第541話 アリシアのペンダント
「このペンダントは亡くなった母上が生前に私に渡してくれたんです。これを身に付けていればどんな災厄からも守ってくれると言ってました。ただのお守りだと思っていたのですが……どうやらこのペンダントのお陰で私は生き延びれたようです」
「そのペンダントは……帝国の王妃様が身に付けていたペンダントだね」
アリシアはハートの形をしたペンダントを取り出し、皆に見せつける。ハートといっても既に二つに割れており、試しにリルは受け取るが別に何も特別な力は感じられない。しかし、このペンダントのお陰でアリシアはボルテクスの攻撃から自分が生き延びる事が出来たと確信していた。
今は死んでしまった母親のペンダントが自分を守ってくれた事にアリシアは涙を流し、まるで死んだ母親が自分を助けてくれたように彼女は感じていた。そして彼女の考えは間違ってはおらず、レイナは解析の能力を発動してペンダントの正体を調べると驚くべき事実が発覚する。
『身代わりのペンダント――ライフストーンと呼ばれる特別な鉱石で作り出されたペンダント。所有者が死の運命を迎えた時、一度限り身代わりとなって救う 状態:破損』
どうやらアリシアの所持していたペンダントは正式名称は「ライフストーン」と呼ばれる鉱石から作り出された代物らしく、所有者の命を一度だけ守る効果を持つらしい。現在は壊れてもう使い物にならない様子だが、このペンダントのお陰でアリシアは命が助かったらしい。
「何にしても君たち二人が無事で良かった。それにしてもまさかこんな場所で出会えるとは……正直に言って運が良かったよ」
「ええ、ですがリルはどうしてここに?ケモノ王国へ帰還したのでは……そうだ、レア様は!?レア様がケモノ王国におられるのですか!?」
「お、落ち着くんだ!!大丈夫、レア君なら無事だよ!!」
「無事というか……うん、まあ元気だと思います」
レアの身を心配するアリシアに対してレイナは何とも言えない表情を浮かべ、ここで自分の正体を明かすべきかを考える。だが、正体を明かせばそれはそれで面倒な事態に陥りそうであり、ここはリルに任せておく。
「それよりもアリシア、どうして君と勇者君はこんな場所に残っているんだ?君達二人が無事であるのなら、すぐに帝都へ戻るべきじゃないのか?」
「それは……」
「……出来ないんです、僕達はここから離れる事が出来ないんです」
二人は帝都へと引き返さず、このような場所で身を隠しているのかをリルは問うと、アリシアと瞬の顔色が変わる。二人としても一刻も早く帝都へ引きかえしたいという気持ちはあるが、今現在はこの場を離れられないという。
「理由は分かりませんが、牙竜が牙路を抜け出してこの周辺を徘徊しているのです。そのせいで私達も迂闊に行動する事ができないのです」
「ぷるんっ!?」
「牙竜が徘徊だと……」
「はい、僕達も何度か帰還を試みましたが、その度に牙竜が現れて邪魔をされ、逃げかえるのがやっとで……先日の戦闘でアリシアさんも負傷したのでここで休んでいたんです」
「ネコミンさんのお陰で回復はしましたが、牙竜が相手となると私とシュン様だけではどうしようもできず……」
牙竜が牙路を離れ、周辺を徘徊しているという話を聞いてレイナ達はもしかしたら自分達がここまでの道中で帝国兵と出くわさなかった原因も知る。アリシアと勇者が行方不明になったというのに帝国兵の姿が全く見えなかった理由は牙竜が原因かもしれない。
皇女と勇者が行方不明となれば帝国側も捜索隊を派遣するのは間違いないのに牙竜という脅威が徘徊しているせいで兵士達も迂闊に動けず、アリシアと瞬も廃村から離れる事が出来なかった。
「牙竜が牙路を離れてヒトノ帝国の領地に徘徊しているだと……しかも単体ではなく、何匹も?」
「……普通に考えたら有り得ない。この一帯には殆ど村や街も存在しない、それに牙竜は滅多に牙路から離れる事はないはず」
「ですが、実際に私達はもう幾度も牙竜と交戦しています……ここまではどうにか生き延びる事はできましたが、ここも安全とは言い切れません。リル、貴女も早く国へ戻った方がいい。そしてレア様に伝えてください、貴方様に救われた恩は一生忘れません……恩返しも出来ない自分をどうかお許しください、と」
「何を弱気な事を言ってるんだ。そんな事は直接本人に言うべきだ。そうだろう、レイナ君?」
「え?あ、そうですね……」
「レイナ……?そういえば貴女は初めて見ますね。新しく入ったリルの側近の方ですか?」
話を振られたレイナは焦った声を上げるが、ここでアリシアは彼女の顔を見て不思議に思い、まともにレイナと顔を合わせたのは初めてだったので彼女はリルの新しい側近かと勘違いする。
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