第531話 皇帝の激怒

――数日後、帝都の元には連絡が届く。その内容はケモノ王国の国境付近に存在する城が落とされ、更には使者として送り込まれたアリシアとシュンが行方不明、同行していた兵士達は矢で射抜かれて死亡したという報告を耳にした皇帝は激しく怒り狂う。



「おのれぇっ!!よくも儂の大切なアリシアを……許さん!!許さんぞケモノ王国めぇっ!!」

「皇帝陛下、落ち着いて下さい!!」

「これが落ち着いていられるか!!」



報告を耳にした瞬間、皇帝は怒りのあまりに暴れ狂い、それを帝国の将軍であるミームが止めようとするが彼女に対して皇帝は傍に置いていたグラスを投げつける。グラスを頭に叩きつけられたミームは怯み、頭に血が流れるがそれでも皇帝を落ち着かせようとする。



「陛下、お気を確かに!!まだお二人が死んだとは限りません、すぐに捜索隊を派遣しましょう!!」

「ぐううっ……アリシア、アリシアぁああっ……!!」

「嘘だろ、シュンの奴が……」

「アリシアちゃんにシュン君が行方不明なんて……」



アリシアとシュンが姿を消した事に関しては茂も雛も動揺を隠せず、二人も呆然としていた。それは他の大臣や将軍も同じであり、特に皇帝の取り乱しようは酷い。


皇帝は誰よりも可愛がっていたアリシアが行方不明となった事、更には国境付近の城が全て陥落したという事実から彼はケモノ王国がヒトノ帝国に対して侵攻を開始したと判断した。



「許さん、絶対に許さんぞ……お前達、すぐに戦の準備を整えろ!!我々はこれより、ケモノ王国へ向けて侵攻する!!」

「陛下!?お気を確かに……まだケモノ王国の仕業とは限らないんですよ!?」

「何を言うか!!報告によれば獣人兵の死体が見つかったそうではないか!!」



報告書には落とされた城には獣人兵の死体が多数発見され、この事から皇帝はケモノ王国の軍勢が国境を越えて城を落としたと判断した。しかし、その報告に対してミームはどうしても疑問を抱かずにはいられなかった。



「獣人兵の死体が発見されたといっても、問題はどうやって短期間に複数の城が落とされたかを先に調べるべきでしょう!!仮にケモノ王国が大軍を率いて我が国の領地に攻め寄せようとしているのなら、こちらも動向ぐらいは事前に掴めたはず!!しかし、そのような報告は届いていないんですよ!!」

「だが、現実に城は落ちているではないか!!」

「いや、山脈に存在するケン城だけは無事です!!あの城は国境の最重要地点、この城を落とさない限りはそもそもケモノ王国の軍勢は我が国の領地へ乗り込む事も出来ない!!」



国境付近に存在する小城は陥落したが、山脈に存在する「ケン城」という城だけは被害はなかった。このケン城が存在する限りはケモノ王国は軍勢を率いても帝国の領地に侵入する事も出来ないはずである。


しかし、ケン城からの連絡によるとケモノ王国の軍勢が出現したという報告は届いておらず、落とされた城に関してもケモノ王国の軍勢は滞在しておらず、何故か城を跡形もなく破壊した状態で放置していた。



「落とされた城の被害状況はあたしも確認したが、おかしな点が多い。まず、城の城壁の殆どが破壊され、黒焦げと化していた。この事から敵は魔術師を大量に動員したのは間違いないんですが、ケモノ王国には魔術兵は我が国と違って少数しか存在しないはず……」

「何、どういう意味だ!?では、ケモノ王国以外の勢力が我が国に攻めてきたというのか!?それこそ有り得んわ、巨人国も和国も我が国と争う理由はない!!」

「ぐぅっ!?」



ミームの言葉を聞いても興奮した皇帝は怒りを抑えきれず、彼女の頬を叩く。その様子を見て流石に他の家臣たちも止めようとしたが、そんな彼等をミームは静止して皇帝に言葉を続ける。



「まだ他にも不可解な点は残ってるんです!!仮にケモノ王国の軍勢が攻め寄せてきたのならばどうして城を破壊する必要があるんですか!?王国の目的が我が国への進行ならばわざわざ落とした城を破壊する理由がない!!それにアリシア皇女とシュン殿を誘拐したのがケモノ王国ならば、今頃はなんらかの要求が届いているはずですよ!!」

「ぬうっ……!!」

「陛下、まずは落ち着いて下さい!!もしも我が国が軍隊を動かせばケモノ王国との戦争は避けきれない。まだ国内に魔王軍の問題が残っている状況で無暗に軍勢を動かすのは危険過ぎる!!」

「私もそう思います!!」

「陛下、ここはミーム将軍の言葉が正しいかと……」



皇帝はミームの言葉を聞いて表情を険しくさせるが、ミームとしても迂闊に大群を動かすのだけは何としても止めなければならなかった。他の将軍や大臣も賛同するが、大切なアリシアが行方不明になった皇帝は落ち着いていられるはずがなく、ミームに命令を下す。



「ならばミームよ、お前に二週間だけ時を与える!!それまでに捜索隊を組織し、何としてもアリシアと勇者を見つけ出せ!!もしもそれが出来なければ軍勢を派遣し、ケモノ王国へ攻め寄せる!!」

「……はっ!!必ずやあたしが二人を救い出します!!」



皇帝の命令にミームは逆らう事が出来ず、彼女は二週間以内に二人を見つけ出さなければ戦争が勃発するという重圧に冷や汗を流しながらも命令を承った。



(……とんでもない事になったね、これも魔王軍あんたらの仕業かい……くそがっ!!)



ミームは表面上は冷静さを保ちながらも内心では怒りで煮えくり返り、彼女にとってはアリシアは大切な愛弟子であり、実の娘の様に可愛がっていた相手でもある。必ずや

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