第545話 まさか君は……
「ネコミン、チイを頼む!!行くぞレイナ君!!」
「はい!!」
「くっ……僕だって!!」
迫りくる3体の牙竜に対してレイナはアスカロンを構え、リルはムラマサを振りかざし、瞬も剣を抜く。他の者達も動き出し、心臓に刃が刺さったチイをネコミンが治療を行うために回復魔法を発動させる。
「チイ、しっかりして……」
「うぐっ……」
「あはははっ!!無様ね、でもお陰で助かったわ。勇者様?」
「ジョカ!!貴女だけは許しません!!」
3体の牙竜と戦闘状態に入ったレイナ達を見てジョカは笑い声をあげ、そんな彼女に対してアリシアは激高するが、ジョカは同時もせずに指を鳴らす。
「今回はちょっと準備が足りなかったわね、ここで退かせてもらうわ……でも、次に遭遇した時は全員殺してやるわ!!」
「待ちなさい!!このまま逃がすと思って……」
「うわっ!?」
ジョカが指を鳴らした瞬間、瞬が対峙していた牙竜が彼を前脚で吹き飛ばすと、ジョカの元へと駆け出す。ジョカは駆け抜ける牙竜の背中に跳躍し、そのまま逃走を図る。
咄嗟にレイナは逃走を計ろうとするジョカに視線を向け、解析を発動させて彼女の詳細画面を開こうとした。しかし、牙竜との戦闘の際中に能力を発動する暇もなく、そのまま建物を飛び越えて姿が見なくなってしまう。
「くそっ……邪魔をするなぁっ!!」
「シャアアッ!!」
残された2匹の牙竜とレイナ達は激闘を繰り広げ、結果的には数分後に2匹の牙竜を討ち取る事には成功した。しかし、その時には既にジョカは姿を消してしまった――
――牙竜の討伐後、致命傷を受けたチイはネコミンの回復魔法でどうにか命は助かったが、意識不明の重体へと陥る。チイの元に全員が集まり、彼女にリルは必死に声をかけるが返事はない。
「……危険な状態、私の回復魔法でも完全には治せない。傷が深すぎてもう回復薬でも助からないかもしれない」
「そ、そんな……」
「チイ、しっかりするんだ!!」
「うっ……」
「……解析」
このままだと死んでしまうと思ったレイナは解析を発動させて詳細画面を開くと、彼女の状態は「重体」だと表示された。
「リルさん、大丈夫です。俺の力で治す事が出来ます」
「本当か!?ではすぐにやってくれ!!」
「はい、分かりました」
「ちょっと待ってくれ、君は回復魔法を使えるのか?」
「うるさい、貴方は黙ってみてればいい」
「なっ!?」
「シュン殿、ここは彼女達に任せましょう」
レイナの言葉に瞬は驚くが、そんな彼に対してネコミンは今までレイナが聞いた事がない冷たい声を放つ。今は一刻も争い、すぐにレイナはチイの状態の項目に指を翳す。
この時にレイナの行動は見ようとした瞬に対してリルはさりげなく背中で覆い隠し、彼女が何をしているのか見させないようにした。瞬の視点では何をしているのか見えなかったが、数秒後にチイの身体が光り輝き、傷口が塞いで彼女は目を覚ます。
「うっ……こ、ここは?」
「チイ!!目覚めたのか!!」
「うわっ!?リル様、その恰好はいったい……」
「……無事で良かった」
「ネコミン、お前まで……そ、そうだ!!私はあの女に刺されて……」
チイは目を覚ますとすぐに自分が生きている事に驚き、胸元に突き刺されたはずの短剣が無くなっている事に気付く。そして自分の前に涙目を浮かべているリルとネコミン、最後に安堵の表情を浮かべたレイナがいるのを見て全てを察した。
「そ、そういう事か……レイナ、お前の力で私を助けてくれたんだな?」
「うん、生きてて良かった……」
「あ、ありがとう。また、お前に助けられたな……そうだ、ジョカは!?」
「残念ながら……」
ジョカの事を思い出したチイは彼女の姿を探すが、その様子を見てアリシアは首を振る。一方で瞬の方は本当に一瞬でチイが復活したのに驚き、先ほどの治癒魔導士のネコミンでも回復させる事ができないという話だったのに、レイナが一瞬で彼女を治癒した事に動揺を隠せない。
普通に考えるのであればレイナがネコミン以上の回復魔法の使い手で、チイを助けたと考えるべきだろう。しかし、それならば最初からネコミンではなくレイナが治療を行えばいい話である。それに先ほどのジョカが告げようとした言葉を思い出した瞬は彼女が「勇者」であると勘付いていた。
(まさか、僕達以外に勇者が召喚されていた!?そういえば獣人国はかつて勇者を召喚した事があると聞いているけど、だけどジョカの話しぶりだと彼女は……まさか!?)
ここで瞬は帝都で雛が刺客に襲われた時、彼女を救い出したのが「レア」である事を思い出す。雛の話によると彼女は死にかけたのは間違いなく、そこにレアが現れて自分を救ったと言っていた。そして瞬の目の前でチイを一瞬で治療したレイナを見て彼の中でレアとレイナの存在が重なる。
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