第532話 可能性

――玉座の間を退出したミームは捜索隊の編成の準備を行うため、足早で廊下を歩く。猶予は二週間、それまでに消えてしまったアリシアとシュンの居所を掴まなければ皇帝は本気で戦争を仕掛けるかもしれない。


とんでもない事態に陥ったと考える一方、今回の件に関してはミーム自身も気にかかっていた。二人の身も心配だが、いったいどのような方法で国境付近の城を落とされたのか調べる必要がある。



「ミーム将軍、お待ちください!!お話ししたいことがあります!!」

「ん?あんたは……魔大臣じゃないか?」



廊下を移動中、ミームは呼び止められて振り返るとそこには「魔大臣」という名前の役職の老人が慌てて追いかけてくる姿があった。変わった名前の役職だが、魔大臣は基本的に「魔道具」に関する管理を行う大臣である。


魔道具といっても様々な種類が存在し、魔大臣が管理するのは日常に扱う者から戦にも使用する魔道具の管理も行う。そんな彼がミームの元に訪れると、彼女が出発する前に追いついた事に安心した表情を浮かべた。



「良かった、まだこちらにおられましたか?」

「いったいどうしたんだい?あんたが私に話しかけるなんて珍しい事もあるね」

「ミーム将軍、実は例の魔道具に関しての解析が終了しました」

「例の魔道具……?」

「茂殿の傍に置かれていた魔除けの石の件でございます」



魔大臣の言葉にミームは先日の件を思い出し、一人で暴走して牙竜の討伐に向かった茂が気絶した時、彼の傍に置かれていた「魔除けの石」の事を思い出す。何者かが襲われていた茂を救い出し、彼が襲われないように魔除けの石を置いていたという話はミームも聞かされていた。



「ああ、そういえばそんな物もあったね。でも、それがどうしたってんだい?」

「実は調べたところ、あの魔除けの石は途轍もない効果を秘めているのです……通常の魔除けの石は一定の強さを誇る魔物には通じません。しかし、あの魔除けの石の効果は従来の物よりも更に効果は高く、恐らくは竜種級の魔物さえも近寄らせない途轍もない代物だと判明しました」

「何だって!?」



魔除けの石の効果はミームもよく知っており、本来の魔除けの石は大型や竜種などの魔物には効果は殆どない事を知っていた。


魔除けの石は人間が感じない程度の魔力の波動を発して魔物に嫌悪感を覚えさせ、特殊な訓練を受けた魔物以外は引き寄せない効果を持つ。但し、その効果は限界もあって大型や竜種などの魔物には殆ど通用しないと聞いている。



「私も驚きましたが、どうやら茂殿が回収してきた魔除けの石の効果は恐らくはあらゆる魔物に通じるでしょう。実際に実験中、様々な魔物を近づけさせましたが魔除けの石の効果が強すぎるせいか、近づこうとした魔物は泡を噴いて気絶しました。無事だったのは魔力の波動の耐性訓練を受けた魔物だけですが……」

「そいつは……とんでもない代物だね」

「はい!!この魔除けの石を活用すればどんな危険地帯でも魔物に襲われる事はなく進める事が出来ます!!仮にケモノ王国へと繋がる牙路を通るとしても、この魔除けの石を所持していれば牙竜に襲われる心配もないでしょう!!」

「…………」



興奮気味に話す魔大臣に対してミームは俯き、とんでもない内容を知らせられてしまった。つまり、その魔除けの石を使用すれば牙路を通過する事が出来るという事は、ケモノ王国の軍勢が山脈を越えずにヒトノ帝国への領地の侵攻が可能である事を証明する証拠となってしまう。



(国境付近の城が落ちた理由、それがこの魔除けの石を利用してケモノ王国の軍勢が牙路を通過して攻め寄せたと勘違いされれば……陛下は間違いなく戦を仕掛けるだろう。この事は何としても知られるわけにはいかない)



ミームは周囲の様子を観察し、誰にも見られていない事を確認すると彼女は魔大臣の肩を掴み、この件は誰にも報告しないように忠告した。



「おい、魔除けの石の件は陛下への報告はしていないだろうね!?」

「えっ!?それはまだですが……」

「よし、ならこの件はしばらくは私に預からせてもらうよ。私が戻るまでは誰にも魔除けの石の調査結果は伝えるんじゃないよ」

「そんな、これは正規の大発見なんですぞ!?この魔除けの石を解析して量産化すればもう魔物に襲われる心配はなくなるのに……」

「いいから誰にも話すな!!分かったね!?」

「は、はい!!」



魔大臣はミームに怒鳴られると怯えた様子で承諾し、この件は誰にも話さない事を誓う。ミームはこれで厄介事を事前に封じる事が出来たと判断すると、彼女はその場を離れて急いで捜索隊の編成を行い、帝都を離れる事を決める。


もしも魔除けの石の件が皇帝に知られた場合、皇帝は捜索隊の調査など打ち切ってケモノ王国への侵攻を開始する恐れがある。それを考慮してミームは皇帝が動くよりも早く二人の手がかりを掴むために行動を開始した。





――だが、そんな二人のやり取りを隠れて見る人間が存在した。その人間は二人の話を聞いて驚き、すぐにその場を立ち去った――

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