第547話 ミームとの合流

「姫様!!無事かい!?」

「ミーム将軍!!私は無事です、勇者殿もここにいます!!」

「将軍……」



廃村の前にミームは辿り着くと、アリシアと瞬の姿を見て安心する一方、二人の傍にいるレイナ達を見て不思議に思う。だが、今は二人が無事だったことを安心すると、すぐに彼女は場所を移動することを提案した。



「さあ、姫様!!すぐにこちらの馬車に乗って下さい!!この周辺に数体の牙竜が侵出して危険な状態に陥ってます!!」

「あ、それは……」

「アリシア、話は馬車の中でも出来る。確かに牙竜の残党がまだ残っている可能性もある以上、ここから離れた方がいい」

「ん?あんたは……その顔、まさか!?」



変装しているとはいえ、アリシアを相手に親し気に話しかけてきたリルの姿を見てミームは正体に気付き、驚いた表情を浮かべる。だが、今はこの場を離れるのが先決のため、すぐに全員が馬車に乗り込むと捜索隊は街の方角へと引き返す。


レイナとしてはこのまま軍隊と合流して街へ向かっても良いのかと思ったが、牙路を潜り抜ける姿を魔王軍に見張られていた事を思い出す。いまから牙路に引き返しても罠を張られているか伏兵の可能性もある。



「さあ、ここならもう大丈夫だよ。姫様、ご無事でなにより……それと久しぶりだね、ケモノ王国のお姫様?」

「ふっ、やはりこの程度の変装では貴女に見破られるか」

「ミーム将軍、お久しぶりです」

「久しぶり」



ミームは馬車の中にて改めてリル達と向き直ると、笑顔を浮かべる。リル達とミームはアリシアを通して何度か顔を合わせた事があるらしく、すぐにミームはアリシアを救ってくれたのはリル達だと見抜く。



「そうか、姫様を救ってくれたのはあんたらだったんだね。感謝するよ、リル王女様……いや、今は国王代理と呼ぶべきかな」

「今まで通りの呼び方で構いませんよ。そんな事よりも、ミーム将軍とここで合流出来たのは良かった。帝国がケモノ王国へ攻め寄せようとしているという情報が入ったのですが、それは本当ですか?」

「それは……」

「ミーム、正直に答えてください」



リルの質問にミームは口ごもるが、アリシアが答えるように促すと、彼女は誤魔化す事は出来ないと判断して帝都での出来事を話す。



「ああ、それは本当の話だよ。皇帝陛下は姫様と勇者殿を攫ったのはケモノ王国の仕業だと思い込んで軍を動かそうとした。それをどうにか抑える事は出来たけど、二週間以内に姫様を見つけ出さなければ軍隊を動かすと言い出してね」

「そんな!?帝国とケモノ王国の間には山脈と牙路がある限り、ケモノ王国に攻め込むのは難しいという話では……」



ミームの言葉に瞬は驚き、彼も帝国に住んでいる間に国の事情は把握していた。かつて帝国は何度かケモノ王国と争ったが、その度にケモノ王国の領地への侵攻は失敗している。


理由としてはケモノ王国へ攻め込むとなると険しい山脈を乗り越えなければならず、牙路を通る場合は牙竜という脅威から逃れる事は出来ない。前者の場合は兵糧の運送も難しく、後者の場合は数万人の兵士を犠牲に前提での行軍となる。



「確かにシュンの言う通り、帝国がケモノ王国を攻めるのは難しい……だけど、皇帝陛下は既に軍の準備を進めているらしいね」

「そんな……」

「大丈夫です!!私が戻って必ずや陛下を止めてみせましょう!!」

「その言葉を待ってましたよ姫様、どうか陛下を止めてください……それと、どうしてここにリル王女がいるんだい?」



アリシアの言葉にミームは安堵の表情を浮かべるが、改めてレイナ達の方へと振り返り、この状況下でリル達が国内に存在する事に驚く。ケモノ王国の国王代理を務めるリルがヒトノ帝国内に居る事も驚きだが、そもそも自分達よりも先にアリシアと瞬と行動を共にしていた事に彼女は疑問を抱いていた。



「ああ、実は私達もアリシアが行方不明になったという情報を聞きつけてね。それでアリシアを救い出すためにここまで来たわけだ。親友の危機と聞けば僕も黙っていられないからね」

「それはまあ、有難い話だね……でも、どうやってここまで来たんだい?国境の警備を潜り抜けてここまでやってきたのかい?それともヒトノ帝国内にずっと潜伏していたとか……」

「詳しい事情は話せないが、ここにいる彼女のとこのスライムのお陰で僕達は安全に牙路を潜り抜ける事が出来るんだ」

「あ、どうも」

「ぷるるんっ(えっへん)」

「す、スライム?」



リルの言葉にレイナはクロミンを膝に抱えた状態で頭を下げると、ミームは呆気に取られるが、ここでアリシアはレイナの顔に視線を向け、今まで抱えていた違和感を尋ねる。



「あの、もしかしてですが……貴女はレア様ではないですか?」

「えっ!?」

「レア?それは確か、あたしが不在の時に召喚された4人目の勇者の事ですか?」



アリシアの言葉にミームは首を傾げ、彼女が聞いていた話ではレアは正真正銘の男性であり、目の前に座り込むレイナは明らかに女性だった。


しかし、アリシアはレイナの顔と先のジョカとのやり取りでレイナの正体がレアではないかと疑っていた。

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