第536話 捜査のために

「レアさんの能力なら確かに二人が消えた現場に辿り着けば足取りを掴めるかもしれませんね。でも、調べるためにはレアさんがもう一度ヒトノ帝国に向かう必要があります」

「となると、また牙路を通って行く気か?」

「それしか方法はないと思うでござる。山脈を越える場合は時間が掛かり過ぎるし、何よりも危険すぎるでござる」

「ですが、ヒトノ帝国は現在は実質的にケモノ王国と敵対状態に陥っています。いくらなんでも危険すぎるのでは……」

「このまま放置していたらどっちにしろ戦争になる。なら、多少危険でも行かないと!!」

「……レア君の言う通りだ。戦争となればケモノ王国も無事ではすまない、すぐに出発の準備を!!」



リルはレアの言葉に頷き、全員が準備に取り掛かろうとした時、ここでリリスが思い出したようレアの肩を掴んで微笑む。



「あ、そうだ。ヒトノ帝国に向かう場合はレアさんは正体がバレてるんですから、変装の必要がありますよね」

「えっ……また女に戻るの?」

「それだけだとつまらないじゃないですか。今回は大々的に変装も行いましょうか」



リリスの発言にレアはまたレイナとして活動しなければならないのかと思ったが、彼女は意味深な笑みを浮かべて全員に振り返る。



「チイもネコミンも同行するのなら御二人もちゃんと変装してもらいますよ。帝国で銀狼隊は行方不明扱いをされてるんですからね。今回は派手に変装しましょう」

「なんだか嫌な予感がするな……」

「……リリスの目が笑っていない」

「ふふふ、大丈夫です。痛くないですからね……この私が作り出した即席変装セットが役立つときです!!」



何処から取り出したのかリリスは大きな箱を取り出すと、中身を開く。そこには色々な色合いの液体の硝子瓶が入っており、それを見たレア達は嫌な予感を抱いた――






――それから数分後、再び「レイナ」へと変化を果たしたレアはリリスが取り出した道具を使用し、今回は肌色と髪色を変えてみた。いつもリルが変装する時に利用する化粧道具で褐色肌を演出し、更にリリスが新開発した新薬で髪色を銀髪へと染める。


今回は年齢も変更して「18才」になると、ついでに武器の方も巨塔の大迷宮にて回収した長剣を腰に装備する。聖剣の類は今回は常日頃から身に付けず、いつもどおりに「収納無限」のポーチの中に収めて持って行く事にした。



「また、今回は随分と変わった薬を作ったね」

「前々から私もヒトノ帝国へ行きたいと思っていましたからね。変装用の道具も開発してたんです」

「なるほど、それにしても飲み物かと思ったらスライムのような粘液だったとは……髪の毛に塗った後に冷やしたら液体が張り付いて髪の毛が染まる仕組みか」

「あ、ちなみにお風呂に入る時は気を付けて下さい。この粘液は水では落ちませんけど、お湯には簡単に溶けて消えてなくなりますからね」

「ぷるるんっ(レッドスライムになったぜ)」



リーリスが用意した変装用の特殊薬によって全員の髪の毛の色が普段の色合いとは変化し、更に化粧を施せばほぼ別人と化す。髪の色と肌の色が違うだけでもかなりの変化であり、クロミンに至っては特殊粘液を飲み込んで赤色に変化していた。



「クロミンもこんなに赤くなって……よし、名前も変えよう。今日から君はレッドミンだ」

「ぷるんっ!?(レッドミン!?)」

「いや、そこはアカミンでもいいじゃないですか。それより、今回は誰が出向くんですか?」

「調査役としてレイナ君が出向くのは勿論だが、ヒトノ帝国に何度も出入りしているチイとネコミンも一緒に行ってもらう。そして……ハンゾウ」

「拙者も同行するのでござるな?」

「いや、違う。君には僕の代わりに王国に残って貰う。僕の姿に変装して過ごしてくれ」

「ほあっ!?」



リルの予想外過ぎる言葉にハンゾウは素っ頓狂な声を上げ、他の者達も驚く。まさか国王代理であるリル自身が調査に出向くつもりかと皆が慌てるが、今回ばかりはリルは退くつもりはない。


親友であるアリシアが行方不明、しかも魔王軍が関わっているとしたらリルもいつもどおりに王都に留まる事など出来なかった。それに今回の件は下手をしたら戦争になりかねず、彼女自身も赴く事を決意する。



「この中でヒトノ帝国に赴いた経験が一番多いのは僕だ。それにアリシアには色々と助けて貰った恩がある、なんとしても助けてやりたい」

「いやいや、そうはいいますけどハンゾウ一人でリルさんの仕事を任せるのは無理がありますよ!?」

「そこはリリスが補佐して欲しい。念のため、ティナも残ってくれるか?僕達が不在の時に黄金級冒険者の君に白狼騎士団の事を任せたい。当然、サンちゃんも一緒には連れていけないね」

「わ、私は構いませんが……本当に行かれるのですか?」

「きゅろろっ……サン、お留守番?」

「悪いが、今回は事情が事情だから大人数で動く事は出来ない。大丈夫さ、僕達は何度も危険を犯してヒトノ帝国へ訪れているからね」



レア達の事を案じる者達にリルは微笑み、久々にこの4人で行動してヒトノ帝国へ向かう事が決まった。

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