存在はいないだろう。




――しかし、リル達からすればレイナを自分達から奪い取ろうとする彼等の行動を見過ごせはしない。そもそもレイナが帝国から抜け出した原因は二人がレイナを守り切れなかったのが原因である。




アリシアの場合はレイナ(この場合はレア)が処刑されそうになった時にその場にいなかったので言い訳の余地はあるが、瞬の場合は話は違う。彼は雛がレアに襲われたと聞いてその話を信じてしまい、彼の処刑に対して何も出来なかった。


無論、大切な幼馴染である雛がレアに襲われたと聞いたときは怒りを抱いたが、それでもレアが雛の命を狙ったと聞いたときは疑問を抱いた。少なくとも彼が知っているレアの人物像は人に危害を加えるような人間ではない事は知っていたが、それでも最初からレアの話を聞かず、彼の処刑に対して強く反対もしなかったのも事実である。


しかし、後々に雛がレアの無実を証明した後、瞬はレアに対して罪悪感を抱くどころかレアが雛を治療したという話を聞いて疑問を抱く。命を落としかけた雛を治療する力を持っているのならばどうして自分達に隠していたのかと瞬はレアに疑いを抱く事で罪悪感を打ち消していた。



「アリシア、いくら親友とはいえ、まさかとは思うが君はレイナ君を僕達から引き剥がすつもりじゃないだろうね?」

「……いえ、そんなつもりはありません。レイナ様、失礼なことを聞いて申し訳ありませんでした」

「あ、いや……別に気にしてないよ」

「……すまない、忘れてくれ」

「おいおい、どういう事だい?あたしには何が何だかさっぱりだね」



状況を理解できずにミームは頭を掻くが、とりあえずはレイナの事はアリシアも瞬もそれ以上の追求は出来ず、リルもこれ以上に事を荒立てるつもりはない。


リルとしてはここではっきりと言わなければアリシアもシュンも図々しくレイナに帝国へ戻ってくるように促すと思い、厳しく注意しておく。レイナはもう帝国の勇者ではなく、あくまでもケモノ王国の勇者である事を暗に伝える。チイもネコミンもレイナが引き抜かれるなど見過ごす事が出来ず、リルが先に動いてくれた事に安堵する。



「……急に怒鳴って悪かったね。僕も少し言い過ぎたよ」

「いえ、私が不甲斐ないばかりに苦労を掛けてしまい、申し訳ありません」

「レイナさん……いや、レイナ君か?さっきは騒いですまなかった」

「いいよ、別に気にしてないよ……そんな事より、二人とも無事で良かったよ」

「ありがとう」

「ふむ……仲直りは出来たのかい?それじゃあ、今後の事を話し合おうか」



ミームはレイナ達の微妙な雰囲気に気まずさを覚え、彼女は改めて状況を整理する事も兼ねて話題を変更させた。

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