第538話 地図製作の反応

「そういえばリルさんたちは毎回山を越えてケモノ王国に帰還してたんですよね。それってどれくらい大変な事なんですか?」

「ああ、僕達の場合は行きは王国からの使者として出向いているから問題はないが、基本的には帰還する場合は変装や商人の荷物などに忍び込んでケン城まで移動する。そこから先は徒歩で移動するしかなかったね」

「何しろ国境付近の警備は厳重だからな……それに野生の魔物も多い、山越えは正直に言えば非情に危険な行為だ」

「もうあんな苦労はしたくない」



リル達によると山脈を越えての帰還方法は相当に辛いらしく、何度も窮地に追い詰められたという。変装して観光客や旅人として振舞ってケモノ王国へ戻る事はできないらしく、国境では鑑定士の称号を持つ人間達がわざわざ一人一人に鑑定を施してステータス画面を確認するほどに厳重な警戒態勢が敷かれていた。


いくら外見を変装した所で鑑定の能力の前では意味を為さず、どんなに姿を変えようと表示されるステータスは変化することはない。だからこそリル達はケン城に辿り着いた後は無理やりに城から脱出し、並の人間が通れないような危険なルートを選んで帰国するしか方法はなかった。



「正直、牙路が通り抜けられるだけでも僕達としては有難い話だよ。もう出来れば山越えなんて真似はしたくないからね」

「そうなんですか……でも、聞けば聞くほどリルさんは王女なのに危険な役目を任せられてたんですね」

「別に僕は気にしていないさ。その役目のお陰でこうして君たちに会えたんだからね」

「り、リル様……恥ずかしいです」

「いやん、さり気におっぱいを触ろうとしないで」

「うわわっ……」



リルはレイナ達を抱き寄せ、可愛がるように頭を撫でる。リルとしては自分が辛い環境に居た事は理解しているが、そのお陰でチイやネコミンやレイナ達に出会えたと考えていた。実際にレイナの場合はリルがヒトノ帝国に出向いていなければそもそも鉢合わせする可能性もなかったため、強ち間違いではない。



「偶然とはいえ、レイナ君と出会えて本当に良かったよ。いや、偶然とは言い難いか……元々、勇者を暗殺するために僕は送り込まれたからね」

「あ、そういえばそうでしたね。あの時、殺されかけたのを忘れてませんからね。今度、クロミンの散歩の当番を一週間で許してあげます」

「そんな事で許してくれるのかい!?」



元々はリルに命を狙われたレイナだが、彼女にも事情があって国のために働いていた事を知っている。それでも理不尽に殺されそうになった事に対しては色々と思う所はあるが、レイナとしてもリルとの仲がこじれたくはないので深くは追及しない。


話し込んでいる間にもレイナ達は草原を移動し、周囲を警戒しながらも様子を伺う。時間帯はまだ昼なので人目に付きやすく、ここでリルは提案を行う。



「流石に少し明るすぎるな……調査をするなら夜の方がいい、暗闇ならば姿を隠しやすい。今日の所は何処かに隠れてみよう」

「そうですね。俺もクロミンを戻すのに文字変換を8文字も使ってますし……」

「それなら前に訪れたティナの故郷に向かえばいいと思う」



ネコミンの言葉にレイナはティナの故郷が牙路からそれほど遠くない事を思い出す。彼女の故郷はかつて牙竜に破壊されてしまったが、今現在は廃墟とかして誰も住んでいない。夜まで姿を隠して過ごすには最適な場所かも知れず、廃村へと向かう。



「レイナ、お前の地図製作の方が私よりも性能が上だ。何か反応はないのか?」

「う~ん……特に反応はないかな、魔物らしき反応ならいくつかあるんだけど」

「そうか、それにしても捜索隊が派遣されているはずなのにこの周辺には兵士が一人も見当たらないな。こちらとしては都合がいい事だが……」

「ぷるぷるぷ~るっ!!」

「ほあっ……クロミンが震え出した。何かを感知した?」



移動中、ネコミンに抱えられていたクロミンが震え出し、彼は何かを伝えようと耳のような触手を動かして前方を指差す。その方向の先にはティナの故郷である廃村が存在し、そこで何かを感じ取ったらしい。



「あの村に何かあるのか?」

「……待ってください、反応があります!!それも色合いから俺の味方です!!」

「何!?どういう事だ?」

「「スンスンッ……ウォンッ」」



地図製作の画面に表示されたマーカーの色を確認したレイナは驚きの声を上げ、村の中に誰かが存在するのは間違いない。地図製作に表示されるマーカーは赤色ならば「敵」青色ならば「味方」黄色の場合は「他人」として表示される。


レイナに対して明確な敵意を抱く者は赤色として表示されるのに対し、廃村の中に存在する反応は「青色」だった。だが、ヒトノ帝国内でレイナの味方と言える存在など限られ、すぐにレイナは廃村の中に存在する人物の心当たりを思いつく。

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