第540話 解析の勇者VS剣の勇者

「仕方ない、女性を相手に使いたくはなかったが……兜割り!!」

「っ!?」



瞬は剣を上段に構えると、凄まじい勢いで振り下す。剣士の戦技の基本の型だが、剣の勇者であるシュンが繰り出す攻撃は並の剣士の比ではなく、受け止めようとしたレイナはあまりの剣の一撃に両膝が崩れてしまう。



(嘘だろ!?俺もレベルがかなり上がってるのに……これが剣の勇者の力か!?)



ここまでの道中でレイナも相当なレベルと技能を所有しているが、それでも剣の勇者であるシュンの攻撃を受けるのに精いっぱいだった。一方で絶対の自信があった戦技さえも受け止められた事に瞬は動揺を隠せない。


召喚された日から瞬は欠かさずに鍛錬を行い、剣の修行を積んできた。時には実戦で技を磨き、今では帝国の将軍でさえも彼の相手は務まり切れない。それにも関わらずに瞬は自分の攻撃を受け切ったレイナに焦りを抱く。



(そんなまさか、この技も受け止められるなんて……ならばっ!!)



瞬は奥の手を使おうとした瞬間、ここで彼の背後から近づく足音を耳にする。それは建物の外に待機していたシロとクロであり、2匹は背後から瞬に噛みつこうとした。



「「ウォンッ!?」」

「なっ、魔獣!?」

「よし、取り抑えろ!!」



シロとクロは全体重を乗せて瞬の背中に体当たりを仕掛けると、瞬は予想外の衝撃に体勢を崩し、その隙を逃さずに他の者達も駆けつけて瞬を抑えつける。レイナは右腕、チイは左腕、シロとクロは両足に乗り込み、止めとばかりにクロミンが瞬の頭の上に乗っかる。



「大人しくしろ!!お前は何者だ!!」

「ぷるぷるっ(僕達に喧嘩を売るとは良い度胸だな

「くっ、離せっ……!!」

「瞬君、落ち着きなよ!!俺の事が分からない!?」

「何を言って……ちょっと待て、どうして僕の名前を?」



振り払おうともがくシュンだったが、ここでレイナが自分の名前を出した事に驚き、自分の名前を知っている人間がここにいる事に疑問を抱く。レイナの顔を見て瞬は今日初めて会った女性だと思うのだが、何処か見覚えがあるような気がした。


レイナは瞬を抑えつけながらも自分の正体を話そうとした時、ここでリルがアリシアに肩を貸した状態で赴く。傍にはネコミンの姿も存在し、どうやら彼女の回復魔法でアリシアを治療したらしい。



「アリシア、大丈夫か?」

「え、ええ……ネコミンさんのお陰で大分楽に慣れました」

「えっへん」

「あ、アリシアさん!?大丈夫ですか!?」



アリシアを目の前に連れてきたリル達に対して瞬は驚き、その様子を見てレイナ達は彼を離すと、瞬はどういうことなのかとアリシアの元に駆けつける。そんな彼に対してリルは自分達は敵ではない事を伝えた。



「私はアリシアの親友のリルだ。ここへ来たのはアリシアと君を救うためだよ、剣の勇者君?」

「親友……それは本当ですか?」

「はい、間違いありません。ここにいるリルは私とは子供の頃からの友人です」

「そ、そうだったんですか……勘違いして申し訳ありません!!」



誤解が解けた瞬はその場で平謝りすると、レイナ達は安堵した表情を浮かべる。いきなり襲われた事に関しては焦ったが、瞬の立場を考えれば仕方がない話だった。レイナはアリシアと瞬が無事だった事に喜び、同時に何が起きたのかを二人に問う。



「そういえば二人とも、どうしてここに?噂によると二人とも行方不明になったと聞いてたのに……」

「行方不明?やはり、そんな事になっていたのですか」

「アリシア、それに剣の勇者……名前はシュンと言ったか?とりあえずは私達は君達の味方だ、安心して話してくれ」

「それは……」



リルの言葉にアリシアと瞬は顔を見合わせ、互いに頷き合う。この状況下でやっと心を許せる相手に出会えた事にアリシアは安心したのか目元を潤ませ、自分達の身に何が起きたのかを話し始めた――






――事の発端は魔王軍の襲撃を受けた日にまで遡り、雷龍ボルテクスの攻撃を受けた瞬とアリシアは絶体絶命の危機を迎えた。しかし、ボルテクスの放った攻撃に対して瞬は奇跡的に生き延びた。


剣の勇者として召喚された瞬は非常に高い能力値を誇り、更には魔法に対する高い耐性を持っていた。ボルテクスの放つ雷は魔力で構成された攻撃だったことが幸いし、魔法の耐性を所持していた瞬は大怪我を負いながらも絶命を免れる。


攻撃を受けた当初は瞬は意識を失い、地中の中に埋まっていたが、魔王軍が去った後に彼は目を覚まして地中から抜け出す。その後はアリシアを助けようと彼は土砂を掘り返し、彼女を見つけ出す。


当初は命を落としたと思われたアリシアではあったが、驚く事に発見した時の彼女は衣服は焼け焦げていたが肉体その物は無傷であった。どうして彼女の命が助かったのかは不明だが、瞬によると彼女が身に付けていたヒトノ帝国では国宝として扱われているペンダントが彼女を守ったのではないかと考えていた。

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