第539話 待ち構えていた者は

「まさか、あそこにアリシアさんが!?」

「何!?それは本当か?」

「行きましょう!!」



反応を確認したレイナ達はすぐに廃村へと赴き、念のために様子を伺う。こちらの廃村はレイナも過去に訪れた場所だが、村の全域まで移動したわけではないので地図製作の画面上にはかつて訪れた時に移動した範囲の場所しか反応は表示されない。


画面上に表示されている反応は村の出入口からそれほど離れていない建物の中だと判明し、慎重に建物へと近づく。建物は牙竜が襲来した時に半壊したらしく、屋根が破壊された廃墟に足を踏み込むと、ここでレイナ以外の3人が鼻を引くつかせる。



「……確かに臭うな、人の臭いだ」

「ええ、この近くにいますね」

「すんすんっ……こっちの方」

「おお、流石は獣人族……」



獣人族であるリル達は人間よりも嗅覚に優れているため、3人は臭いを辿りに移動する。リルはともかく、ネコミン達と最初に遭遇した時もレイナは身を隠していたにも関わらずに臭いを頼りに隠れていた事を見抜かれた時の事を思い出す。



「こっちの方から臭いがする……」

「待て、ネコミン!!迂闊に近づくな!!」



一番嗅覚が鋭いネコミンが先頭を移動していると、柱の影から唐突に何者かが飛び出し、ネコミンの身体に抱き着いて短剣を首元に押し付ける。敵が現れたのかとレイナ達は咄嗟に武器に手を伸ばすが、ここでネコミンを拘束した相手を見てリルは驚く。



「まさか……アリシアか!?」

「っ……そ、その声は、リルですか!?」

「むぐぐっ……ぎぶぎぶ」



ネコミンを抑えつけた人物の正体はボロボロのマントを羽織ったアリシアである事が判明し、彼女は親友のリルの顔を見て驚き、一方でネコミンの方は身体を抑えつけられて苦しがる。


相手がリルと彼女の配下達だと知ったアリシアはネコミンを離すと、久しぶりに顔を合わせたリルに対して彼女は目元を潤ませる。しかし、すぐに冷静さを取り戻してリルに問い質す。



「リル、どうして貴女がこの国に……!?」

「君が行方不明になったと聞いてここへ駆けつけてきたんだ。それより、その恰好はいったい……」

「あ、これですか?実は色々とありまして……」

「アリシアさん!!無事か!!」



リルはアリシアの格好を見て驚き、彼女は自分の格好の事を思い出して恥ずかしそうに頬を赤くするが、この時に建物の外から男性の声が響く。その声を耳にした瞬間、レイナは驚きの声を上げて振り返る。



「この声は……まさか!?」

「なっ……誰だ、君たちは!?」



レイナ達が振り返ると、そこには水が入った桶を抱えるシュンの姿が存在し、シュンはアリシアの傍にいる4人の見慣れない女性を見て驚く。同時にレイナの方も数か月ぶりに再会したシュンを見て声を掛けようとするが、ここで彼は思わぬ行動に出た。



「敵かっ!!」

「えっ!?ちょっ……」

「待ってください、シュンさん!!この方達は……うっ!?」

「アリシア!?」



シュンは腰に抱えていた剣に手を伸ばすと、慌ててアリシアは彼を落ち着かせようとしたが、ここで彼女は胸元を抑えて膝を付く。その様子を見てリルは驚き、一方でシュンの方はアリシアの危機だと判断して剣を引き抜く。


チイとネコミンはシュンの顔を見た事がないので彼が勇者だとは知らず、唐突に現れて剣を抜いた男に対して警戒するように武器に手を伸ばす。その様子を見てシュンは彼女達の事を敵だと判断して剣を振りかざす。



「疾風剣!!」

「ぐあっ!?」

「にゃうっ!?」

「早いっ!?」



短剣と鉤爪を取り出そうとした二人に対してシュンは言葉通りに疾風のような速度で剣を振り抜き、二人の武器を払い落とす。その光景を見てレイナは驚き、一方でシュンの方は残されたレイナに向けて刃を振り抜く。



「峰打ち!!」

「うわっ!?」



剣の戦技の一種と思われる攻撃を繰り出してきたシュンに対してレイナは後ろに飛んで攻撃を回避すると、シュンは自分の攻撃が避けられたという事実に驚き、彼はレイナに顔を向ける。


この時にシュンはレイナの顔を見て誰かを思い出しそうになったが、今はアリシアを救うために雑念を振り払い、彼は剣を振りかざす。そんなシュンに対してレイナも咄嗟に剣を引き抜き、正面から刃を交わす。



「はああっ!!」

「くぅっ!?」



流石に剣の勇者の一撃なだけはあって刃を触れた瞬間に強烈な衝撃が走り、ティナのような大剣使いでもないのに非常に重い一撃を受けてレイナの身体は後方へと後退る。一方でシュンの方は自分の攻撃を受けても倒れなかったレイナに驚き、警戒心を抱く。



(瞬君、こんなに強かったのか……)

(強い……これは手加減できる相手じゃない)



お互いに剣を交えた事で相手の強さを思い知り、シュンは自分の腕が震えている事に気付く。この震えは怖気ついたわけでも武者震いでもなく、レイナの剣の一撃が予想以上に重くて腕が痺れてしまったのだ。

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