第530話 魔王軍最高幹部
『馬車の中の御二人、出てきなさい。そんな場所に隠れていても仕方がないでしょう?』
外側から女性の声が掛けられ、その声を耳にしたアリシアとシュンは顔を見合わせる。敵の言葉に従う義理もないが、だからといって馬車に立て籠もった所でどうにもならない。
敵の攻撃を警戒しながらも二人は馬車の扉を開くと、そこには大量の弓兵が待ち構えていた。そして兵士の姿を見たアリシアは驚き、全員がケモノ王国の兵士の格好をしていた。
「ケモノ王国の獣人兵……!?」
「まさか、ケモノ王国が攻めてきた……!?」
「馬鹿な、あり得ません!!いったい何者ですか!!」
弓兵がケモノ王国の兵士の格好をしているのを見てシュンはケモノ王国が攻めてきたのかと思ったが、そんな情報などアリシアの耳には入っていない。そもそもケモノ王国とヒトノ帝国の国境には3つの城が存在し、仮にケモノ王国の軍隊が攻めてきた場合はすぐに連絡が届く仕組みになっている。
「お前達は何者ですか!!何故、ケモノ王国の兵士のふりをするのです!?」
『…………』
アリシアの問いかけに対して獣人兵は不適な笑みを浮かべるだけで何も言い返さず、弓を構える。その姿を見てアリシアは苛立ち、一方でシュンの方は武器を構えた。
(相手の数は……100人はいるな。それにあの城の様子を見てもきっと魔術師がいるはず、そうでなければ城があんな風に無残に破壊されるはずがない)
シュンはボウ城の様子を確認し、どのような攻められ方をされたのかは不明だが、城壁のあちこちが破壊され、よくよく観察すると形を保っている城壁も黒焦げと化していた。
これだけの人数の兵士では城を破壊するなど有り得ず、まだ仲間が隠れているのかあるいは砲撃魔法を扱える「魔術師」が潜伏しているとしか考えられない。弓兵だけならばアリシアとシュンだけでもどうにかなるかもしれないが、問題なのは魔術師が何処に隠れているかである。
「お前達は何者ですか!!質問に答えなさい!!」
「ふふふ、気の強い娘ね。この状況でもまだ降参するつもりはないのかしら?」
「貴女は……!?」
先ほどの馬車から聞こえてきた声が上空から響き、アリシアとシュンは驚いて振り返ると、そこには背中に翼を生やした女性が浮かんでいた。最初にそれを見たアリシアは「
「バッド、降りなさい」
「キキキッ……!!」
「蝙蝠型の魔物……!?」
「ま、魔物?」
女性が地上へと降り立つと、背中に張り付いていた羽根の部分だけが妙に大きい蝙蝠が背中から剥がれる。その様子を見てアリシアは驚き、シュンも初めて見る魔物に戸惑う。
アリシアは魔物に関する知識は詳しいが、女性に付き従う蝙蝠のような魔物には見覚えがない。一方でシュンの方は蝙蝠型の魔物を従える女性に嫌な予感を浮かべ、勇者としての本能がこの女から逃げろと告げていた。
「初めまして、アリシア姫……それに勇者様?」
「私達の事は知っているという事は……魔王軍ですか」
「魔王軍最高幹部、魔物使いのジョカ……以後、お見知りおきを」
魔王軍の最高幹部を名乗るジョカという女性に対してアリシアとシュンは衝撃を受けた表情を浮かべ、そんな二人に対してジョカは天を眺めると、黒雲に雷が走っているのを確認し、笑みを浮かべる。
「それじゃあ、早速で悪いんだけど……二人とも、ここで死んでもらうわ」
「なっ!?」
「何を言って……あれは!?」
ジョカが天に指差した瞬間、雷雲の中から巨大な生物が顔を表し、それを目にした二人は唖然とする。この世界の竜種は基本的には西洋の「ドラゴン」のような姿形をしているが、雷雲を纏いながら姿を現したのは東洋の「龍」のような姿形をしていた。
龍は姿を現すと電流を全身から迸らせ、地上に存在するアリシアとシュンに視線を向ける。そして二人に対して口元を開くと、それを見たシュンは反射的にアリシアを庇うように前に出た。
「アリシアさん!!危ない!!」
「シュン殿!?」
「無駄よ、雷龍ボルテクスの一撃を受け止めきれる人間なんて存在しないわ」
――オォオオオオオッ……!!
次の瞬間、雷龍の口元から一筋の雷が放たれ、アリシアとシュンの身体を飲み込む。雷が降り注いだ地面は大穴が誕生し、その様子を見届けたジョカはあまりの光景に目を逸らし、やがて雷が消え去ると残されたのは巨大なクレーターだけであった。
雷龍ボルテクスはて役目を終えた瞬間に雷雲の中に姿を消し、やがて空が晴れていくと完全に姿を消してしまう。そして残されたジョカはクレーターに視線を向け、二人の姿が見えない事を確認すると獣人兵に視線を向け、命令を与える。
「撤退するわ……適当に死体を残しておきなさい」
「はっ!!」
獣人兵に偽装した兵士達はジョカの命令に従い、即座に行動に移す。一方でジョカの方は勇者であるシュンと厄介な皇女を始末できた事を喜び、二人の死を知った皇帝がどのような反応を示すのかが楽しみだった――
――ジョカ達が立ち去った後、黒焦げの大地から人間の腕が突き出す。その腕は必死に地中の中に埋まった肉体を引きずり出すと、全身に酷い火傷を負いながらも生き延びたシュンが姿を現す。
「あり、しあ……」
地面に身体が半分も埋もれた状態でありながらもシュンはアリシアの姿を探し、意識が朦朧しながらも彼は地面を掘り返し、アリシアを探し続けた。そして彼がアリシアが下げていたペンダントの残骸が落ちている事に気付き、二つに割れたハートのような形をしたペンダントを見て嘆く。
「うう、ああっ……ああああっ……!!」
勇者であったからこそ生き延びたシュンだったが、二つに割れたペンダントを手にして彼は嘆き悲しみ、その場に倒れた――
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