第535話 魔眼の勇者と解析の勇者

「魔眼の勇者……確かに聞いた事がある。あらゆる未来、過去を見通す力を持つ勇者がいたという話を」

「ならば、その勇者の力があれば二人の居所を掴む事が出来るというのか?」

「伝承によれば勇者は自由自在に過去を見通す事が出来たといわれています。その能力があれば御二人を見つけ出す事が出来るかもしれません」

「だが、それはあくまでも魔眼の勇者の能力だろう?レア君にそんな真似は出来るのか?」

「ただの技能や固有の能力の場合なら覚える事は出来ると思いますけど、もしもそれが加護の力だったら俺に覚えるのは無理だと思います……」



ティナの話を聞いてレアは思い悩み、駄目元でステータス画面を開いて魔眼の勇者が所持していたという能力を習得できるのかを試す。だが、SPを消費して技能や固有能力を覚える事が出来るレアでも、勇者の加護に関わる特殊能力の場合は覚える事は出来ない。


一応はそれらしい能力を探してみるが、眼力系の技能や固有能力の中には過去や未来を見通す力は存在せず、せいぜいが「視力強化(視力を強化する)」「鷹の目(遠くの者をより繊細に見通すことが出来る)」「予測眼(敵の行動を予測し、見抜く事が出来る)」等と言った能力しか出てこなかった。



「……駄目でした、魔眼の勇者が使っていた能力はありません」

「そうか……」

「も、申し訳ありません……希望を持たせるようなことを言いながらお役に立てず」

「何を言う、別にお前は悪くないだろう」

「待って、レアの能力で称号を「解析の勇者」から「魔眼の勇者」に変える事は出来ないの?」

「それは止めた方がいいですよ。仮に成功した場合、レアさんの能力も更新されるはずです。そうなればもう文字の加護の恩恵は受けられず、能力もなくなってしまう可能性が高いですからね」

「それは……かなり困るな」



その気になればレアは称号を変更する事も出来るが、その場合は文字の加護の恩恵を失う可能性も高く、もうこれまで通りに解析と文字変換の力を使えない事を意味する。それだけは避けねばならず、他の方法はないのかと考えていると、ここでレアはある事を思い出す。



「……もしかしたら」

「きゅろっ?何か思いついた?」

「そうだ、上手くいくかもしれない。えっと、何かないかな……あった、リルさん!!そのカップの中身を見せてください!!」

「……カップ?これの事か?」



リルは自分の机の前に置かれた紅茶のカップをレアに指差され、戸惑いながらもレアに手渡す。そのカップに対してレアはじっと見つめていると、他の者が戸惑う。



「ど、どうしたんだいレア君?喉が渇いたのなら新しいのを用意するが……はっ!?まさか僕が飲んだカップの紅茶を飲みたいのか!!まさか僕の事をそこまで……」

「な、何だと!?本当かレア!!」

「いや、違うから……よし、やっぱりそうだ!!」



自分の飲んでいた紅茶をまじまじと見つめるレアに対してリルは少し恥ずかし気な表情を浮かべ、チイが騒ぎ出す中、レアは何か確信を抱いたのか目を見開く。



「リルさん、この紅茶を用意したのは使用人じゃなくてチイですよね。俺達がここに来る前にチイに用意させた紅茶ですよね」

「何!?どうしてわかったんだ?」

「たしかにその紅茶は私が用意した物だが……何故、知っている?」



レア達が部屋に訪れる前、リルの元に最初に訪れたのはチイだった。彼女は他の者が訪れる前にリルに頼まれて紅茶の準備を行い、レア達が訪れた時には既に用意を終えていた。


紅茶を用意していたのがチイである事を知っているのはリルだけであり、他の者達は紅茶を用意したのは使用人だと思い込んでいた。しかし、リルは旅をするときに紅茶を飲むときはチイに毎回頼んでいるため、彼女が傍に居る時は使用人に頼らずに彼女の注いでもらう事が癖になっていた。



「他にもありますよ、例えばそこの窓のカーテンは3日前にサンの悪戯が原因で破れて、使用人に新しい物に取り換えて貰ったんだよね?」

「きゅろっ!?ど、どうしてその事を!?」

「この机のテーブルクロスも、今朝クロミンが花瓶を溢した時に新しい物に取り換えた物だよね」

「ぷるんっ!?(バレた!?)」

「戸棚に隠してあったリルさんの好きなお菓子も昨日、ネコミンが食べたんだよね」

「にゃっ……見てたの?」

「そこに置いてある壺もハンゾウが一週間前に割って、慌ててご飯粒で修繕したんだよね。ちなみにその後にチイが偶然壺に触れて割れちゃったから、慌てて同じ壺を買ってきて置いたんだよね」

「な、何故その事を!?」

「ちょっと待て!?ハンゾウ、あの壺を割ったのはお前だったのか!!」

「いや、その前に君たち僕の部屋でそんな事をやらかしていたのかい!?」




レアが次々と部屋の中の代物を指差して過去に起きた出来事を言い当てると、全員が驚いた表情を浮かべる。まさか、魔眼の勇者が持っていた過去を見通す力をレアが手に入れたのかと思ったが、ここでレアはネタ晴らしを行う。



「実は俺、最近は解析の能力ばかりを使っていたせいか前よりも解析の能力が強化されているみたいなんです。そのお陰で物体に解析の能力を発動させると、過去に何が起きたのかも詳細画面で確認できるようになったんです」

「解析……なるほど、その方法がありましたか!!」



解析の能力で物体を調べた際、過去に何が起きたのかも見抜く事が出来るようになったのをレアが報告すると、リリスは意表を突かれた表情を浮かべる。


他の者達はレアの解析の能力を良く理解できずにいたが、少なくとも魔眼の勇者の様にレアも過去の出来事を見抜くような力を手に入れたのだと知る。





※レア「ちなみにリリスもリルさんの部屋で相当な事をやらかしてるよね」

 リリス「……レアさん、これをどうぞ」( `ω´)ノ賄賂

 ティナ「壁|д゚)←大変な光景を目にしたティナ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る